内閣参与?の初仕事
その頃、日本海側から上陸した工作員を追跡中の各チームへ本社から情報が届いた。
それは公安が、北の国の国内支部で監視下に置いていた重要な職員を、統合幕僚監部直下の情報作戦部のとある班が"任意"で同行して頂き、一晩掛けて"自発的"に聞き出した、工作員の最終目標地点だった。
福井県から上陸したチームは昼間の道頓堀~大阪城の間。
山口県から上陸したチームは博多の中洲周辺。
いずれも最も人出が多い出勤時間または、昼休みの時間に人混みの中で謎の保存容器の解放を手助けするよう指令を受けて動いているという内容だった。
『九州方面は、関門橋を封鎖。新幹線及び山陽本線は駅で運行を停止し、トンネルは徒歩での通過を防ぐため、出入口を厳重封鎖とする。
大阪と京都には警察が主要道路の検問、陸自から連絡員を各検問所へ派遣。
京都、大阪市内の巡回にフル装備の人員と車両を出せるだけ出して発見に全力であたる。
発見した工作員の対応は陸自の秘匿部隊が対応するので、逃げられても追跡不要、即時報告のみに徹する事とする』
以上、各関係各所に通達が出された。
上陸地点から目標地点の間でおきた車両盗難報告やNシステムを利用して上陸地区のナンバー車両を重点的に絞った結果、博多方面を目指した工作員たちは下関で断念、その後広島方面へ目標を変更したもようとの速報が本部へ届いた。
大阪方面はNシステムで不審な車両を発見、京都をおおきく迂回して、大阪府内まで侵入されたもようとこちらも速報で入ってきた。
市ヶ谷では各スタッフが三交代で二十四時間緊張を強いられていた。
護衛艦いずもの臨時指揮所には、博多方面、大阪方面は、おおまかな進行状況が知らされる程度で、東京都内の対応に専念している。
佐藤俊夫は、総理の隣にデスクをひとつ宛がわれ、とりあえず座って忙しそうな指揮所内をぼんやり見ていた。
「まあ素人がでしゃばるとろくなことにならないから、母さんに内緒で撮影した、雑居ビルからヨットまでの脱出動画の編集でもするかな」
ポケットからスマホを取り出して、注意喚起を兼ねて簡単な編集で済むショート動画を一本まとめた。
「タイトルは、"2026年に戻ってきたら、東京でもゾンビに遭遇してしまった!"で決まりだな」
「エンドロールに、"あの1996年のハワイと違って日本の政府はまだ機能を失っていません!出入口を封鎖して、建物内に立て籠もっていれば、必ず救出に行きます!みなさん耐えて待ちましょう!"これで良いな」
佐藤俊夫は出来上がったショート動画をアップした。
その時点で、このショート動画がどれだけの人の命を救ったか、佐藤俊夫(六十歳、自称ミリオタで内閣参与?)が知るのはもう少し先だった。
お台場に繋がるレインボーブリッジが中央付近で40ftコンテナで塞がれている。
しかも二基使って斜めに塞ぎ、橋の欄干部分をそぎ落とし、ゾンビが集団で押し寄せて来ても海へ落ちるしかない状態で設置されていた。
既に侵入していたゾンビは陸自の隊員によって、減らされ、テレビ局の解放までもう一息のところまで来ている。
橋の封鎖部隊は墨田川に掛かる築地大橋、勝鬨橋、佃大橋と封鎖し、順次上流に掛かる橋の封鎖を進めて行った。
コンテナを落とし、隙間を潰し、ゾンビが通れなくして、取りあえず撤収。
人工島の解放が済めば、封鎖の監視に少数は配置させる予定だ。
「あの~、今現在、どこまで抑え込んでますか?」
隣に座っている高橋総理に聞いてみた。
「そうねぇ、南は多摩川で二子玉川あたり?そこから246沿いに都心に向かい、環七がそのまま最終防衛線として荒川までですね。荒川の橋は河口からそこまで既に封鎖完了しています」
「ゾンビの先頭は......、統幕長、ちょっと良いかしら?」
「はい、なんでしょう」
「ゾンビの先頭はどこまで来ているの?」
「最前線という事なら、西側は中央線より北側にはまだ入っていませんから、新宿から山手線に沿って上野から浅草辺りまで線を引いて、その内側でしょうか」
「それと、市ヶ谷は既に溢れているそうです」
「墨田川は千住あたりで荒川と接続しているあたりまで橋の封鎖がほぼ済んでいます」
「と言う事は、墨田区と江東区の解放は早そうですね」
「はい、そう願いたい所です」
「素早い対応ですね」
「佐藤さんから米軍にもたらされた情報を元に、初期対応手順書を事前に自衛隊、警察関係に配布しておきました」
「その配布が間に合っていてよかったです」
「配布完了してすぐに開封命令を出すとは思いも寄らなかったですが」
「開封命令?」
「その初期対応手順書は、最高機密扱いでした。事が起こる前に内容が世間に知れたら、内閣が倒れます!」
「高橋さなえ総理ご乱心とかで」
「はぁ、そうですよね、こんな状況誰にも想像できませんよね」
「なので、感染後に発症者が出るまで開封命令を出せなかったのです。悔しく思っていますが」
「私も当時、マジか!と思いましたし、今でもファンタジーの世界に居るような気持ちです」
「それでも、貴方は切り抜けて、日本に戻って来られました」
「まあそうなんですけど、私自身、若返って気力、体力も充実していたのもあるんですかね」
「そ、それです!若返るとそんなに違うものだったんですか!」
「そうですね、何と言っても走れましたから!」
「六十歳のままだったらハレクラニから逃げる事も出来ませんでしたね」
「それは......なんというか羨ましいです!私も三十とは言わないけれど、その半分でも歳を戻したいですね、ふふふ」
「いやあ、高橋さなえ総理は今のままでも充分魅力的ですよ!あはは」
「あはは、人妻を口説かないでくださいね!」
「あ、いやいや」
「あはは、冗談ですよ」
「ですよね~」
「ところで、ちょっと気になる所があるんですが......」
「はい、なんでしょう?」
「何となくですが、ゾンビの数が少ないように感じませんか?」
「それは、多くの人々が建物内で立て籠もって生き残ってるということになりませんか?」
「そうですね!早急にテレビ局を確保して、国民に向けて救助を待てば必ず助かると知らせたいです!」
「ちょっと待ってくださいね」
「はい?」
佐藤俊夫は持って来たバッグから愛用のノートPCを取り出し、自分のYouTubeチャンネルに接続しコメント欄を眺めた。
「待って。これソルティさんがずっと話してたゾンビじゃないの?」
「総理がゾンビって言った……?」
「え、あのハワイ動画、AIじゃなくて、マジだったってこと?」
「品川の映像見たけど、ハワイの動画と動きが同じじゃん……」
「今まで半分ネタだと思ってた自分を殴りたい」
「ハワイ編でソルティさんが言ってた『ゾンビは走らない』って、品川の映像でも本当にそうだ」
「動画の中で言ってた、建物に籠もる・入口を閉めるって対応、総理も同じこと言ってるぞ」
「これ、AIで作ったんじゃなかったんだ……」
「ソルティさん新作上げてる場合かよ!」
「いや待て、この脱出動画、今の東京じゃん!」
「これ見た。みんなマジで建物から出るな」
「東京で何が起きてるか分からない人、とりあえずソルティさんの新作見て」
「『2026年に戻ってきたら、東京でもゾンビに遭遇してしまった!』だと?」
「タイトル軽すぎるだろ!」
「いや内容が洒落になってない」
「これ、東京脱出の実録映像じゃん」
「最後まで見ろ。最後のメッセージ大事」
「"あの1996年のハワイと違って日本の政府はまだ機能を失っていません!出入口を封鎖して、建物内に立て籠もっていれば、必ず救出に行きます!みなさん耐えて待ちましょう!"」
「ソルティさんの過去動画、今のうちに全部見直した方がいい」
『緊急告知!本日ソルティシュガーチャンネルにて緊急ライブ!超豪華ゲストは高橋さなえ内閣総理大臣、緊急出演!』
動画のコメント欄と内閣公式Xに広報担当からポストされた爆弾が炸裂した。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう




