YouTube動画の裏側では
翌朝七時、課長が荷物を抱えてヨットを訪ねて来た。
「佐藤さん、お借りした物を返しに来ました」
護衛の三人に選ばせた銃器が、弾薬と共にデッキのテーブルに並べられた。
「昨晩、念入りにメンテナンスしておきました」
「え、もういいんですか?なんならこのまま使ってくれてて良いんですよ!家族の護衛に役立ててください」
「いえ、このヨットと共に我々の装備も受け取って来てますから大丈夫です」
「え、それは......MP7ですか?」
「そうですね、我々の護衛時の標準装備ですね」
「サプレッサーは?」
「勿論基本装備です、市街地戦を想定してますから、特別に亜音速弾を使用していて、音もほとんど響きません」
「ちょ、ちょっとだけ見せて頂くことは......」
「それは無理です!」
「無理なんですが、まあ良いでしょう」
「マジですかあ!」
「あはは、良いですけど、佐藤さんのMP5SD6の方が特殊でさらに調達価格も高額なんですよ」
「そうなんですか?たまたま拾った物だったんですけど......」
「普通に拾えるモノではないですねぇ、ちなみにどこで拾われたんですか?」
「えぇっと、ハワイのカネオヘ海兵隊基地に、本土返送品の試作品とか最新機種の試験目的やらが詰め込まれたコンテナの扉がなぜか開いていて、なぜか落ちていたんで、それを拾いました!あははは」
「他の銃器もそうです。知り合った海軍のジェニファー中佐っていう、ほぼ神みたいな女性にねだって頂いた物もありますよ!羨ましいですか?えへへ」
課長は平社員に装備を着けて出てくるように言いつけて戻って来た。
平社員に続き、主任も装備を纏って出て来た。
「取りあえず、フル装備で来ましたが、どうしたんです?」
「佐藤さん、どうですか?」
「上着の中に隠せるんですね!しかもハンドガンも」
「ゴリマッチョのSEALsだと隠しきれなそうですね、ははは」
「我々は街中に溶け込んで目立たない様にしなければいけませんから」
「まあ、彼らは半分威嚇する目的も兼ねますからね」
「まさにそうでした!射撃を教えてくれてたSEALsのメディックさんもゴリゴリの髭もじゃでした、でも優しくて面白かったですよ」
「ワイキキを脱出後に、海兵隊の元フォースリーコンの現場指揮官だった人と仲良くなって、一緒に行動してましたし、SEALsのみんなも途中から一緒に行動する事になって、大変お世話になりましたね」
「SEALsのチームを顎で使ってましたし、彼らも信頼してましたね」
「へえ、どんな任務でした?聞かせてくださいよ~」
一番年齢の若い平社員が興味津々で聞いて来たので、嬉しくなって話が止まらなくなってしまった。
「そんなに俺の武勇伝が聞きたいですぅ?しょうがないなあ、ぐふふ」
「時系列が前後しますが、動画の第一弾でワイキキから脱出する動画の次の次ですかね、アラモアナショッピングセンターで買い物するショート動画観ましたか?あれが最初だったんですよ」
「ショッピングセンターから戻って来て、ついでだからワイキキの動画を撮りに行く事になって、俺の辿った行程を再現してみたんですが、最後の最後に跳弾がガラスのウインドウを派手に割ってしまって逃げ出すのに大変な思いをしましたよ。あはは」
「あの時のチームがSEALsのブラボーチームとフォースリーコンの指揮官だったので、安心して着いていけました」
「「「......」」」
誰にも言えない部隊の班員は声が出せず聞き入る事しか出来なかった。
「あの、最後に逃げる途中に俺もこのMP5で応戦してゾンビを近寄らせずに逃げたんです!褒めてくださいよ~」
「す、凄いっす」
平社員が上ずりながらそれだけ答えた。
彼らも動画のすべてを観ているのだが撮影の裏側を聞けば聞くほどその時の凄まじさが伝わって来て身震いする思いだった。
彼らは基本対人戦の訓練しかしてきておらず、未知の怪物相手の戦闘は未経験だった。
せいぜい雑居ビルの二階から狙撃や、遠くのゾンビを狙撃した程度しか経験していなかったのだ。
「あ、それと、動画を撮りだしたのは向こうの世界に着いてから一ヵ月以上後からですから、動画になっていない部分も沢山有りますよ」
「今思えば、最初から動画撮っておけば良かったなあと悔しく思ってます!YouTube的にですけど」
「あのう、と言う事は、最初にワイキキに着いた時には御一人だったって事ですよね?」
「まあそうですね、騒動が始まる前でしたから、ハレクラニでお昼食べてましたね。冷えたビールとシーフードのランチ的な?オマールは伊勢海老の方がやっぱり美味しかったですね」
「しかも全部食べ切る前にあいつらが現れましたから、それも残念でした、せめて食べ終わってから出て来てほしかったです。はい」
「で、そこからおひとりでワイキキの街中を逃げ回って?」
「そうですね、途中でひっくり返ったハンビーのそばでM4を見つけまして、もうこれは俺が拾うしかないだろうと言う事で手に入れました」
「そして、ホテル街の外れのガンショップまで逃げて来て、そこで一夜を明かしましたよ」
「そこでまたグリップが鹿の角?で出来た良い感じの1911が落ちていたんです!これは拾うしか無いでしょう?って事で手に入れました」
「夜があけたら、店舗の表側にはゾンビがみっちり張り付いていたので、裏口からこっそりと抜け出して運河まで逃げたんです」
「やつらはせいぜい早歩き程度のスピードしか出せず、走れませんでしたから、落ち着いて逃げる事が出来ました」
「で、運河に着いてカヌーでヨットハーバーまで辿り着いたら俺の勝ちだと信じてたんですが、カヌーは出払ってて、放置してあったロングボードで運河を下り自分のヨットに辿り着いたんです」
「で、ヨットに戻れた時に、気が付いたんです」
「どこのマリーナも桟橋の入口は鍵が掛かってるんです」
「そして、入れない様にしてあるから、奴らに見つかってもそのゲートを突破できずに海に雪崩れ込むしか無かったんです」
「やつら考える頭が無いですから、岸壁からでも躊躇せずに一歩を踏み出してくるんですよ」
「目の前の同胞が落ちても構わず踏み出してきますから、次々と海へ流れ込みます」
「その時の集団は最後の一匹も踏み出して来て海にドボンです」
「なので、ヨットに辿り着いてからは、拾ったコーラで一息つきながらゆっくり準備してハワイ島へ向かう事にしました」
「なかなか凄い経験しましたね、あはは」
「凄い経験って......。それ、凄まじい経験ですよ!」
「そ、そうですよね!もっと言ってください!ぐひひ」
「その後、ハワイ島のコナ空港の南にあったマリーナに入ったんですが......」
聞こえて来たブラックホークの爆音が、今度は盛ろうと思ってた武勇伝を中断させた。
「もうこんな時間なんですね」
「これからが良いところだったんですが、残念ながらこの続きはまた今度です」
「「「ふぅ......」」」
最重要人物の凄まじい経験を聞かされた三人は、ヘリに乗り込む佐藤俊夫を敬礼で見送った。
「どこ行くの?」
「このヘリは護衛艦いずもへ向かっており、そこで高橋さなえ総理がお待ちになっております」
またまた帰れなくなりそうな予感が......
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう




