内閣参与になりました
佐藤俊夫たちが夢の島マリーナへ着く頃には夕日が沈みかけていた。
マリーナの水路に入り、一番遠い桟橋に接岸した。
護衛の三人は、一旦ヨットを降りてマリーナの施設内の偵察へ出て行った。
見える範囲は静かな物だった。
さすがは東京のど真ん中のマリーナだけあって、豪華クルーザーが目立つ。
ソルたち家族が七人分の夕食の準備を終えた頃、施設内の偵察に出掛けていた護衛三人が戻って来た。
セキュリティがしっかりしていて、一般人は施設内に入る事が出来ず、フェンスの外側でまばらに揺れてる程度だったらしい。
主任がポケットから嬉しそうに獲物のキーを取り出してソルに見せた。
レクサスのキーだった。
「クラブハウスに落ちてたので、拾ってきました」
「落ちてる訳無いでしょ!」
「いやぁ、なぜか金庫が開いていて、なぜかこのレクサスのボートのキーがそこに落ちていたんですよ」
「新型なので体験会とかの為にここに係留してあったみたいです」
「ほうほう、なぜそのような事情までご存じで?」
「いや、その金庫に取説と共にパンフレット?も一緒にあったので、それも拾ってきました......」
「それで、俺に共犯になれと?」
「まあ早い話がそうです!あはは」
「まだ個人のオーナーじゃないなら良いか......」
「お前達、めしは待ってくれるか?ちょっとボートをこっちに持ってくる」
しばらくすると、佐藤俊夫の操船する豪華クルーザーLY680が近づいてきて、佐藤家のヨットの隣に接岸し係留した。
「父さん、凄い高そうだよ!」
「そりゃあ、高いさ、たしか六億くらいするそうだ」
「......」
全員無言だった。
「それじゃあ、晩御飯は向こうの超豪華クルーザーで食べ......」
母さんと雪乃はすでに夕食を隣へ運びだしていた。
「お父さんはお茶のペットボトルとコップを持ってきてね」
「は、い......」
「父さん良い感じに使われてるね」
拓哉に笑われてしまった。
護衛の三人も女性陣の勢いに何も言えずにその場を動けなかった。
「皆さんも突っ立ってないで、こちらへどうぞ」
「ど、どうも。おじゃまします」
母さんは、アフトデッキのテーブルに夕食をテキパキと並べていた。
「まるで自分のクルーザーみたいな感じだね」
拓哉が耳元で囁いた。
「まあ良いじゃないか。寝るのはあっちのヨットだから今だけな」
食後のコーヒーを飲みながら護衛の三人から、今、どんな状況なのかを聞いた。
「先ほど、最新の状況報告が入りまして、首相官邸が閉鎖され、総理、閣僚を含むスタッフから出入り業者、清掃係まですべて、一時的に皇居へ移動されまして、陛下に謁見、現状報告を済ませて、総理が主要スタッフとともに護衛艦いずもへ移られました」
「副総理、防衛大臣、その他の閣僚は、市ヶ谷の総司令部へ明日朝移動します」
「スタッフその他は環七の防衛ラインの外側まで避難の予定です」
「今日はかなり忙しかったようです」
「でしょうね」
「俺たちはのんびり東京湾クルージングしながらここまで来ましたけど、総理が最前線まで出て来るものなんですか?普通」
「佐藤さんから得た報告を元に、防衛省が初期対処手順を検討した内容を、機密手順書として自衛隊、警察関係に配布してありましたので、今はそれに従って行動しているところです」
「え、それじゃあ俺たちがここでのんびりしてて良いんですか?」
「作戦内容は知りませんが、邪魔になったりしませんかねぇ?」
「明日以降、東京湾の人工島への接続を順次封鎖して、島内の掃討を始めるそうです」
「第一目標はお台場ですね、フジテレビを早期に確保して国民への情報発信が最優先と考えているそうです」
「ここへ来る途中、いずもを見かけましたよ、海ほたるの辺りでしたけど」
「今は、いずもがお台場の国際ターミナル埠頭に接岸してるはずです。おおすみ、ようこうは品川埠頭に接岸中です」
「明日朝からLCACに96式と共に掃討部隊を乗せて上陸予定です」
「ほうほう、橋の封鎖なら、港に放置されてる空のコンテナをヘリで吊り下げて橋を塞ぐように横向きに降ろせば簡単そうですね」
「バリケードを築くとかではなく?」
「だって面倒臭いじゃないですか!」
「幸い、港にはコンテナと言う資材が余ってるんですからね」
「ブラックホークでも、20ftコンテナだったら吊り下げ出来ましたから、結構利用してましたよ」
「それと、コンテナの設置場所は橋の中央辺りに斜めに置いて欄干を外すか壊しておくと、押し寄せるゾンビは勝手に海に落ちていきますけどね」
「......」
「おい、至急本社に報告だ!重要人物・佐藤氏の提案だと忘れずにな」
主任が無線を持ってキャビンの奥へ消えて行った。
「それなら最優先で総理まで伝わりそうですね!」
「父さん、いつの間にそんな重要人物になったの?」
「知らん、総理とは世間話したくらいなんだ、若返ったところは面白がってたな」
「その気持ちは判るわ~」
母さんがボソッと呟いた。
そこへ、本社への連絡を終わらせた主任が戻って来た。
「佐藤さん、夢の島マリーナでのんびり生活の予定が無くなりました!」
「え、やっぱり邪魔だった?」
「いえ、ご家族はここでのんびりして頂いて構いません、我々がこのまま護衛に付きますし」
「佐藤さんには、高橋さなえ総理より内閣参与としてご協力頂けないかと......」
「ふぇ?」
飲みかけていたコーヒーを噴き出しかけた。
「明日朝、八時にヘリが迎えに来るそうです」
「ここへ?」
「はい、ここへです」
「あの~、日本に帰って来てからジェットコースターに乗ってる気分なんですけど......」
「そうですね、知ってます。あはは」
「もう六十歳の後期高齢者ですよ!ゆっくり老後の余生を......」
「後期高齢者は七十五歳からです」
「バレましたか......あはは」
「高橋さなえ総理は六十五歳ですが、バリバリ現役です」
「そうなんですよね......知ってました」
「諦めてもうしばらくご協力をお願いします」
「そうですよ、お父さん。みなさんに頼りにされてるうちが華ですよ」
「父さんカッコイイ~」
「そうだよ!父さんスーパーヒーローみたいじゃん!」
「そ、そうかあ?うひひ」
「わかりました、微力ながらご協力させて頂きます!」
「父さん、相変わらずおだてるとすぐに落ちるよね」
「そうなのよねぇ......」
雪乃の言い様に、母さんがため息交じりに頷いた。
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