ようやくヨットを取り戻した
第二部始まりました!
雑居ビルを出た俺たちは、主任を先頭に、平社員、俺(佐藤俊夫・六十歳)、母さん、雪乃、拓哉、課長の順に並び、静かに浜離宮を目指して進んだ。
俺は、胸の辺りにスマホを固定して内緒で撮影を始めた。
(バレたら母さんに怒られそうだった)
新橋五丁目の信号を東へ曲がり浜離宮庭園入口の信号まで来たので、右に回り、歩道の水路側を歩く様に指示し進む。
汐留ポンプ場が見えてきたので、柵を乗り越え、中へ入った。
そこまでにも二十以上のゾンビを遠くで倒しながらだ。
なかなかの腕のサラリーマンだった。
顔は機密扱いなので、編集でモザイクを掛けておこう。
「案外少なかったですね」
柵の中に入って少し安心したのか、主任が小声で話しかけて来た。
「第一波は生存者を追い掛けて行くので、今だけは落ち着いてますね」
「もう少しすると第二波がここら辺りに溜まりますよ」
「そうですか、なら急ぎますか?」
「いや、ペースはこのままで」
「この施設は道路から入れないので同じペースで進みましょう」
「了解です」
ポンプ場は静かだった。
首相の放送を観たのだろうか、人気は無かった。
汐留川水門が見えて来た。
桟橋には少し大きなガラス張りの観光船二隻が繋がれていた。
すぐにでも乗り込みたいが、その前に広い駐車スペースを横切らないと行けない。
「ここから見える範囲を掃除してください」
「私が船のエンジンを掛けてきます」
「エンジンが掛かったら全員ダッシュで来てくださいね」
「は、はい!」
ポンプ場の角から主任と平社員が狙撃体勢で掃除を始めた。
課長は後方警戒中だ。
動くモノが居なくなった。
「では行ってきます」
「父さん!」
「大丈夫だ!」
「父さん、今は若くないけど走れるの?」
「だ、大丈夫だ!......たぶんな」
そう言い残して小走りに桟橋を目指した。
遠くで何度かヒトが倒れる音がしたが、気にせずに走った。
辿り着いた観光船はキーが刺さったままだった。
「ラッキー!」
(息が上がっていた)
エンジンを始動させ、外へ出て手を振った。
全員ダッシュして来た。
視界の端の駐車場入り口の方から、こちらに気が付いたゾンビの集団がゆっくり迫って来る。
俺は、MP5SDを膝立ちで構え、よく狙って先頭のゾンビを撃った。
当たらない。
当たらない。
三度目でヘッドショットが決まった!
次を狙う。
今度は一発目で当たった!
シューティングレンジで鍛えてくれたSEALsのメンバーに感謝だ!
全員が辿り着いて、家族が先に乗り込んだ。
俺も乗り込み操舵席に着いた。
最後に課長が舫いを解いて乗り込み、ドアを閉じた。
俺はゆっくりバックで桟橋を離れた。
「なんとかなったなぁ」
「第二波だな、震源地付近のビルや地下に入って広がったヤツだな」
「だから、生存者を追い掛けていった後に、時間差で溢れてくる」
「そいつらが溢れだしたらあのビルから出るのも一苦労だったな」
「そ、そんなところで留守番させるつもりだったの?」
「父さん、酷~い!」
「あははは」
「そんときはまた、別の方法で迎えに来るつもりだったよ」
「ホントかなあ......」
「当然だ!あはは......」
ガラス張りの船は水門を抜けて竹芝桟橋を過ぎ、レインボーブリッジをくぐって右に転舵、左に港湾局の小さなボート用の浮き桟橋があった。
一本だけマストが見える。
「あそこか?」
「そうだ」
空いてる桟橋に無理やり接岸し、周囲を観察した。
ここは大丈夫そうだ。
「ここは、一般人は入れない様になってるからな」
「なら、落ち着いて俺のヨットに移ろう」
「ちょっとここの責任者と話してくる」
「あ、キー貰ってきて~」
「ああ、わかった」
課長と主任が建物の中へ入っていった。
俺はキャビンに入ってバッテリースイッチをON。
その他のパネルスイッチも順に入れて行った。
「さ、さ、入って!」
「「「ふぅ~」」」
キャビンのソファーに座った家族三人が、揃って一息ついた。
「父さん、何か飲む物ってある?」
「そう言えば、飲み物は水しかないんだった」
「ちょっと待ってろ、何か貰ってくる」
建物の中に自販機とかあるだろう。
中に入って探していると、奥から課長と主任と、ここの責任者みたいな感じの人が出て来た。
「貴方が佐藤さんですね」
「ええ、まあ、はい」
「これがヨットのキーです。燃料は満タンにしておきました」
「それは、ありがとうございます」
「それと、これもお渡ししておきましょう」
防水のダッフルバックをひとつ渡された。
「非常食が入っています」
「え、いいんですか?」
「どうぞどうぞ」
課長と主任も両手に重そうなバッグをぶら下げている。
「あ、あの~、自販機はありますか?あはは」
「自販機ですか?こちらです」
「今は災害時ですから、すべて無料ですよ」
「至れり尽くせりですね!あはは」
「港湾局の人間は既に避難済みです」
「私は港湾局とは別の職員ですから、貴方のヨットを引き渡すまでは残ってました」
「話は伺っています。貴方のおかげで早期に対応する事が出来ました」
「今後のご活躍をお祈りいたします」
「あはは、なんか就活のお祈りメールみたいですね!」
「あはは、そうですね、では気を付て」
謎の職員はさっさと引っ込んでいった。
「重そうですね?」
「まあ、そうですね、いろいろ入ってますから」
「お~い、飲み物買って来たぞ~」
「さあ、乗って乗って」
「やっと戻って来れた!」
エンジンを始動させ、桟橋を離れた。
目指すは夢の島マリーナだ。
一旦お台場を南進み、羽田沖まで行って令和島を回って若洲ゴルフリンクスを左に見ながら北上、首都高をくぐって左の水路を入って行くと、夢の島マリーナだ。
のんびり機走で進んでも三時間も掛からないだろう。
「お~い。みんな、外の方が気持ちいいぞ~」
三人ともキャビンから出て来てコックピットに座った。
「ホント、風が気持ちいいわね」
「このヨット久しぶりに乗ったわね」
「そうだな、お前たちも久しぶりだろう?」
「俺は父さんが出発する前に乗せてもらった以来かな」
「私は春に魚釣りで乗ったかな」
「おお、アジが大漁だったな」
「そうね、捌くのが大変だったわ、フフフ」
「ヤマモト食品の方々は本社との連絡はとれてますか?」
「中でゆっくり相談してください」
「それではお言葉に甘えさせて頂きます」
三人がキャビンに降りて行った。
難しい話は任せて、久々の家族とのセーリングを楽しむ事にした。
羽田空港は静かだった。
いつもなら離発着がひっきりなしなのだが......
令和島を回る時、海ほたるの方向に巨大な艦艇がこちらに向かってくるのが見えた。
護衛艦いずもだった。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう。




