アノ班とは別の班と出撃!
胡散臭い会社員たちもこの状況は想定外だっただろう。
「一階のドアは全部ロックしてきました」
「ここのガラスドアは強化ガラスなんで抜かれる事はないです」
「ねえ、父さんはこんな世界で生き延びてきたの?」
「ん~、まあそうだな。ワイキキはもっと凄かったぞ!」
「あ~観た観た!廻りからも囲まれつつギリギリで運河に飛び込んだ奴?」
「いやあ、あの時は正直びびったわ。あはは」
「あ、そうだ動画撮っておこうかな」
「お父さん!何言ってんの!バカじゃないの!」
「そうか?でも、ほら」
「あなた、いい加減にしなさいね」
「お、おう」
「じゃあ、まずは昼飯でも食うか?」
「このビルに入って来られないなら今のところ大丈夫だろ?」
「なにかありますかねえ?」
「いや、とくに備蓄食料は......」
「だめだなあ、『こんなこともあろうかと』って諺があるだろう、ちょっと待ってて」
佐藤俊夫は押収品の中から置いて行こうと思ってた保存食の入った防水バッグを引っ張り出して、ジッパーを開けた。
「これこれ」
入っていたのは米軍のMRE各種だった。
「このチキンのシチューが美味しいんだよ」
「おまえたちも好きな物選んでいいぞ」
「1996年製だけどな」
「......」
「え~っと、給湯室はどこかな?」
「君たちも遠慮せずに選んでくれたまえ!フフフ」
陸自・特戦群から選抜され、さらに厳しい訓練をこなしてきた精鋭中の精鋭たちからリクルートされた、もうひとつの別の班。
諜報戦ではなく、市街地戦特化型殲滅班の彼らだったが、この定年退職した民間人には勝てないと思えて来た。
身体的にではなく、もっと根源的なところで負けていた。
ゾンビの波の中でさえ平然と昼飯の世話をして美味そうにレーションを食べ、バカ話でみなを和ませるなど、自分達にはできない。
最重要人物だけの事はあるんだと三人は納得した。
「ところで、俺のヨットはどこへ回航したんです?」
「え~っと、言いにくいんですが、品川です!」
「爆心地?」
「そうなりますかねぇ」
「ちょっと待って」
スマホを取り出し、マップアプリを出して見せた。
「で、どこ?」
「え~っと、ここですね」
「港南から処分場へ渡る橋の北だな」
「ここもうちの協力施設なんです」
「そうなんだ、回航して持ってきてくれるって聞いたんだけど」
「浜離宮まで持ってきてくれると、ありがたいんだけど」
「少し歩くのはオマケしてあげます」
「いやあ、我々は佐藤さんとご家族の護衛ですから船を取りに行くのはちょっと......無理ですね!」
「え~、総理にチクっちゃおうかなぁ~」
「はぁ?」
「それとももう一人の大佐?みたいな人も居たよね?」
「どの軍隊も大佐は神ですもんね!大佐にチクります!」
「そんな小学生みたいな事言わないで下さいよ」
「アメリカンジョークですよ、本場で鍛えられましたから。あはは」
「配達が無理なら取りに行けば良いんですよ。営業所止めってやつですね」
「簡単な事です」
「「「簡単?」」」
「浜離宮まではすぐですよね?」
「外見てください、かなり落ち着いてないですか?」
「今ならステルスで行けますって!」
「静かに、近づいてきそうなゾンビだけサプレッサー付きの、最小の音で倒しながら浜離宮まで行ければ、ボートなんていくらでもあるじゃないですか?それを頂いて、品川まで水路を行けばすぐですよ」
「ね、簡単でしょ?」
「ただし!絶対に音を立てない!」
「たとえお約束でも、空き缶蹴るなんてもってのほかです!」
「お前たちはここで待ってるか?」
「父さんは、この、怪しげな会社員三人とヨットを引き取りに行ってくるが」
「ここで待ってるなんて嫌だよ」
「私も無理!」
「母さんはついて行ってあげようかしら」
「よし、それじゃあ、装備を整えるか」
佐藤俊夫は押収品をまた広げだした。
その中でも目を引いたのが、現役SEALsのメディックさんから直々に頂いた部隊章やら略章やらが沢山付いたモノホンの戦闘服だった。
「上陸する時はこれを着ろってくれたんだよ」
佐藤俊夫はその戦闘服を着始めた。
「これ本物っぽいね」
「ここに名前が貼ってあるだろう」
「その本人が着ていた本物だ。部隊章も略章も全部な」
「ヨコスカでも驚いてたな。海軍の偉い人が、この人の部下だったとか」
「動画で試射してた人?」
「そう!凄い腕前だったろう!SEALsのチームで一番らしいぞ」
「へえ~凄い人と一緒に戦ってたんだね」
「でも、チーム全員、自分が一番だと思ってるさ、きっと」
「拓哉はこのリネンのジャケットと、下は淡いピンクのTシャツに着替えろ。
それに、ショルダーホルスターにブレン・テンだなやっぱり......あとM4だな」
「おお、カッコイイ」
「あ、もうこの際、銃も良いですよね?」
「あ、非常時の特例と言う事で何とかします。はい」
「父さんは使い慣れたMP5SD6と1911でいいか。使わないけど」
「え、それ使わないんです?」
「めったに使わないですよ、当たらないですから、あはは」
「お父さん!私は?」
「雪乃は、父さんのカーゴパンツに履き替えなさい!」
「スカートなんて許しません!」
「上はそのままデニムジャケットでいいか」
「で、これだなP90と......、このUSPコンパクト。これ握り易くて撃ちやすくて、当てやすいらしい」
「母さんは......」
「私はこれでいいわ!」
母はサージカルテープが巻かれたボートフックを迷わず掴み取った!
(なぜかここにあった)
「おお、それは魔剣マサムネじゃないか!」
「なかなか見る目があるなあ」
「あの~俺たちも良いですかね、これしか持ってきてなかったもので......」
「交代で来る連中ならMP7も装備して、弾薬もたっぷりなんですけど」
三人ともFSP9と予備マガジン二本だけの通常装備だった。
「MP7欲しかったんですが、向こうではまだ開発も始まって無かったんですよね」
「1996年までで手に入った物ですが、好きな物選んでください」
佐藤俊夫のコレクションは、ほぼすべてサプレッサーが装着できる様に加工されているし、サプレッサーも作って貰っていた。
ゾンビ溢れる世界では必須だった。
まずは主任がAKS74Uを持った。
平社員はSA58PARA(試作テスト中)を。
課長は悩んだ末、ルガーミニ14タクティカルを持った。
さすが課長はいいセンスをしている。
このモデルは、ピストルグリップになってて、M4と同様に扱える5.56mm銃なのだ
三人ともサプレッサーを装着した。
「それでは、先に警護担当の三人には窓から表通りの掃除をして貰いましょう」
「静かにお願いします」
「そうですね、見える範囲でいいですね?」
平社員はM40A1試作を。
主任はFR-F2を。
課長はそのままミニ14で。
三人は、なるべく広範囲が見通せるポジションで掃除を始めた。
さすが、誰にも言えない班のベテランだ、淡々とヘッドショットで処理していく。
窓から見える範囲に動くモノは無くなった。
ゴリマッチョなSEALsとは違い、街に溶け込むDeltaみたいな雰囲気がする。
三人は銃を持ち換えて、バックパックには動きの邪魔にならない程度の弾薬を紙箱のまま仕舞いこんだ。
量販店のスーツが絶妙に似合っている......高級スーツではこの味は出せない。
押収品の残りは、しばらくこの奥の保管庫に預けておいて、必ず引き取りにこよう。
「これから、浜離宮まで行って、ボートを手に入れ、品川に留めてあるらしい父さんのヨットを回収しに行く」
「その後、ヨットで夢の島のマリーナまで水路を通って行き、そこでしばらく様子を見る」
「なんなら、そこのマリーナを確保してのんびりするのも良いな」
「こちらの"ヤマモト食品のサラリーマン三人"がゾンビ共を綺麗に片付けてくれるから、お前たちは絶対に発砲禁止だ!」
「それと、音を一切出すなよ!声も、咳もくしゃみもだ。」
「それさえ守ってれば、大丈夫だ!父さんが実証して来た」
「安心しろ!この御三方が付いている!」
佐藤俊夫六十歳は全員を見回した。
どうやら全員覚悟は決まったようだ。
「よし、行こう!」
出入り口のドアを蹴り開けて七人は表通りの最前線に飛び出していった!
これまで読んで頂き感謝しております。
本当にありがとうございました。
そして、そろそろ第二部を始めようと思います。
もうしばらくお待ちください。




