ラフレシアが咲いた!
今日は、佐藤俊夫がいよいよ解放される日だった。
新橋の雑居ビルの、二階のワンフロア。
ヤマモト食品東京支社のプレートが掛けらえている。
そのオフィスの会議室のテーブルの上には押収品が並べられていた。
「こんなにあったんだ~」
「いらない物は捨ててっていいんですか?」
「う~ん、まあこっちで処分しておこう、普通は全部返すものなんだが」
「まあまあ」
仕分けを始めたところへ家族から"着いた"と連絡が入った。
平社員役の若い人が迎えに行ってくれた。
「父さん、レンタカー屋でハイエース借りて来たよ」
「折角だからスーパーGLにした!」
「普通の白いバンで良かったのに」
「だってさ、四人乗るんだよ!乗り心地良い方がいいじゃん」
「まあ、金ならあるからな!がはは」
「すべて確認できたらこの書類にハンコお願いしますね」
「はい、これで完了です」
「長い間お疲れ様でした。それでですね、本日から佐藤さん家族には警護が付きます」
「へ?」
「総理じきじきの命令なんで、文句は総理に言ってください」
「え、父さん高橋さなえ総理と知り合いだったの?」
「どこで知り合ったの?」
「もしかして、昔付き合ってたとか?」
「彼女だったの?」
「年上の彼女なんだ」
「あなた!そうだったの?私聞いてませんけど!」
「一緒に取った写真とかある?インスタに上げていい?」
「ストップ!」
「あ~、いいですか?この押収品を車に積み終わる頃には警護の人員が五名来ます」
「我々はここで交代します」
なにかありましたらこちらにご連絡ください。
名刺には"ヤマモト食品東京支社 総務部福利厚生課課長山田一郎"とあった。
どう見ても怪しい、胡散臭さまんまん......ま、いいけど。
「では山田さん、お世話になり......」
「なんか外が騒がしくなってませんか?」
ここで、時間は少々遡って昨日の早朝。
在日米軍総司令部に第一報が入った。
日本、韓国、台湾に北の国から工作員が送られた模様。
例のウイルスの可能性大。
弾道ミサイルへの搭載は阻止できた。
工作員での持ち出しは阻止できず。
台湾へは海上で阻止。
韓国国内では追跡殲滅できた。
日本海では六割阻止できたが残り十数名が追跡不能。
関東方面が目標の可能性大。
警戒されたし。
在日米軍すべてに警報がだされた。
陸上の基地は固く門を閉ざし、M2が設置された。
海上に浮かぶ艦艇はすべて離岸し、陸との距離を取った。
基地の街は物々しい空気に包まれていった。
その情報は夜になって官邸にもたらされた。
「全閣僚を官邸に集めてちょうだい!」
「理由は......そうね、米軍が何かおかしな事になってるから......かしら?」
「ダメね、なんかない?」
「何でも良いからでっち上げて集めて!」
「嫌な予感がするのよね」
謎のウイルスがばらまかれて感染者がゾンビにならない限り開封命令が出せない!
高橋総理は悶々としながら官邸で一夜を明かした。
防衛省から至急電が入った。
『新潟で工作員を確認、投降を促すも銃撃戦となり、応戦、鎮圧に成功。対象物は確保』
「一等陸佐の部隊ね。なかなかやるわね!」
「誰にも言えない部隊ではあるけれど」
『関越で発見、追跡するも埼玉県内で車両を破棄、追跡不能。
『時間的に都内へ侵入されたもよう』
「不味いわね」
午前十時十分、その誰にも言えない部隊の追跡班から連絡が入った。
「ラフレシアが咲いた!ラフレシアが咲いた!」
絶望的な内容だった。
「品川で工作員を補足、戦闘となり、その際ウイルスが撒かれ、即退避。その後現場に近づけず、化学防護車の出動を要請」
「ああ、ついに始まってしまったのね......」
「荒唐無稽なファンタジー小説だったらどんなに良かったか......」
「官房長官、防衛大臣、開封命令を至急出してちょうだい」
「すでに出しました!」
「よしっ、最小限に抑え込むわよ!」
「総理、テレビ中継の準備が整いました!」
「今行くわ!」
その間にもSNSでは生々しいゾンビの映像が流れ出していた。
その勢いはタイムラインを埋め尽くす勢いだった。
高橋さなえ内閣総理大臣がテレビで国民に呼びかける。
「国民のみなさま、現在、品川付近で発生いたしました、謎のウイルス感染でございますが、感染後、凶暴化する事が確認されております。国民のみなさまにおかれましては、自宅から出ない様、戸締りをしっかりとして頂きたく思います。重ねて申し上げますが、決して外出されませんようお願い申し上げます」
報道陣からの質問が煩いほどだったが、次の一言で皆黙り込んだ。
「報道陣の皆様も、すぐにご自宅に帰って家族を安心させてあげてくださいな」
「総理!それ程の事態なんですか?総理~!」
「はい、それ程の事態でございます」
「それでは総理は今後の対応の指揮を執らねばなりませんので、会見は以上です」
「おい、マジかよ」
「相当ヤバそうだって話だぞ」
「俺、結婚したばかりだから帰るわ!」
「俺もそうしよ」
「総理~誹謗中傷動画の件ですが~」
「SNS観たろう?あいつは真っ先に食われるさ、ほっとけ!」
ここで冒頭に戻ってきました。
「では山田さん、お世話に......」
「なんか外が騒がしくなってませんか?」
「あっちゃ~、人が人に噛みついてますよ!主任」
「ちょっと待て」
課長が本社に電話を掛けている。
中々繋がらない。
今度はちゃんとした本部だった。
「あの~福利厚生課の山田ですが......」
「少々お待ちを」
「なんだ、今、猛烈に忙しい!」
「それがですね、佐藤さんに押収品の返還をして交代要員を待ってるんですが、このビルの表が例のゾンビで溢れてるんですよ」
「待て、新橋のビルだな」
「そうです」
「もうそこまで広がったのか」
「けっこうマズイ感じです」
「だろうな、品川で例のウイルスがばらまかれた」
「うちの追跡班が補足して始末したが、間に合わなかったようだ」
「それじゃあ、発生源は品川って事ですね」
「時間は?」
「報告では十時十分だったらしい」
「ここまで到達するのは早すぎますね」
佐藤俊夫が口をはさんで来た。
「噛まれて直ぐに車で逃げ出したんじゃないですか?」
「それで、このあたりで力尽きて、一気に広がった?」
「う~ん、だったらもっと遠くでも広がるかもしれんぞ!」
「それと、品川ですよね?新幹線に乗られてたら大変じゃないですか?」
「!!!」
「おい!誰かJRに連絡しろ~新幹線止めろ!乗客に紛れ込んでたら飛んでもない事になるぞ!」
一等陸佐が受話器の向こうに大声で叫んだ!
「それで、やつらはどっちの方向に進んでる?」
「東方向ですね、スピードは歩く程度です」
「わかった、そのまま待機しててくれ」
「了解」
佐藤俊夫はまた帰れなくなった。
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