カネオヘへ向けて
俺は今、最高に興奮している。
あれから沖に泊めてある自分の船に送ってもらい、戦利品を移し終えた。
そして、テーブルやソファに広げられてる数々の銃を眺めている。
ゲームで使っていたアレだ。その本物が今、目の前に並んでいるのだ!
これが興奮せずに居られようか!
2026年から持ち込んだ『尾西のたきこみご飯』を頬張りながら、
幸せな時間に浸っていた。
『しかし、今回みたいな状況じゃ、大事な1911やM4も実戦投入するしかないかもしれないが……
いや、それは嫌だ。この世界へ来て最初に手に入れた記念の品だし、
今回手に入れたモノも大事な観賞用だ。写真もまだ撮ってないし……
傷付けたくないし、失くしたら泣く。
困ったなぁ……
そうだ、普段使いできそうなのを手に入れれば良いんだ。
何がいいかな……そこらに転がってそうな……失くしても気にならない感じので良いんだけど……
MP5とかなら地味だし、失くしても気にならないかも
ハンドガン系は……USPでジャックバウアー?グロックでFBI?……
ま、どっちも見付けたら拾っておこう。
どうせごろごろ転がってるだろうし。
次に狙うコレクション用なら……ん~ハンドガンに銃剣付けたヤツ……なんだっけ……まぁその内思い出すさ。
あ、アイスマンが使ってたのがM4だから、アルパチーノが使ってた……なんだっけ?……ま、これもその内思い出せばいいか。
それと、アレに出てたアレも良いな。敵側のアイツが使ってたアレも揃えなければ!』
自称ミリオタの妄想は止まらなかった。
(形は思い浮かぶが名前が思い出せなくなってきた60歳だった)
世界が終わりそうな時に、幸せな時間を過ごした翌朝。
またまたジョンの船で朝ごはんを頂いた。
今朝も肉だった。
そしてマカロニチーズもお手製だった。
リンゴやオレンジが吊るされたハンモックで揺れている。
もしゃもしゃとサラダを食べながらそこから真っ赤なリンゴを一つ取った。
ペティナイフを借りてリンゴをウサギの形に切って差し出すと、ゾーイは目をまん丸にした。
可愛すぎて食べられないよ~!ソルはシェフなの?
「日本のインペリアルホテルでスーシェフをしていたんだよ、レディ」
(口から出まかせが妙に細かくなっていた)
朝からゾーイはジョンにべったりだった。
昨日はかなり心配だったのだろう。
……まあ、この際、気分がちょっとでも晴れればそれで良いだろう。
食後のコーヒーはいつも本格的な味だった。
「キャサリンさんのコーヒー美味しいですね!」
「コナはコーヒー豆の産地だからね」
「それもあるけど、淹れ方が良いんですよね~」
「まぁ、嬉しいい事言ってくれるのね」
「あはは」
「それで、これからどうする?ここは軍の基地と言うより山側の演習場がメインだしな」
「他の基地に行って生き残りを探してみるか?」
「そうですねぇ、しばらくここハワイで過ごしてみるのも良いかもですね」
「日本には帰らなくていいのか?」
「いや、まぁ…慌てなくもいいかな……っと」
(日本に帰るとコレクションが……)
「俺が納得できるまでジョンに協力しますよ!」
「おまえ、良い事言った感出してるつもりだろうが、昨日のアレ見た後だからなぁ。日本じゃ手に入らねぇからなんだろ?」
「あはははは……」
(バレてた)
「まぁいいや、陸の上じゃアレだが、あの船にのったら年季の入ったベテランに見えるからな、大丈夫だろう」
「人生経験は人の倍くらい積んできた……気がしますからね」
「なんだそりゃ」
「ブラック企業っていう、栄養ドリンク飲ませて二十四時間働け~って感じの会社で鍛えられて来ましたからね!」
「まぁ六十年くらい生きてきた気分です、はい」
「すげえ国だな……オキナワはのんびりした良いとこだったが、他は違うのか……」
「トウキョウはそんなもんでしたね」
「そ、そうか、頑張ったんだな……」
「なので、しばらくお手伝いしますよ。てか、させて下さい!はい」
『実際、日本に帰ったらどうなるのか?元に戻って六十歳…まあいいけど』
(ゾンビまみれの世界より、若返って過去へ戻った方が気になる六十歳だった)
「オアフ島の東側にカネオヘって街があってな、海側に突き出したところ全部が海兵隊の基地になってるんだが、……そこへ行ってみるか?」
「いいですねぇ!行きましょ行きましょ!」
「返事が軽すぎる気がするが……まあいい、そうするか」
一旦自分の船に戻り、航路の確認と設定を済ませてジョンのところへ戻った。
「航路設定してきました。今から出ると早くて明日の夜には到着です」
「予定ではだいたい三十八時間。余裕見て四十時間程度ですかね」
2026年最新装備に死角なし!
電子海図とGPSで位置情報もすぐに出る。
航路設定もタッチパネルであっという間だ。
「いやぁ、最新の日本製装備は楽ですね~!すぐに終わっちゃいましたよ」
「いくら良い装備でも早過ぎだろう!まぁ俺の船は、今からだと……だいたい今日の夕方には着くと思うぞ」
「それじゃあ、先に出ますが、途中追い抜いて行ってください」
「抜かれても気にしませんから!」
「それ、気にしてるヤツのセリフだ」
「途中でガス欠してたら燃料分けてあげますよ」
(燃費マウントしかとれない)
そうは言ってもエンジン二基がけのクルーザーには速度で敵うはずもなかった。
ヒロを出て北西に向かうには、トレードウインド_貿易風が丁度いい感じだった。
舵はウインドベーンに任せて、写真撮影の為のポーズの研究に没頭していた。
綺麗な夕日が沈み、あたりが暗くなっても船は走り続ける。
この時代、AISは普及してない。レーダーだけ気を付けてれば大丈夫だろう。
二十分ごとに起きて周囲を確認、異常が無ければまた二十分の仮眠の繰り返し。
染み付いたシングルハンド長距離航海の手順だ。
(決して三十歳の社畜には、染み付く時間はないと思う六十歳だった)
一方ジョンは、追いかける形ではあるが、強力な推進力を使い、巡航速度二十ノットを保ったまま最短コースをひたすら走り続けた。
コース取りが違えば、互いの姿を見ることはない。
たぶん、どこかで追い抜いたんだろう。
「ふふ、まぁゆっくり来なさい」
(ジョンも大人げなかった)
夕暮れ時にカネオヘ海兵隊基地の沖でアンカーを落とした。
「今日はゆっくり寝て、明日ソルが来るまでに基地の様子を見回っておくか」
「ソルと出会ってから生き生きしてるわね!」
「そ、そうかぁ?」
「私、ソルのこと好きだよ。お爺ちゃんみたいで優しいもん」
「おい、お爺ちゃんはさすがに可哀そうだろ!」
(本気で可哀そうだとは思っていない)
「そうねぇ……私もお父さんと居るような気がする時があるわね」
ジョンは苦笑した。
「ま、変な日本人だな」
静かな海の上で家族の笑い声が広がっていた。
その頃俺は、まだ半分の距離も進んでなかった。うたた寝と風向きの確認、ウインドベーンの調整……。
たまに見上げる満天の夜空からは、星が零れ落ちてきそうだ。
この星空だけは日本では見られない。
そんな世界でも、俺のヨットは何事もなかったように黙々と海を進んでいく。




