日米防衛協力
ゾーイは振り向いて若いスタッフに尋ねた。
「ここに、YouTubeが観られるPCはありますか?」
「用意させよう」
「そのチャンネルの製作者とは話したことがあるわ」
「AIのモデルにしたいとかの話でか?」
「それ以外にもたくさん話したわ」
「準備が出来ました」
「とりあえず見てみよう」
「え~っと、......これですね」
「第一弾のタイトルは......」
『1996年のハワイの超高級ホテルでお昼を食べてたらゾンビが出てきたんだが......』
「これから始まったんです!」
全員、息を呑んで観はじめていた。
観終わっても誰も声を出せなかった。
「チャンネルでも説明されてるように、これは生成AIの限界に挑戦した動画です!って書いてあったので、みんなそう思ってました」
「でも、ある時に、動画の中の若い父が私のくたびれた縫いぐるみを持っていたんです」
「だれにも言ってなかったのに。製作者のソルティさんにも」
「なのに縫いぐるみを持って出るなんてAIでもありえません!」
「そこで、ソルティさんに詰め寄りました」
「それで話してくれたんです」
「自分は、2026年からヨットに乗って1996年に流れて来た」
「そして、年齢も30歳になってたと」
「動画の内容はすべて実写だとも言ってました」
「崩壊していくホノルルやハワイ島もゾンビも全部本物で、自分が体験している現実だと」
「ZOOMでも話しました」
「その時は、ソルティさんのご家族もハワイに来られて、戦艦ミズーリの前で全員ZOOMで話したんです」
「確かにライブ映像には1996年の戦艦ミズーリが映ってました」
「ご家族の方達も驚いていました」
「もうそれを見せられたら信じるしかなかったです」
そこへ、解析班から至急確認して欲しいとの連絡が入った。
「そ、それでは今日のところはこれくらいにしましょう」
「またニ、三日中にお呼び立てする事になりそうですが、その際は宜しくお願いします」
「あ、あのう......ソルティさんと話せないでしょうか?」
「そうですねぇ、十分程度なら」
「それで結構です」
ゾーイは強引に面会をもぎ取った。
「ハーイ、元気にして......た......?」
「お、ゾーイじゃないか、日本に来てたのか?」
「貴方のせいでここに呼び出されたわ!」
「軍用機で手錠掛けられて?」
「いいえ、JALで羽田。高級車で送迎付きよ!」
「なんだ、VIP待遇じゃないか!俺とは全然違うなあ。あはは」
「それより、本当におじいちゃんだったのね!」
「そう言ったじゃないか!」
「でも実際に見るとあらためて実感するわねぇ」
「ZOOMで見た時とは全然違うし!あはは」
「笑い過ぎだ!あはは」
「それでね、父さんと母さんも招待されて来てるのよねぇ」
「家族旅行ってわけだな、羨ましい限りだ」
「父さんたちとも会ってみる?」
「ジョンに会うなら......」
ポケットの中にコインがあるのは判っていた。
「そうだな、一度ご挨拶くらいしておくか」
「父さん、母さん、入って!」
「ジョンです」
「キャサリンです」
「初めまして、佐藤俊夫と申します」
ジョンもキャサリンさんも面影がそのままだった。
「向こうの世界では、大変お世話になっておりました」
「そうなのか?」
「それで、ハワイを発つ日にこれを頂きました」
掌にはジョンのチャレンジコインが乗っていた。
「こ、これは......」
「間違いなくおれのコインだ。しかし、これは他のモノと一緒に額に入れて家に飾ってあったはずだ!」
「でも間違いじゃないんですよね?」
「間違えるはずは無い!ここにあるキズは俺が現場で付けたものだ」
キャサリンさんは後ろで微笑んでるだけだった。
「あ、ちょっと待っててください」
佐藤俊夫は、テーブルの上のお菓子の包み紙を丁寧に広げて折り紙の鶴を折って、キャサリンさんに渡した。
「キャサリンさんに最初にプレゼントしたものです。向こうの世界で」
「あらあら、まあまあ、素敵ね、魔法使いみたい」
「向こうの世界でも同じセリフを聞きましたよ!ははは」
「あらそうなの。ふふふ」
面会は十分を大幅に超えていたが、それを指摘する者はここにはいなかった。
ジョン一家はまたアルファードに乗って都内の高級ホテルへ戻った。
「不思議な話だったわねぇ、ジョン」
「まったくだ」
「私はもっと前からだけど、頭から湯気が出ていたわ!」
「まぁ、しばらくは日本観光を楽しみましょう」
「そうだな」
「良いわねぇ、軍持ちなんだからパー~っといきましょ!」
ジョン一家を送り出した後も、横田の作戦室では困惑が広がっただけだった。
すべての動画が検証された、何度も何度も。
それと合わせて佐藤俊夫の証言も突き合わされて、どの様に広がっていったのか。
さらに、ゾンビの生態や弱点といったところも検証されていく。
作戦が失敗した場合のシミュレーションに限りなく近い結果だった事も確認された。
ただ一つ違う点といえば、彼の存在だった。
発生初期に走れない事、水に入れない事を見抜き、無傷でワイキキを生き延びてハワイ島へ脱出して見せた。
訓練を受けた軍人ではなく、ごく普通の民間人なのにである。
集団化すると恐ろしい存在にも拘らず、あまりにも簡単に倒して見せた。
彼はゾンビ共を必要以上に恐れていない様に見えるのだった。
早い段階で通信手段を復活させて見せた知見の深さ。
発生からわずか三か月でハワイ全土の復興の道筋を作り上げた。
全員、彼の処遇に頭を抱えた。
1995年の作戦には続きがあって、ジョン達現場の人間には知らされてないが、その後の監視は続けられていたのだった。
その監視が、つい最近途絶えてしまっていることも。
もしも、監視の目を逃れた北の国が早々に研究を再開し、同じものを作り出さないとも限らない。
これは、我々だけで抱え込むには荷が重い。
「防衛省に連絡を」
「ただちに」
荒唐無稽な話だったが、今後は事実として扱う事に決まった。
一時間後、横田に一台の白いプロボックスが入って来た。
降り立ったのは三人、出入り業者が営業に訪れたように見えた。
案内されるまま会議室へ通された。
「こちらでお待ちください」
そこは、地下三階、作戦室に続く会議室だ。
決して商談に使われる部屋ではなかった。
「早かったですね、一佐」
「いやいや、我々に定時はありませんからね」
「急な案件にも、二十四時間対応させて頂いておりますよ」
「それで、日米防衛協力案件と伺いましたが」
「まずはこちらの資料と、動画をご覧ください」
「......で、どうでしたか?」
「個人的には信じ難いですが、我々は、どんなモノで真実として動きますよ」
「北の国から、この原因がばらまかれた時の対処法を、日米で共有したいと考えます」
「それも早急にです!」
「現在得ている情報のすべてを共有して頂けると?」
「そのつもりです」
「それと関連して、こちらの家族に便宜をはかり、護衛を付けて頂きたいのです」
「ああ、例のヨットに武器を満載してヨコスカに突撃?してきた動画作成者ですね」
「どこまでご存じで?」
「三十代だったはずですが、六十代だとは知りませんでした」
「目立たないように?」
「目立たないようにです」
「しかし確実に」
「わかりました」
「うちに最適な部隊がありますのでお任せください」
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