ようやく日本に辿り着いたが......
しかし暇だ。
朝起きて、ビスケットを齧りながらコーヒーを飲む。
BGMは、YouTubeから流れる2026年の曲だ。
船尾から流している仕掛けには、たまにカマスサワラかマグロの子供が釣れた。
が、食べ切れない......
そうこうして二週間が過ぎた。
あとニ、三日で因縁の日付変更線を過ぎる。
気にしないようにしていても、気になる。
いよいよその時が近づいて来た。
今回も夜中だった。
GPSが経度180°を越えた。
なにも起きなかった......
「そう都合よくは行かないよなあ」
力が抜けてそのまま眠った。
翌朝は、緊張が解けたせいかドッと疲れが出て起きられなかった。
「たまにはベッドでぐだぐだ過ごそう......」
そのまま昼頃までベッドで過ごした。
急にアラームが鳴った。
A.I.S.のアラームだった。
「ん?A.I.S.のアラーム?」
頭がまだ回っていない......
「なぜ?A.I.S.?」
慌てて飛び起きた。
視界に入って来たその腕は、日に焼けて皺も多かった......
鏡を見たら六十歳の顔だった。
三か月ちょっと前まで鏡で見ていた顔だった。
『戻った!......のか?』
GPSもスターリンクも電子海図もすべて2026年だった。
一番近いのはマーシャル諸島だ。
近くまで行って、VHFを試してみよう。
普通に繋がった。入港するのか聞かれたが、断った。
こうなったら急いで日本だ!
すぐに、LINEで家族グループに知らせた。
『いま、ヨットで日本に向かってる』
『2026年に戻れた』
『あと、二十日程度で戻れると思う』
それだけ送った。
既読が付くまでが長い。
俺には『読んだのかどうなのかいつもわからない!』って怒るのに、自分達だって......そう考えてたら笑えて来た。
そうだ、本当に帰って来れたんだ!
コックピットに出て、360°見回しても海しか見えない。
遠くの空にカツオドリが飛んでた。
だんだん近づいてきて、ソーラーパネルに着地した。
「お前は何年生まれだ?」
バカな事も聞いてみた。
小笠原が見えて来た。
青ヶ島が見えて来た。
八丈島......伊豆諸島を通過した。
伊豆大島を通過するころ気が付いた......
気付いてしまった!
「このままじゃ、武装した不審船じゃないか!」
「どうする?おれのコレクション......」
「あ、そういえば、パスポートのスタンプも1996年だったわ!」
「ん~......」
(六十歳の頭脳は回転も遅くなっていた)
「アメリカ軍を頼ろう!」
「それしか無い!」
(海に投棄とは考えられない)
ソル(佐藤俊夫は)三浦半島を回り込んでアメリカ海軍のエリアへ舵を切った。
案の定、米軍のパトロール艇が出迎えてきた。
『ここは米軍のエリアです。これ以上は進めません』
近づいて来たので、接舷させてほしいと頼んだ。
そこで臨検となり、事情を話して、武装をすべて見せた。
乗り込んで来た全員に緊張が走った!
桟橋には警備の人員が集まって来て物々しい雰囲気だった。
佐藤俊夫はそのままテロリストとして連行され拘束された。
「やれやれ、これが普通だよなぁ」
横須賀の海軍司令部の衝撃は大きかった。
銃や弾薬を積み込んだヨットが海軍基地へ突っ込んで来たのだ!
(正確には自首なのだが)
押収した武器弾薬はもちろん、ヨット自体も徹底的に調べられた。
一週間後、取り調べが始まった。
「貴方は誰ですか?」
「私は佐藤俊夫、六十歳です」
「ご職業は?」
「定年退職しておりまして、現在は無職です」
「このパスポートなんですが、なぜ1996年のハワイでの入国となっているのですか?しかも、出国のスタンプが無い」
「それはですねぇ......」
「誓って本当の事を話しますので、最後まで聞いてから質問して頂けますか?」
「いいでしょう、どうぞ」
佐藤俊夫はこれまでのいきさつを包み隠さずすべて話した。
「う~ん、信じられんが、あなたのヨットに積まれていた物は、すべて真実だと物語っています......」
取り調べ担当者の後ろで聞いていた偉そうな階級の士官が尋ねた。
「この書類、誰が、誰に宛てた物か知っていますか?」
「これですね、これは、フォード島でマット海軍中尉に書いて貰いました」
「宛先は、横須賀に居る上官だと聞いています。このバッジはその上官から直接頂いた物だと」
「う~ん、なかなか複雑だな。たぶん、私がそのマットだ。書類のサインも私のものだし、なによりこのバッジだ。あなたの言う通りの経緯で頂いた物に間違いないのだ......」
「それに、ジェニファー・コバヤシ大佐も良く知っている」
「私がお世話になった時は、ジェニファー・コバヤシ中佐でした」
「1996年ならそうだろう。その後大佐まで昇進して退役された」
「優しくて、涙もろくて、部下想いの良い中佐でした」
「私には厳しかったよ、部下想いな所は同意する」
「今日はここまでにしよう」
しかし解放はされなかった。
その後、佐藤俊夫は横田の総司令部へ移送された。
「なんか大変な事になってきたような......」
「ま、大丈夫でしょ」
この話は、横須賀だけでは収まらなかったのだ。
横田の総司令部。その地下にある作戦部で検討される事になっていった。
彼から聞いた内容は、1995年に実行された作戦が失敗した場合のシミュレーションとほぼ一致していたのだ。
その秘密作戦は、海兵隊フォースリーコンのチームによるものだった。
そのチームのリーダーが、佐藤俊夫の話に出てきたジョンなる元海兵隊員だったのだ。
佐藤俊夫の記憶では、ジョンは1995年以前に除隊していたという。
ところが、現在の記録を調べると、ジョンは2000年頃まで現役だった。
「つまり、そのジョンが1995年の作戦に参加して成功したから、今の平和な2026年があると言う事なのか......」
「そうすると歴史がふたつある、と言う事か......」
「さすがにそれは......」
「感情的には否定したいが、否定する事実が無い」
「ですね」
「その、ジョンと言う人物をここへ呼ぶしかなさそうだな」
「手配します」
こうして、ジョン、キャサリン、ゾーイの日本旅行が決まった。
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