動画の中の、くたびれたぬいぐるみ
第五弾の編集も進み、今はセリフに字幕を付けていた。
「ソル、晩御飯もうすぐ出来るって~、お父さんも間に合うって」
ゾーイが飛び込んで来た。
「ジョンが帰って来るんだね!すぐ行くって言っておいて」
「また映画観てる!」
「私もセーラームーン観た~い」
「セーラームーンか、有ったかなぁ、探してみるね」
「絶対だよ~」
ゾーイは嬉しそうに戻っていった。
「お母さ~ん、ソルがセーラームーン観せてくれるってぇ~」
遠くでゾーイがキャサリンさんに報告していた。
「ん~、初期のはラインナップから外れてるか......」
「あ、拓哉に中古DVDをアキバとかで買って来てもらって、ファイルをメール添付しても送ってもらえば......そんなこと出来るのか?」
「わからん、また今度だ!」
ノートPCを閉じてジョンの船に向かった。
夕食はレーションのトマトシチュー―に野菜を増量した、キャサリンさんお手製の季節の野菜たっぷり入ったチキンのトマト煮だ、美味そう。
ちょうどジョンも帰って来た。
「ただいま」
「おかえり」
「ゾーイ、約束のお土産だ。」
「わ、セーラームーンのルナだ!」
「パパ大好き!」
そう言いって、すぐにキャサリンさんに報告しに行った。
「ママ~、ルナだよ~......」
「ジョン、どこの父親も同じ。切ないものです......」
「お前、深いなぁ......」
「人生経験が長いですからねぇ......」
「何言ってやがる、まだ三十そこそこのくせに!」
「あっははは」
「で、どうでした?」
「まぁなんとかな」
「後は偉い方々に任せて逃げてきた。がはは」
「明日、少佐に報告するんだが、お前も......いやいい」
「はい、寝てます!......ははは」
ソルの胸ポケットからは、スマホのレンズが見えていた。
ヨットに戻り、LINEで拓哉に聞いてみた。
『出来る時に返事ください』
『初期のセーラームーンのDVDとか、アキバで中古買ってファイルだけこっちに送ることはできるかな?』
取りあえず、息子の拓哉に丸投げして、自分自身ホッとしたのか、ゾーイとの約束を聞いてみる。
なんか、間抜けなお願いに思えて笑えたが、そのまま送った。
仕事終わりにLINEを見た拓哉は、力が抜けた......
スーパーヒーローじゃなくて、いつもの父だった。
重大な秘密を俺に丸投げして、本人は気が楽になったな、ったく!
俺は母さんやお姉にどう説明しようか悩みまくってるのに......
『DVDにはコピーガードがされてるから無理!』
『ネトフリには無かったんだよね?』
『他の配信サービス探すから待ってて』
『おk』
なにが『おk』だよ......
拓哉は帰りの電車で検索してみた。
『東映アニメならアマプラで観れる』
『アマプラ契約してなかった?』
『同じ様な映画ばかりだったから、Netflixだけで良いかなと思って......あはは』
『じゃあ、契約するか』
『で、次の動画はいつ頃アップするの?』
『今、ハワイ島前編がもう仕上がる』
『字幕も朝までには入れ終わる』
『そっちの状況はどうなの?』
『判ってる生存者は一万弱ってとこだな』
『オアフ島の生存者は、ここの基地に八百人程度』
『パールハーバーの海軍基地に三千~四千』
『クルーズ船が三千五百くらい』
『昨日、陸軍の基地を開放したから、そこが三~四百くらいか』
『あと、ハワイ島に三百五十くらい』
『残りの島は少数の民間人とは連絡が取れてる』
『全然手が足りないから捜索や救助は少しずつだなぁ』
『ずいぶん減ったんだね』
『そうだなあ、今は考えるより生き残る事が最優先だな』
『父さんの話聞いてると、なんとかなりそうに思えてくる』
『まあ、父さんは日本人旅行者だからな』
『地元の人に頑張ってもらうしかない』
『日常生活もアップしてみるか』
『そうだね、その方が母さんも楽しめそう』
『今はそれでいい』
佐藤家では夕食の時間になり、LINEは終了した。
ソルはその後、撮り貯めた日常風景を編集しだした。
ジョンの家族との食事風景。
工房でのやり取り。
広がった生存区域内での伸びすぎた野菜の収穫。
アロハ姿でビーチでごろ寝。
平和な1996年のハワイも何本か仕上がった。
翌朝十時、日本時間午前五時。
第五弾が公開された。
『ハワイ島・深部強行偵察部隊24時!前編』
日本人の同行者(撮影者設定)がMP5SDで射撃練習を始める場面から始まった。
パラコードに引かれたペットボトルが標的だが中々当たらない。
反対側ではトローリングでシイラがヒットしていた。
コナのマリーナに上陸。
まばらに彷徨うゾンビは正確なヘッドショットで処理されていく。
どこかの家を訪ねる。
このチームのリーダーっぽい兵士の自宅のようだ。
想いでの品を回収していく。
くたびれた縫いぐるみも大事そうに回収する姿が切ない。
庭にはプールと揺れるヤシの木。
日本なら豪邸だ。
振り返り、全体を目に焼き付けて次の目的地へ。
雄大な火山地帯を走り抜け、パーカー牧場についた。
広大な牧場、全米屈指の規模らしい。
ワイメアの街では目に付いたゾンビは片っ端から処理していく。
さらに先へ進む、あたりは森林地帯に変る。
生存者と接触後、案内で集落へ。
広がる畑、瑞々しく光る農作物。
家畜小屋には、牛、羊、鶏たちが元気だ。
お土産の新鮮野菜を貰い、機械部品の予備パーツを渡す。
再会を約束し、次に目指すは軍の演習場。
マウナケアの麓を回り込む様に進んでいくと突然バリケードが現れた......
戦闘場面はあまり無かったが、ハワイ島の美しさは変わらなかった。
ミリオタには物足らなかったかも知れないが、1996年のハワイ島の再現度には、度肝を抜かれた者も多かった。
「ハワイ島きれいだな」
「戦闘シーン少なすぎ(笑)」
「シイラうまそう」
「オーマイゴーシュ、あの看板覚えてるぞ!」
「オー、私が小さい頃住んでた家がそのまま残ってる!」
「俺の家がまだ建てたばかりだ!」
「この店、まだこの頃は営業してたんだ!」
「この道路、今と全然違う!」
......
1996年のコナからワイメア、その先。
その再現度に驚き、懐かしく語りだす地元民。
そんな中、ただひとりだけは違う反応だった。
一行が訪れた家。
庭のプール。
その奥で揺れるヤシの木。
そして、若い父親が大事そうに持つ、くたびれた縫いぐるみ......
『これ、私の縫いぐるみだわ!』
三十五歳のゾーイが動画を観て固まった。
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