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ハワイ島で出会った親子

他の島はどんな状況なんだろう……。

ダイヤモンドヘッドを過ぎ、そのままモロカイ島へ向かう。


島影を抜けてカイウィ海峡へ出ると、北寄りの風が16ノットで吹いていた。

横から受ける大きな波に、艇が左右へ激しくロールする。

メインセールはワンポイントリーフ。

ジブは半分ほどファーリングした。

それでも軽快に走ってくれた。


海峡を抜け、モロカイ島南岸を順調に進む。

マウイ島、ラハイナの沖でアンカーを落としたのは午後七時頃だった。

海の上から見る夕日は美しかった。

今日は、ここで一泊する予定だ。


LEDの灯りは2026年の灯りだった。

ギャレーでレトルトの夕食を作り、冷えた缶ビールを飲む。

昨日から今日まで大変なことの連続だった。


「もしもの時に頼れるのはお前達だけだ!」

持ち込んだM4と1911を取り出し、マリン用のCRCで磨き上げた。

口元がニヤけ、幸せそうだった。

(マリン用CRCが銃に良いのか悪いのか本人は知らない)


翌朝早く目が覚めた。

歯ブラシを咥えながらシャワーを浴びた。

熱くはないが真水のシャワーだ。


さっぱりしてコックピットへ出た、ラハイナの街を双眼鏡で観察する。

ところどころ火の手が上がっていた。

2023年の山火事による大惨事とは違う。

だが、犠牲者の数は比べものにならないだろう。


上陸は諦めて沖合から全島を見てから今後の事を考えよう。

アンカーを引き上げ、ハワイ島を目指す。

南下してカホオラウエ島を躱し、コナをめざした。

今日も波は出てるがアビームで快調に走る


夕方にはコナ空港が見えてきた。

そのまま南下するとコナの街だ。

途中でそこそこの規模のマリーナが目に入った。

入口の水路にアンカーを落とし、ここで一晩すごそう。


翌朝もスッキリ目が覚めた。

(銃の手入れと得意げなポーズが幸せ過ぎた)


マリーナのまわりは荒野、人は少ないだろうと考え、寄ってみる事に。

予想通りガソリンスタンドが併設されている。

燃料はあまり減らないが、あるに越したことは無い。


接岸せずに慎重に様子を伺った。

桟橋の数に比べて船の数が少ない。

避難したのだろうか

ゾンビの数も少ない。


どうする?どうする……?

あの地獄のワイキキを無傷で切り抜けた俺に死角はないはず!

(一度成功すると調子に乗るタイプだった)


上陸して燃料の軽油とテンダー用のガソリンを回収しよう!

桟橋に繋ぐロープは長めにした。

引けば接岸し、ゆるめると離れる様に調節しておいた。

(逃げ道の確保だけはしっかりしている)


M4は持たない、1911も同じく持たない。

(汚したくなかった)

ボートフックとポリタンクを持って上陸だ!

ワイキキの桟橋で俺は学んだのだ!

桟橋の上でならこれ一本で俺は無敵だ!

(……)


無敵の桟橋の上で辺りを叩きまくり盛大に音を立てた。

パーキングエリアにいたゾンビたちが次々と桟橋に降りてきた。

だが、狭かった。

一体ずつしか来られない。


ふらつきながら歩いてくるので途中で落ちる奴もいた。

近づくヤツから引っ掛けて海へダイブさせていった。

最後のヤツを引っ掛けた時、引き摺られて自分も落ちてしまった。

慌てて泳ぎ、桟橋の縁につかまった時に気が付いた。

最強のボートフックはゾンビと共に海に消えたことを。


「仕方ない、勇者の剣も折れる事があるのだ」

悔しそうに呟きながら、ずぶ濡れのまま這い上がった。

「1911は装備してなくて良かった~」

(こっちが本心だろ)

「……俺の判断は正しかったな」

(そういう話ではない)


あらかたゾンビは片付いたので、濡れた服だけ着替えて上陸。

ポリタンクは両手に二本ぶら下げて岸壁の給油スタンドまで二往復。

(丸腰だった)


軽油三本、ガソリン一本。手動で給油できた。

軽油とガソリンを船に積み、残り二本を取りに戻ったところで遠くから車の音。

慌てて併設されていたダイビングショップに駆け込み様子を伺う。

ヨットで避難?脱出?を思いついたようだ。


『やあ、君たちも船で脱出かい?』

『実は俺もそうなんだ』

『そこの燃料は俺のものだからね』

『まあ、君たちも頑張ってくれたまえ』

『うるせえ! これでも食らいやがれ!』

――パンッ。

「……」

撃たれる未来しか見えなかった。


怖くなって、カウンターの裏でさらに小さく縮こまった。


ここはカウンターにショットガンをゴツッと置いて、

「どうした、若いの!金は持ってんだろうな?」

って凄む場面だ……


無理だった。

(正直でよろしい)


そんな妄想を繰り広げている間に、ピックアップが一台入って来た。

乗っていたのは家族連れだった。

若くもなく、無法者でもなかった。


父親は40代くらい、母親は30代後半?五歳くらいの娘がひとり。

「キャシー、急いで荷物を放り込んでくれ」

「わかった、ゾーイをお願いね」


男は右手に大きなダッフルバック、左手には女の子を抱えて桟橋へ急いだ。

母親の方は両手に食料の袋を抱えて着いて行った。

何往復しただろう、燃料のポリタンクに気が付いたようだ。

「ちっ、あわてて積み残していったのか、途中で襲われたのか……」

「まあいい、これも積んでいこう」

さらに空のポリタンクを用意して給油し始めた。


どうしよう……


『やあ、それは俺のなんだ』

『返してくれないか?』

『うるせえ! これでも食らいやがれ!』

――パンッ。

「……」


やっぱり撃たれる未来しか見えなかった。

なにも言えず、そのまま縮こまっていた。


キィ~、突然ドアが開かれ、バタバタと足音が駆け込んできた。

「ひぃ、終わった~」

「あっ」

「へっ?」

五歳くらいの女の子と六十歳(見かけは三十歳)の男が見つめ合ったまま固まっていた。


「勝手に船から飛び出しちゃダメじゃない…か…!」

と言いながら父親は店内へ入り、主人公を認識する。

その瞬間、

娘をそっと自分の後ろへ引き寄せた。

そして、

気が付けば右手にはハンドガンが握られていた。

「動いてくれるなよ」

あまりの素早さに声が出せず、何度も頷くだけで精いっぱいだった。

「パパ、おしっこ」

そのひと言でその場の緊張が少しだけ解けた。


「ゴメンナサイ、カクレテマシタ」

(日本人は取りあえずゴメンンサイから始まる)


こういう場合のセリフが思い浮かばず、正直に隠れていた事を白状した。

「お前、日本人だろ、俺には判る!」

「な、なんで判るんですか?」

「『ゴメンンサイ』から始まったからな」

「そ、そうなんですね」


「それに丸腰だ」

「銃は持ってます!」

「ねえじゃねえか?」

「ふ、船に仕舞ってあります、大切に……」


「おまえ、バカか!」

「普通はショットガンくらいは持ってるもんだぞ」

「でも、M4と1911持ってるんですよ!」

「それ仕舞ってあるんだろう」


「当然です!毎日磨いてます」

「……撃ったことは?」

「ありませんよ、汚れるじゃないですか」

「……。」

(男は開いた口が塞がらなかった)


どうやら無害な存在だとは伝わったようだ。

(無害だけど、おかしな人間だとは伝わった)


「それで、ここで何してた?」

「ワイキキで騒動に巻き込まれましたが、『無傷』で逃げてきましたよ!」

(ちょっとドヤってみたかったらしい)


「ほう、大したもんだなぁ、おい」

「俺はジョン、モールで警備の仕事をしてる」

「あ、駐車場とかで車の誘導とかしてるんですね」

「アメリカのショッピングモールってデカいですもんね」

(盛大な勘違いをしてそうだ)


「まぁそんな事もするかもな」

(適当に流された)


自宅警備員?とか聞いたら撃たれそうなんで止めておいた。

(自宅警備員は通じないと思う)


「俺は佐藤俊夫。シュガー&ソルトね。OK?」

ジョンと言えばトムクランシーの映画や小説に登場するジョン・クラークかぁ、元海兵隊特殊部隊出身でCIAで工作員だったかな。


「ひょっとして、ジョン・クラークです?」

「誰だそりゃ?」

「あ~、何でもないです。ハイ」


「ところで、さっきから思ってたんだが、ここにヤツらは居なかったのか?」

「それなら俺が…二十匹くらい居たんですけど、全員俺が倒しました!」

(七匹しか居なかった)


「そいつはすげ~な。で、ホントは何匹だった?」

「ゴメンナサイ。七匹でした……」

「それでも充分凄いと思うぞ」

(バレた瞬間下がりかけたテンションがそのひと言で急上昇した)


ジョンはこの日本人の扱いを少し覚えた。


「それで、お前の船はどれだ?」

「……あれですね」

ジョンは船より先に、ビミニトップがあるはずの場所を覆う二枚のパネルを見上げた。

「あれは何だ?ソーラーにしてはデカいが……」

「あれがこの船の生命線ですね、800Wあります」

「800Wだぁ?」

「最新の日本製です」

「そんなソーラーは知らねえ」


「エアロジェンとかは付いてないが……」

「風力ですか?必要ないんで付けてませんね」

「……」


「乗ってみますか?」

「いいのか?」

「大丈夫です、皆さんもどうぞ」

後ろで聞いてたキャサリンとゾーイも興味深々で乗り込んできた。


キャビンに降りた瞬間、三人は驚いた。

チャートテーブルには大きなカラー液晶に。

LED照明の明るさに。

整然としたキャビンに。

三人はソファーを進められ、冷蔵庫から取り出した冷えたコーラとオレンジジュースにさらにビックリ。


「どうなってやがる?」

「普通これくらいのヨットといったらごちゃごちゃとして汚く……」


ノートPCやタブレットなど、出さなくてもいい物までそれとなく見せた。

(自慢したかっただけ)


「最高にクールでしょ?」

冷静さを装っていたが、頬は緩みっぱなしだった。

(褒めてほしくてしょうがなかった)


「……こりゃあ確かに大した船だ」

「……うひぁ」

(嬉しさが変な声になって漏れた)


「……聞こえてるぞ。」

「ふぇっ」


久しぶりに見る旦那の緩んだ表情に、キャサリンは思わず微笑んだ。

ゾーイは大好きなお父さんと変な日本人のやり取りにケラケラと笑っていた。


「俺たちはこれからヒロの街の様子を見て、その先を考えたいと思っている」

「ソル、お前はどうするつもりだった?」


「俺はウキウキしながらここハワイに来て、あのハレクラニで昼飯食ってて、食べ切る前にこんな騒動に巻き込まれた」

「だから……正直わかりません!」

「わからない事だらけです!」

(先にもっと大変なこと巻き込まれているが言えない)


「だったらしばらく俺たちに付き合わねえか?」

「ジョンにそこまで頼りにされちゃあしょうがないな」

「いいだろう、この最強の俺が付いて行ってあげよう」

『やっぱ、やめておこうかな……』


ふと見ると、ゾーイは勝手に食糧庫を探検していた。

「あっ」

いつの間にか『きのこの山』を見つけ、夢中で食べている。

「おい、それ勝手に食うな」

「おいしい!」


「……まあ、いいか。『たけのこの里』もあるぞ」

「やった~!」

(孫くらいの年頃の子には、とことん甘い六十歳だった)


ゾーイが俺の船でキャサリンさんと探検隊をしている間に、ジョンは出航準備を終えていた。

「先に行って待ってるぞ」

ジョンの船は40ft級のフィッシングクルーザー。

マグロやカジキを追いかけるための船だ、かなり速いんだろう。

燃料の食いっぷりも相当だろうな。今後の課題か。


俺もセールを揚げ、エンジンも始動する。

機帆走で追いかけるが、さすがにこのクラスのクルーザーには敵わない。

すぐに離されていった。

「お、追い付けない。謎パワーが発動しなかったか……」

(謎パワーに期待しすぎ)


途中のカワイハエで一泊。

翌早朝に出てヒロの街には日没直前に到着した。

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