初のモテ期到来?
「ピコン!」
日本時間、午前四時半過ぎ。
百万台を超えるスマホから、控えめな通知音が鳴った。
ふとんから飛び起きる者。
ベッドから転げ落ちた者。
歌舞伎町の路上で酔いつぶれている者。
始発を待つ駅のホームで。
築地で。
寝ていた者も、起きていた者も、一斉に動画を観はじめた。
オープニングは、ミニガンの武器としての生々しさから始まった。
走り出すバイク。
BGMは『Livin' on a Prayer』
海上に浮かぶ司令船のクルーザー。
その前方に並ぶミニガンを搭載した六艘のRHIB。
視線の先は滑走路。
指揮官の号令と共にバイクがこちらに向きを変え突っ込んでくる。
バイクに追い縋るゾンビの大集団。
その時、バイクの前方、右横から突如現れた別のゾンビ集団。
巻き込まれるバイク。
投げ出され滑走路を超えて転がる海兵隊員。
即座に、救助にむかうゴムボート。
間一髪救出される。
一斉射撃。
途切れない射撃。
滑走路終端の海岸に積み重なるゾンビ。
静寂。
疲れ果て、滑走路で座り込んだ兵士がビールを黙って飲んでいた。
そしてエンドロール。
『俺たちが倒したモノたちはかつての仲間だ。願わくばどうか天国へ』
終わった......。
「映画じゃねえか」
「いや、本物だ」
「これCGならハリウッド超えてる」
「ミニガンってこんな音するのかよ……」
「最後のビールで泣いた」
「最後のテロップで全部持っていかれた……」
コメント欄は瞬く間に流れていった。
それはSNSでも同じだった。
最初の書き込みは午前六時過ぎだった。
「通知来て飛び起きた。
観終わるまで動けなかった。
再起動して今書き込んでる。
マジやばい!しか言えない……」
そこから怒涛の勢いで書き込みが始まった。
「これ、ゾンビ映画じゃない。"人間の映画"だ」
「いきなり映画始まったんだが」
「BON JOVI反則だろ」
「バイク転倒!死んだ!」
「いや助かった!」
「助かるタイミングが絶妙」
「編集うますぎる」
「RHIB速ぇ!」
「CRRCな、レスキュー班のゴムボート」
「一斉射撃の弾幕やべぇ」
「音圧がヤバい」
「これ本物のミニガンの音?」
「映画じゃ出せない迫力」
「しかも血が見えないように作ってある」
「エンディングで泣いた」
「なんも言えねぇ」
「最後まで見てよかった」
「ビール一本で泣かせるなよ」
「収益化の審査まだなんだろ」
「それまでは無料って事?」
「広告入っても最後まで絶対見るわ」
「あの司令船どこのメーカー?」
「RHIB六隻ってどこから集めた?」
「滑走路ってヒッカム?」
「ヒッカムは空軍だろ」
「海兵隊本物じゃね?」
「ミニガンM134じゃん」
「射撃統制ちゃんとしてる」
"Oh my gosh..."
"No way..."
"This is not CGI."
"Who's this AI filmmaker?"
「お昼ご飯の時間だよ~」
ゾーイが呼びに来た。
「ふぁ?」
普段からニ十分おきにワッチで起きてる俺に死角はない!
......そうは言っても眠い事には変わりない。
「あぁ、ゾーイ、すぐ行くよ」
(二度寝した)
「また寝ると思ってた。あはは」
「ははは」
ソルは笑ってごまかした。
今日はよれたTシャツにハーフパンツ、足元はサンダル。
休日のおじいちゃんファッションが板についてる。
今日のお昼はそうめんをご馳走する約束だった。
決して忘れてはいない!
(完璧に忘れてた)
「すぐに出来るから待ってて」
キャサリンさんは食器の準備をしながら笑ってた。
乾麺は保存食として優秀なのだ。
あっという間に大量のそうめんが茹で上がった。
めんつゆにチューブ入りのしょうがとわさび。
薬味は乾燥ネギ。
ジョンもちょうど帰って来た。
「おっ、ジャパニーズソメーンか!」
どうやら設置作業には参加しないらしい。
「これはね、日本の"そうめん"といって、このつゆにくぐらせて、盛大に音を立てて啜るのがマナーなんだよ」
(アメリカ人に啜れとは、なんという無茶ぶり!)
「冷たくて美味しいね」
「冷たい食べ物は日本しかないからな」
「アイスクリームは?」
「あれは飲み物だ!がはは」
アイスクリーム。いつまで食べられるんだろうか......
その頃本部では。
「こちらカネオヘ海兵隊本部、フォード島海軍司令部聞こえますか?」
「......」
「こちら、海軍司令部、海兵隊本部聞こえてるぞ!」
「うぉぉ~、り、了解!」
海兵隊と海軍の通信が回復した。
その知らせは間もなくジョン達にも届いた。
「これで、連携した作戦も立てられるな」
「例の対岸の岸壁でゾンビを海に落とす作戦な」
「早々に取り掛かるらしいぞ」
「上手く言ったらヒッカムからもヤツらを引き寄せるんだとよ」
「あそこの備蓄燃料は膨大だからな」
「手に入ったらスコフィールドの陸軍基地にも救援に行ける」
『後は軍に任せればなんとか生きていけるかな』
ソルはヨットに引き上げた。
ウキウキとノートPCを開き、反応を見た。
ひっくり返りそうになった。
際限なく続くコメント。
その中には連絡先を求めるコメントも増えていた。
「連絡先かぁ、どうしよう」
『コラボとかの申し込みか?
取材?無理無理
ファンレター?......グヒヒ
ビデオ会議で顔出し?......却下
AI教えろ?ばか、自分で考えろ!却下
某国の陰謀? 何言ってんの。却下
TV出演......ん~、考慮
まいったなあ......あはは』
(60年生きてきて、初のモテ期到来!……と浮かれていた)
その中の一つのコメントが目にとまった。
「あの海兵隊員、父にそっくり!
詳しくはSNSに来て!」
何気なく、リンクを開いた。
アカウント名は――ゾーイ。
プロフィールには、ハワイ在住、三十代半ばのアメリカ人女性とあった。
……
『コメントありがとう』
一言だけメッセージを送ってみた。
「ハーイ、あなたの動画に出て来る人、私が小さかった頃のお父さんにそっくりなのよ!今はおじいちゃんになっちゃってるけどね。その頃の写真かなにか、モデルにしたの?」
2026年のゾーイから連絡が来た。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう。




