YouTubeデビュー
基地まで戻って来たのは夕方と言うにはまだ早い時間だった。
少佐への報告はシールズに任せて、自分のヨットへ戻り、回収したブツの整理を簡単に済ませた。
ジョンの船では今頃キャサリンさんが晩御飯を作ってることだろう。
シャワーを浴び、無精ひげも剃ってさっぱりした。
今日撮った動画をPCに移し、冷やしてあったコーラを飲んでると、ゾーイが呼びに来た。
「もうご飯が出来るって!」
「わかった、すぐ行くね」
少し考えて、整理したブツを広げ、早速身に着けてみた。
薄いピンクのTシャツ、リネンとコットンの生成りのパンツ。
ショルダーホルスターは手こずったが、なんとか付けた。
セットのブレンテンはゾーイが居るのでまた今度だ。
アルマーニで手に入れたオフホワイトのリネンジャケット。
ポケットにはロレックスが二本。
素足にスリッポンを履いて隣のジョンのクルーザーへお邪魔した。
「ゾーイ、見て見て!カッコイイ?」
「うん、ワイキキによくいる観光客みたいだけど、かっこいいよ......」
「アハハ......」
(常夏のリゾート・ハワイではまさに観光客だった)
ジョンは今日の出来事を面白おかしく話したが、危なかったことは一切口にしなかった。
食後のコーヒータイムに、ポケットからロレックスをふたつ取り出した。
「これ、お土産ね。はい、ゾーイ」
「時計?重~い」
「これは、キャサリンさんへ」
「あらあら、まあまあ」
「ありがとう、気が利くのね!」
チラっとジョンの方を見た。
「嬉しいわ、大事にするわね!」
もう一度ジョンを見た。
「……俺を見るな」
和やかに食事を済ませ、自分のヨットに戻りノートPCを開いた。
「今日は編集で徹夜になるかも......うひひ」
『まずは、ゾンビが集まって来て逃げ出すところを切りとって。
ハレクラニから逃げたように見せて......と。
んで、ハンビーのとこで立ち止まったとこを切り取って......。
んで、また追われてる場面を差し込んで、と。
あ、ガンショップの正面が撮れてなかった......ま、いいか。
店内を物色してる風に......よし。
裏から出るとこからはそのまま使えるかな......』
朝になってた。
一旦、ゾーイと一緒にシリアルの朝食を頂き、また戻って編集の続きに没頭した。
夕方には何とか仕上がった。
タイトルは......
①『もしも、1996年のハワイにゾンビが溢れたら』
②『1996年のハワイの超高級ホテルでお昼を食べてたらゾンビが出てきたんだが......』
このふたつで悩んだ。
「②は、なろうのタイトルみたいになってるかなぁ」
「でも、こういう方がクリックしたくなると思うんだよなぁ」
「うーん……どっちが再生数伸びるかなぁ」
「悩むなぁ」
本編は出来上がったのに、タイトルで悩んでまた朝が来た。
一昨日、アルマーニのジャケットを着て、ロレックスをプレゼントとして差し出した同じ人物だとは思えないほどやつれていた。
「決めた!」
『1996年のハワイの超高級ホテルでお昼を食べてたらゾンビが出てきたんだが......』
カッコよさは捨てた......
「よし、これで投稿できた!......と。」
「ちゃんと、AI生成の限界に挑戦したシリーズ第一弾って、概要欄にも入れたし......反応が楽しみぃ~」
ソルはそのまま倒れ込むようにベッドへ潜り込んだ。
2026年九月末。
YouTubeにとんでもない爆弾が投下された。
ゾンビの群れが大軍で押し寄せてくるハレクラニホテルのエントランス。
大通りから裏道へと逃げるカメラ。
そこかしこでひっくり返り、ひしゃげた車。
必死に奮闘する米軍兵士たち。
今はもう建て替えられたホテルや街並み。
1996年当時のワイキキが完璧によみがえっていた。
それは、まるで撮影者本人がその場で息をし、走り、振り返り、命からがら逃げ延びた記録そのものだった。
日本時間の早朝に投稿された動画は、最初こそ静かだった。
通勤電車の中で見つけた数人がSNSへ投稿した。
「これ、本当にAIなのか?」
昼休みにはこんな話題が広がり始める。
午後になる頃にはYouTubeのおすすめへ表示され始めた。
学校や会社が終わる夕方。
再生数は一気に跳ね上がる。
午後八時。
ゴールデンタイムを迎えた動画は、とんでもない数字を叩き出していた。
その影響は海外にも波及し、英語字幕やリアクション動画が出始めた。
SNSも、この話題で持ち切りだった。
「観たかよ、あのゾンビのハワイ?ハワイのゾンビかwww」
「Netflixの新作プロモーションか?」
「OpenAIの新モデル?」
「いや、1996年の街並みが正確すぎる」
「建て替え前のハレクラニをここまで再現できる人はいない」
「……これ、本当にAIか?......なんてなwww」
その日の深夜には、百万再生を超えていた。
多くは娯楽としてその完璧さに大喜びだった。
しかし、本当に驚愕していたのは、AI開発者たちだった。
「完璧すぎる!」
「映像だけじゃない。カメラワークまで人間そのものだ」
「生成じゃない……撮影してるようにしか見えない」
「どこかのテスト動画か?」
「これ、何年先を行ってるんだ?」
「AI業界トップとの差がまた広がったな」
翌朝、ソルは妙に早く目を覚ました。
「どうなったかな……」
軽い気持ちでYouTube Studioを開く。
「……」
一瞬、画面がバグったのかと思った。
「え?」
ブラウザを閉じる。
再起動する。
もう一度開く。
「……マジか。」
本編だけで八百万再生を超えていた。
切り抜き動画もバズり倒し、その勢いは海外でも同様だった。
「通知、99+どころじゃないんだけど……」
「登録者……三十万人増えてる?」
「コメント、一万件って何だよ……」
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