ワイキキ買い物ツアー(後編)
このままカラカウア通りを進みたそうなソルに対して、ジョンは運河を途中まで遡るルートを提案した。
「レワーズストリート付近から上陸すれば、ハレクラニまでは一直線だ」
「ボートを一隻残しておけば、何かあってもすぐ回収できる」
まずは六人が乗っても余裕のある小型ボートを探すことになった。
二本先の桟橋で、港内移動用の作業ボートを見つけた。
船外機は外されていたが、近くに転がっていた一基を取り付けると、一発で始動した。
予定していた運河の護岸のポイントでブラボーチームのひとりを残し、五人で上陸した。
慎重に物音を立てず見える範囲のみ倒しながら進んでいく。
カラカウア通りを横切り、ハレクラニホテルの前に出た。
「そうそう、ここでお昼食べたんだよなあ」
周辺を一通り撮影し、カラカウア通りまで戻り、東へ進む。
M4を拾った場所にはハンビーがそのままの姿で横倒しになっていた。
一瞬だけ立ち止まった。
あの日、悲鳴を背にここを駆け抜けようとしていた。
逃げなければならないのに、横倒しになったハンビーの脇で足を止めてしまった。
あれが、すべての始まりだった。
あの日、逃げ惑った道を思い出しながら辿った。
立ち並んだホテルには、数え切れな程のゾンビが居る事だろう。
映画なら転がった空き缶を蹴飛ばし、物音を盛大に上げる場面だ。
しかし、ここにはそんな迂闊な者はひとりもいなかった。
ただ、目に着いたゾンビだけを静かに排除していく精鋭だけだ。
ガンショップが見えてきた。
裏口へ廻った。
脱出した時のままだった。
蝶番が軋み音を立てないように、慎重に開けた。
何者も居なかった。
全員入るとドアを閉め、一息つけた。
「はぁ、緊張した~」
「サプレッサーの音や倒れた時の音には反応しなかったね」
「建物の中にいると外の音はあまり響かないんじゃないか?」
「ここから運河は近いんだろ?」
「最奥のカヌークラブからボードでハーバーまで手でゆっくり漕いで戻ったよ」
「じゃあ、そこで合流して戻ろう」
ブラボーチームのリーダーがボートと連絡を取り始めた。
「もうカヌークラブ辺りで待機しているらしい」
リーダーが通信を終えると、それぞれ必要な物を探し始めた。
ソルのお目当てのホルスターは売れ筋らしく、在庫が結構あった。
しかも、非売品で展示用にブレン・テンがショーケースに飾れていたのだ。
「あ、あの時は気が付かなかったなあ」
「これはセットで回収っと」
バックパックに仕舞うとソルは満足気に頷いた。
ジョンやブラボーチームは弾薬を探し始めた。
「5.56㎜はどれだけあっても困らん、全員持てるだけ持て!」
「FederalとWinchesterだけ持っていけ。他は後回しだ」
「ソルは9ミリ優先だ。欲張るなよ、重くなったら走れん」
5.56㎜組は空のマガジンを手際よく満たし、残った弾薬もバックパックへ放り込んでいく。
それでも、荷物の重量を考えれば持ち出せる量には限界があった。
「これで、帰れる!」
「よし、最後まで気を抜くなよ!」
リーダーが裏のドアの外の気配を探る。
そっと開けて音を聞く。
そのまま静かに出た。
続いてジョンが出た。
俺も続く。
ふたりが続いて出てきた。
隊列を崩さず進むと、通りを挟んだところに公園があった。
三匹のゾンビが揺れていた。
ブラボーの三人がほぼ同時に撃った。
二匹は倒れ、三匹目は倒れなかった。
三匹目は頭をかすめただけだった。
外れた一発が遊具の鉄柱に当たり、さらにABCストアのウインドガラスへ飛び込んだ。
キィーン......
......ガッシャーン!
「マズい!」
「走れ!」
ホテルのロビー。
路地。
駐車場。
あちこちから唸り声が重なり始めた。
全方向からゾワゾワとした気配が押し寄せる。
唸り声が重なり、街全体が目を覚ましたようだった。
「とにかく北だ!」
先頭を行くリーダーは前方を切り開く。
ジョンともう一人が左右を寄せ付けない。
振り向くのが恐ろしい。
包囲の口が閉じられたら終わりだ。
俺も撃ち始めた。簡単に当たらないのは解ってる。
それでも撃つしかない。
狙う余裕なんて無い。
ヘッドショットなんて無理だ。
とにかく足元へ連射で撃ち込んだ。
一瞬でも足が止まれば、それでいい。
狭い道には入れない。
出口を塞がれたら終わる。
広い道を運河目指して走った。
俺はとにかく転ばないように走り続けた。
「ボートは運河の対岸しか止められん、あの通りを渡ったら運河だ!そのまま飛び込むぞ!」
「了解!」
次々に運河に飛び込んだ。
撃たれて倒れ込んだゾンビが最後尾を守っていたメンバーの脚を掴み、もつれるように運河に落ちた。
運河の真ん中あたりでボートが待っていた。
ひとり、またひとり。
四人がボートに這い上がった。
「あいつはどうした!」
「飛び込んだ音は聞こえました!」
「......」
水面が大きく波打った。
「プッハァ~」
「手を出せ!」
最後の一人を引っ張り上げた。
「ハァ、ハァ......」
「脚掴まれた時はもうダメかと思ったぜ!」
「でも急に力が抜けたんだ」
「気が付いたらゾンビだけ沈んでった」
「どうなってるのか判りませんが......」
ゾンビたちには運河の存在など関係ない。
あるはずの地面へ踏み出すように、一歩、また一歩。
その先に地面は無い。
それでも、迷うことなく運河へ消えていった。
「パールハーバーの岸壁で言ってた事は、こう言う事だったんだな」
「あいつらは、目の前にぶら下がった人参しか見えてない」
「足元なんかはなっから気にしてないさ」
「危ない、とか、ちょっと待てとか考えて無いからな」
「それにしてもソル、日本人にしては中々やるじゃねえか!」
「もうちょっと若ければシールズに推薦してやらんこともないぞ。がはは」
「そうだぞ、よく走り切ったなあ」
「あの、乱射も良かったぜ!当たってなかったけどな。がはは」
「いや、三発くらいは脚にかすってたぜ!」
「まじか、すんげえな!わははは」
「才能あるんじゃね!あはは」
あの集団に囲まれながら、全員無傷で逃げ切るなんて、さすがだ。
その反面、自分のわがままで無理やり付き合わせてしまった申し訳なさに、照れ笑いを浮かべるしかなかった。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう。




