保護区の防衛戦
砕け散った大理石の破片が散乱する保護区の中庭で、セリアを背に庇うようにして陣を組んでいたのは、数人のドワーフ重装兵とエルフの術士たちだった。
「下がれ、小娘! 決して頭を上げるな!」
赤髭を血で染めたドワーフの隊長が戦斧を構えて咆哮する。彼らは見下していたはずのセリアを、種族の矜持にかけて盾となり守り抜こうとしていた。エルフの放つ「氷結」と「突風」の針が人間兵の喉笛を穿つが、煙の向こうから新しい人間兵が際限なく這い出してくる。
「いたぞ! 亜人の化け物どもだ!」
「奥に人間の女がいる! 亜人に飼われていた売国奴だ!」
人間兵たちにとって、亜人の衣服をまとい守られているセリアは「最も穢れた裏切り者」だった。
「やめろッ! 俺だ! 前哨兵のジャンだ!」
ジャンは叫んだが、その声は怒号にかき消される。瓦礫の影から、血を流し槍を構えたリュカが姿を現した。皮膚は焼け爛れ、両目は血走り、狂気に染まりきっていた。
「ジャン……! そんなところで何をしているんだ!」
「リュカ、違う! この子は俺の妹だ! 輜重隊にいたセリアなんだ!」
「嘘をつくなッ! そんな綺麗な服を着て亜人に守られている人間がいるか! 亜人の穢れを――浄化しろぉぉぉッ!」
「お兄ちゃん……っ!」
セリアの悲鳴が響いた瞬間、人間兵たちが地面を耕す「土掘り」魔法で足場を崩し、ドワーフの防衛線が破られた。エルフの術士が身を挺してセリアの前に割り込むが、胸を貫かれて倒れる。その死角から、リュカが狂乱の形相で槍を突き出した。
「セリアァァッ!」
ジャンが手を伸ばした。
しかし、指先が妹の袖に触れるよりも早く――粗末な鉄の穂先が、セリアの胸を深々と貫いていた。
ドサリ、と重い音がした。
セリアの純白の衣服が、見る間に赤黒く染まっていく。
「……あ……」
リュカの手から槍が滑り落ちた。友人の妹の顔を認めた瞬間、リュカの瞳から狂気が急速に引いていった。
「セリア……ちゃん……? なんで……俺は……」
リュカはその場に崩れ落ち、血まみれの手を見つめて震え始めた。
ジャンの腕の中に倒れ込んできたセリアの身体は、驚くほど軽かった。指先から零れ落ちた母の形見の指輪が、血溜まりの中に落ちる。
「セリア……おい、セリア……」
妹の唇は二度と動かなかった。エルフの美しい魔法も、ドワーフの調度品も、人間の執念も、何一つ彼女を救うことはできなかった。




