最終話 地味令嬢は、世界で最も輝く「帝国の月」となる
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
最終話 地味令嬢は、世界で最も輝く「帝国の月」となる
国際会議から一年。
ガルディア帝国の帝都は、建国以来、最も華やかな熱狂に包まれていた。
今日は、皇帝ゼノスと、筆頭宮廷錬金術師エルナの婚礼の儀。
かつて「地味令嬢」と蔑まれ、泥にまみれて国境を彷徨った私は今、純白の「魔導シルク」で織られたドレスに身を包んでいる。
このドレスの糸一本一本にも、私が開発した『恒久の輝き』の術式が編み込まれ、歩くたびに星屑のような光が零れ落ちた。
「……緊張しているのか? エルナ」
背後から私を抱きしめたのは、漆黒の正装を完璧に着こなしたゼノス陛下だ。
その胸元には、あの日私が浄化した聖剣が、守護の象徴として輝いている。
「はい。まさか、あの日拾われた私が、こんな場所まで来られるなんて……」
「拾ったのではない。私が見初めたのだ。……お前は私の命を救い、この帝国の未来を照らした。今日、世界中から届いている祝辞を見ればわかるだろう」
彼の言う通り、控え室のテーブルには周辺諸国からの贈り物と親書が山積みになっていた。
エルナの錬金術による「技術革新」の恩恵を受けた諸国にとって、彼女はもはや一国の皇妃という枠を超え、大陸全体の『至宝』として崇められていたのだ。
大聖堂の扉が開くと、地響きのような歓声が上がった。
「エルナ様! 万歳!」
「帝国の女神様、お幸せに!」
民衆の心からの祝福。
その中には、滅亡した旧フォレスト王国から移住してきた元国民たちの姿もあった。彼らは、かつての聖女(自称)ミーナが国を壊すのを止められなかった後悔を、今、エルナへの感謝に変えて叫んでいる。
祭壇の前で、ゼノス陛下が私の手を取り、深く、熱く口づけをした。
「誓おう。生涯、私はお前だけを愛し、お前が作る未来を共に歩むと」
「私も誓います。陛下の隣で、この技術を愛する人々のために使い続けることを」
私たちは誓いのキスを交わした。
その瞬間、私の錬金術で仕掛けられた『祝福の花火』が昼間の空に大輪の華を咲かせ、帝都中を虹色の魔力の粉が舞った。
一方、大陸の片隅。
草一本生えない荒野の廃屋で、ボロボロの服を着た男女が言い争っていた。
「ミーナ! お前が……お前があの時、エルナを追い出したりしなければ……!」
「私のせいにしないでよカイル様! そもそも、お姉様を『地味』だって馬鹿にしたのはあなたじゃない!」
かつての王太子と義妹。
彼らに残されたのは、二度と戻らない輝かしい過去と、一生消えない「後悔」という名の呪いだけだった。
遠く帝都の方角で上がる美しい花火を見上げながら、二人は届かない謝罪を虚空に叫び続けるのだった。
「……エルナ。今夜は、仕事の話は禁止だぞ」
披露宴の後、二人きりのバルコニー。
ゼノス陛下は私の腰を引き寄せ、耳元で甘く囁いた。
「これからは、私の妻としての役割に専念してもらう」
「ふふ、陛下。それは、どんな『高度な錬金術』よりも難しそうですね?」
私は微笑み、最愛の人の胸に顔を埋めた。
捨てられた地味令嬢の物語は、ここで一度幕を閉じる。
けれど、愛する人と作る新しい物語の錬成は、まだ始まったばかりなのだから。
(完)
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