第8話 国家反逆罪? ――いいえ、それは「宣戦布告」ですね
第8話 国家反逆罪? ――いいえ、それは「宣戦布告」ですね
中立都市で開催された、周辺五カ国による『大陸平和会議』。
そこには、ボロボロの正装に身を包み、目の下に隈を作ったカイル王太子の姿があった。
「……来たか、稀代の犯罪者、エルナ・フォレスト!」
カイルは私が会場に足を踏み入れた瞬間、勝ち誇ったように叫んだ。
私の隣には、漆黒の礼装に身を包んだゼノス陛下が、不機嫌そうに目を細めている。
「……犯罪者? 心外ですね、カイル殿下」
「黙れ! 貴様は我が国の国家機密である『錬金術式』を盗み出し、あろうことかガルディア帝国に売り飛ばした! これは明白な国家反逆罪だ! 各国の代表よ、この女を拘束し、我が国へ引き渡すことに異議はないな!?」
カイルの必死の訴えに、他国の代表たちは……。
憐れみと、呆れが混じった視線を彼に投げた。
「……カイル殿下。失礼ですが、あなたの国の『錬金術』で、これほどのものが作れるのですか?」
小国の王が指し示したのは、会場に設置されたエルナ特製の『魔導冷暖房』と、各国の代表に配られた『万能解毒の魔導具』だ。
フォレスト王国が数百年かけても到達できなかった技術が、今や帝国の「標準装備」としてそこにある。
「そ、それは……! それこそが盗まれた技術で……!」
「いい加減にしろ、小童」
ゼノス陛下の地を這うような声が、会場の空気を一変させた。
彼はゆっくりと私の肩を抱き、カイルを射殺さんばかりの鋭い視線で見下ろす。
「エルナは、我が帝国の至宝。そして、私の将来の『皇妃』だ。彼女を罪人呼ばわりするということは、この私を、そしてガルディア帝国を侮辱したということだな?」
「皇、妃……!? 地味で無能なエルナが……!?」
カイルが絶叫する中、ゼノス陛下は無造作に一通の書類をテーブルに叩きつけた。
「これは、フォレスト王国の民たちから届いた、我が国への『亡命希望書』の山だ。お前たちがエルナを追い出し、国を荒廃させたせいで、民は飢え、騎士は逃げ出している。……反逆罪を犯したのは、国民を見捨てた貴様らの方ではないのか?」
「な、なんだと……!?」
「さらに、お前が溺愛している義妹・ミーナが、エルナの過去の成果を自分のものだと偽っていた証拠もすべて押さえてある。……さて、カイル。この場で貴様を国際法に基づいて処刑してもいいのだが?」
カイルは、ガクガクと膝をつき、その場に崩れ落ちた。
かつての威厳は微塵もなく、ただの「無能な男」の姿がそこにあった。
「エルナ……っ! 頼む、戻ってきてくれ! お前がいなければ、国が……俺の地位が……!」
「……殿下。あの日、あなたは『ゴミ箱に捨ててやる』とおっしゃいましたよね。私はその言葉通り、あなたの国というゴミ箱から這い出し、自分を必要としてくれる人の隣にいるのです」
私は一歩も引かず、冷徹に言い放った。
「さようなら。もう、二度とお会いすることはありません」




