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第7話 帝国の日常は、王国の「奇跡」を超えていく

第7話 帝国の日常は、王国の「奇跡」を超えていく


「……これが、エルナ様が考案された『魔導給湯システム』ですか?」


帝都ガルディアにある、騎士団の宿舎。

視察に訪れた私は、使い心地を尋ねるために一人の若い騎士に声をかけた。


「はい! 今までは冷たい水で泥を落とすのが当たり前でしたが……このボタン一つで、最適な温度の湯が溢れ出す! しかも、エルナ様が配合された『魔石石鹸』を使えば、鎧の煤汚れまで一瞬で落ちるんです!」


「それは良かったです。皆さんの疲れが少しでも癒えればと思って」


私が微笑むと、屈強な騎士たちが「女神様だ……」と拝むように頭を下げた。


私がこの数週間で開発したのは、かつての国では「魔力の無駄遣い」と切り捨てられた生活魔導具たちだ。

煙の出ない『無煙魔導コンロ』、触れるだけで衣服の汚れを分解する『自動洗浄バス』、そして夏でも冬でも快適な室温を保つ『恒温魔石』。


これらは今、ゼノス陛下の強力なバックアップにより、帝都の一般家庭にまで急速に普及し始めていた。


「エルナ、また新しいものを作ったそうだな。今度は『魔導冷蔵庫』か?」


背後から、執務の合間を縫って現れたゼノス陛下が私の腰を抱き寄せた。

最近、公衆の面前でもこうして距離が近い。


「はい。これで新鮮な食料が長期保存できれば、冬の飢えもなくなります」


「素晴らしい。お前のおかげで、帝国の幸福度は過去最高だ。……対して、あちらは目も当てられん状況らしいがな」


ゼノス陛下の冷ややかな視線の先。

宿舎の影に、薄汚れた身なりで立ち尽くす一人の男がいた。

その手首にある隠し紋章——フォレスト王国の隠密スパイだ。


スパイの男、ジャックは、震える手で報告書を書いていた。


(……信じられん。なんだ、この国は……!?)


彼が潜入したガルディア帝国は、もはや別世界の文明を築いていた。

フォレスト王国では王族ですら週に一度しか入れない温かい風呂に、ここでは一介の兵士が毎日入り、贅沢に湯を使っている。


かつてエルナを「地味で無能」と切り捨てた王宮では、今や貴族たちが煤だらけのコンロで指を焼き、腐りかけた肉を食べているというのに。


(エルナ・フォレスト一人を失っただけで、これほどの差が出るというのか……。王太子殿下は、とんでもない『国家財産』をドブに捨てたのだ……!)


ジャックは、帝国兵が贅沢に食べている「魔導冷蔵庫で冷やされた果実」の瑞々しさを目にし、絶望に涙した。

彼が母国に持ち帰れる情報は「もはや追いつくことは不可能」という残酷な事実だけだった。


「……ゼノス陛下、あのスパイの方はよろしいのですか?」


「放っておけ。絶望の土産話を持って帰らせるのが、一番の復讐だ」


陛下は私の耳元で低く囁き、独占欲を隠そうともせずに髪を撫でた。


「エルナ、今夜は新しい試作品を一緒に試そう。お前が作った『自動マッサージ機能付きの椅子』だったか? 楽しみだ」


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