第6話 公式の寵愛、そして帝国の至宝へ
第6話 公式の寵愛、そして帝国の至宝へ
使者たちが這うようにして去った後、謁見の間には静寂が訪れた。
……いえ、静寂ではありません。並み居る帝国の重鎮たちが、熱っぽい視線を私に注いでいるのです。
「エルナ、先ほどの言葉に嘘はない。改めて、この場で宣言しよう」
ゼノス陛下が私の手をとり、一段高い玉座の横へと導いた。
そこは本来、皇妃のみが立つことを許される場所。
「これより、エルナ・フォレストを我が帝国の『筆頭宮廷錬金術師』に任命する。彼女の言葉は私の言葉であり、彼女への無礼は私への反逆とみなす!」
わあああぁっ! と地響きのような歓声が上がった。
騎士たちは剣を掲げ、文官たちは深く頭を下げる。フォレスト王国では「地下室のネズミ」扱いだった私が、この国では「国の心臓」として迎えられたのだ。
「陛下……私のような若輩者が、そのような大役……」
「若輩? 呪われた魔剣を瞬時に浄化した者がか? お前がいなければ、私は今頃呪いに焼き殺されていた。……いいか、エルナ。これは報酬ではない、私の『願い』だ」
ゼノス陛下は、周囲の目を気にすることもなく、私の指先に熱い唇を寄せた。
「お前を、誰にも渡したくない。あの愚かな国が二度と手出しできないよう、帝国の最高位でお前を縛り付けておきたいのだ。……嫌か?」
氷の瞳が、今は捨てられた子犬のように潤んで私を見つめている。
ずるい。そんな顔をされたら、断れるはずがない。
「……謹んで、お受けいたします。陛下」
私が微笑むと、ゼノス陛下は満足げに、しかしどこか独占欲を孕んだ笑みを浮かべた。
その日の午後。
私はさっそく、用意された最新設備が整う「錬金術師専用の離宮」へと案内された。
そこには、前の国では予算不足で買えなかった稀少な薬草や魔石が山のように積まれている。
「すごい……! これなら、帝国の全兵士の防具に『自動修復』の術式を刻めますし、流行り病の特効薬も量産できます!」
「ふむ。だが、根を詰めるなよ? お前の健康管理は、私の最優先任務だ」
なぜかゼノス陛下までついてきて、私の作業を見守っている。
……というより、私が材料に触れるたびに「重くないか?」「手が荒れないか?」と口を出してくるのだ。
「陛下、お仕事はよろしいのですか?」
「これが仕事だ。帝国の至宝を守る以上の国益はない」
真顔で言い切る陛下に、私は顔が熱くなるのを感じた。
一方その頃。
命からがら逃げ帰った使者から報告を受けたカイル王太子は、絶叫していた。
「筆頭宮廷錬金術師だと!? あの地味女が!? 嘘だ、何かの間違いだ!」
「間違いではありません……! 彼女が触れただけで、帝国の呪いの剣が聖剣へと姿を変えたのです……!」
「……っ、そんなはずはない! ミーナ! お前もできると言っただろう! 早くこの折れた剣を直せ!」
「い、いやああ! 無理ですわ、こんなの! 私はただ、お姉様が作ったものに名前を書いていただけなんですもの!」
王宮の至る所で、魔導具が爆発し、結界が剥がれ落ちていく。
彼らはようやく気づき始めていた。
自分たちが追い出したのは「地味な女」ではなく、国を支える「神の御手」だったということに。




