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おそくぅ~なりました~♪(ジャンプスライディング土下座)
本当にごめんなさい。
ナルの過去・中編です。
※後半ファンタズィイ!です。お嫌いな方、ご注意を。
身寄りの無くなった私が連れてこられたのは、街の孤児院だった。
ボロボロで、すきま風が吹くような、どこにでもある貧相な孤児院。当然碌な食事を出されるはずもなく、毎日が奪い合い騙し合いのサバイバル。そこに何も知らず放り込まれた私は、無口で感情の窺えない無表情、それに加え四歳という中途半端な入院時期もあって、荒れに荒れた孤児たちの格好のストレス発散の的となった。
殴る、蹴る、叩くの暴力は日常茶飯事。罪を擦り付けられることや、時には犯罪を強要されることもあった。
当然、孤児院の職員は私の身体に残った傷跡に気付き、どうしたの、と聞いてきた。その時は決まって、その傷を付けた孤児たちがわらわらと周囲に集まってくる。そして、「この子はころんじゃったの」「せんせいにかまってほしかったんだよ」などという嘘を、無邪気に目をくりくりさせながら平然とのたまう。そうなの、という職員の問いかけに、私はひとつ頷くだけだ。
孤児たちは狡猾で、明確に、自分たちに食事と住む場所と着るものを与えてくれる者を理解していた。まるで犬のように、自分より上だと判断した者には尻尾を振り、下に位置づけた者には牙を剥いた。
だから、彼らは絶対に職員の前で、私に暴力を振るったり命令することはなかった。しかし、やはり他と私への態度には微々たる違い、違和感があったのだろう。いつしか職員たちも、最初は何となく、そして最終的には、飼い主を味方に付けた孤児たちと一緒になって私に冷たく接した。
だが、私は彼らの日々繰り返される暴力の嵐に、対抗しようとも、自分は不幸だと嘆くこともしなかった。職員たちが私にだけ食事をくれない。だから私は森に出て狩りをしてこよう。ここにいると毎日不便だ。暴力も迷惑、だから街で金を貯めて早く独り立ちしよう。などという、感情論ではなく理論で物事を考え、行動した。
今振り返ってみれば、彼らの暴力を最終的に助長させたのは、私の態度であったのだろう。私の、感情があるのかと疑問に思われるような無口無表情は、私を、歩いて食べて考える小生意気な人形のように錯覚させたのかもしれない。
しかし、例え私が感情を振りかざして暴力に泣き叫んでいたとしても、半端者の私はどれほど時間が伸びようと、この結果にたどり着いていただろう。むしろ、感情があっただけ心身を疲弊していたと思う。
こうして毎日、私を取り巻く孤児たちと暴力を見ていた私は、幼くして人間の汚さと、世界の限界を知った。
自分より下の者と見下すことに優越を覚え、彼らを征服することに快楽を感じる。
自分より上の者を妬み、どうやって堕とそうかと卑しく考え、しかし決して自分を磨こうとは考えない。
笑い合う陰で嘲笑い、褒めちぎる裏で扱き下ろす。
これ以上何かに失望するようなことも無いと思っていたが、違ったようだ。
彼らの醜さを目の当たりにするごとに、私の心はより一層冷たく固くなっていった。
そんな時、私は決まってこう思う。
――気高きニンゲン《両親を殺した男》になりたい。
卑しくも愛おしい人間になるくらいなら、どんなに疎まれ蔑まれても気高く歩みゆくニンゲンでありたい、と。
◇
孤児院に入院してからおよそ三年後。
私は孤児院の職員によって奴隷商人に売られた。
奴隷商人が来訪する日の朝その事を知らされた私は、周囲で孤児たちが両手を上げて歓喜するのを横目に、結構もった方だろう、と評価を下していた。
いつかはこのような日が来るだろう、と前々から予想していた私にとって、残念だが売られることに驚きも、悲愴も感じない。むしろ、反吐の出るようなこの場所から開放されるのだという清々しい気持ちの方が大きい。
「炭鉱奴隷にして下さるそうよ」
そう言って私を絶望に突き落とそうとしているようだが、むしろその情報は私にとって好都合だ。
――どうやって逃げ出そうか、作戦を立てる身としては。
奴隷商人への売却は、予想していたケースの中では軽い方だ。最悪の場合はここで一生暮らすことの強制。その次に殺害などがある。
炭鉱奴隷は、奴隷の種類の中でも断突で死亡率が高い。一番奴隷の出入り、いや入りが多いものだ。しかし、そのため奴隷個々の管理が難しく、数も多いので隷属の首輪も付けられない。
私の容姿では有り得ないが、富豪層の愛玩奴隷などになると逃亡は不可能に近い。今だけはこの身体の傷跡と薄汚さに感謝だ。
さて、と思考を切り替える。
今は七歳。三年間の食事は自分で採った木の実や果物、動物は最近やっとウサギを追いかけられるようになったばかり、そんな子供なので孤児たちと比べればガリガリ、街の子供と比べれば大木と枯れ枝。当然力で相手を倒すなど不可能。
となれば持ち前の感情を一切考慮しない効率一筋の頭脳で勝負だ。
教育も受けていない七歳児と侮っているところを、討つ。なんとか出し抜いて逃げる。実際、私は無学である。孤児院では六歳になると職員が教師となり簡単な勉学を行うが、私は一切参加していない。そのことは惜しいと思っている。
しかし、無学と無知は違う。
私は、四歳の、何も知らない無知な少女では無い。
人間の醜さも、愛らしい様々な感情も知っている。そしてなにより、己の無力さ、愚かしさを。
そんな私にできることは何か。
切り札は、ある。問題は、それをうまく切れるかどうか。
作戦を頭の中で組み立てながら私は一人小さく笑う。
これが成功した時、それは――
◇
「確かに頂きました」
「では、今後もご贔屓に。――おい、行くぞ」
私は奴隷商人のやや肥満の男の後を付いて孤児院からでる。
大した思い出も無い孤児院を、何となく振り返れば、全開に開かれた窓から孤児たちがこれまで見たことのないような満面の笑みで私に手を振っている。……発している言葉は、もう帰ってくるなだの、炭鉱行って死んじゃえだの、酷いものだが。
「随分な嫌われようだな」
商人が嘲笑うように呟く。私はそれには返事をせず、ひたすらに機会を伺っていた。
丁度、孤児院の前庭の中心にたどり着いた時――
「―――――――――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!!!!!」
私は、声にならない叫びを上げた。それは、空間を移動せず、直接人間の脳内に流れ込むような叫び。
「なんだ………ッ!?!?」
どこか悲しく、どこか優しく、どこか惹きつけられる、そんな「人間」の、慟哭。
それは波のように、その場にいたすべての人間、空間を覆っていく。しかしそれでもその力は収まらず、すべてを飲み込んだ後、街の方へと流れていく。
「えっ………ッ!?」
「なにッ!?!?」
その叫びは、飲まれた彼らに一人の幼い少女を描かせた。
震えるように蹲り、綺麗な銀髪を点々と赤黒い血で汚れさせた、ほんの幼い子供。彼女の側には、居るべき父親と母親の姿はない。
寂しい、助けて、寒い、ひとりにしないで、――愛して。
強い”想い”が、目に見えない力となり、彼らを包み込む。
まるで遠心力のように、孤児院の前庭を中心として強い竜巻が発生した。建物は壊れ、人々は訳もわからぬまま必死に辺りの物にしがみつく。
その力の中心には、一人の少女。
オリヴァーは、力に飲み込まれそうになりながらも、必死に力を抑えようとしていた。
「と、まれ…ッッ!!」
それでもだんだん薄れゆく意識の中で、彼女は最後に人影を見たような気がした。
◇
微かな風の音がする。
その音に誘われるように私はゆっくりと目を開けた。
「ん……」
「おやおや、起きたかね」
すぐ側で聞こえた声に、私の意識は一気に覚醒する。バッと飛び起きた先にいたのは、壮年の女性。細身の身体を構造のよく分からない黒い服に包み、白髪に丸いメガネをしていた。
初めて見る顔に警戒心と同時に安堵を抱く。どうやら私は生き延びたらしい。
そして次に見たのは、
「――ッ!?」
自分と女性が高い塔の屋根の上にいるのだということ。
「まあ、落ち着きなさい」
慌てて立とうとした私を諌めるように女性は私の肩に手を置いた。思わずビクッと固まった私に、軽いため息をひとつ。
「はあ、面倒くさいわね」
だからヒトは嫌いなのよ、とぶつぶつ呟く彼女に、私は混乱した脳で、取り敢えず彼女は私に害を与えそうにない、と判断する。
「あ、なたは…?」
だったら状況を聞こう、と思い切って口を開く。すると女性はあら、と意外そうに私に目を向けた。
「なんだ、喋れるじゃない。だったら話は早いわ」
そう言って彼女はにっこりと笑う。
「此方は玄翠の魔女なり」
…軽く目眩がした。
こんにちは、作者です。
詳しくは活動報告ですが、ひとまず謝罪を。
ほんとうに!もうしわけありませんでしたああああああああああ!!!!!!
もはや言い訳が苦しいプチという名の失踪、そして日付越え!それでも言い訳をお許しいただけるのなら、PCさまが修理したのに今日!執筆中だった29話の途中で止まりやがったのですよおおおお!!!泣く泣く、必死に思い出しながら二千文字書きました。これはきっと罰なのですね…。
これからはまたPCが壊れない限り、更新していきます。いえ、壊しません!
本編の内容では、後半いきなりのシリアスからのライトなファンタジーという名のご都合主義のように見せかけての後編期待からの何も考えてない作者の単細胞です。乞うご期待!
本当に申し訳ありませんでした。これからもよろしくお願いします。
ありがとうございました。




