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『サキュバス・ディレクターズ・カット!』〜俺の現場、まともな人間が一人もいない〜  作者: アキラヤマトリ
第二章:【ディレクターズ・カット】― 暁の王女と終焉の軍神
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第二十九話 暁のヘスティアと終焉のヘスティアは、同じ存在じゃないのか?

ヘスティアの宣言を、

俺は最後まで黙って聞いていた。


荒唐だ。


常識的に考えれば、

受け入れられる話じゃない。


それなのに――


なぜか、

心は驚くほど静かだった。


混乱も、動揺もない。


まるで。


最初から結末が分かっている芝居を、

ただ観ているような感覚。


「……ヘスティア」


ゆっくりと、

口を開く。


視線は逸らさない。


「つまり今のお前は――

俺をエルフ王国に連れていって」


一拍。


「結婚するつもり、ってことか?」


「ええ」


迷いのない頷き。


俺は数秒、黙ったまま。


――そして。


思わず、笑った。


乾いた笑い。


どこか自嘲めいていて、

それでいて少しだけ楽しんでいる自分もいる。


「ヘスティア」


今度は、

あえて距離を置く呼び方をやめた。


「……もう少し、

まともな“プロポーズ”の仕方ってなかったのか?」


首を傾ける。


「五年ぶりに会って、

いきなりそれはさすがに強引すぎるだろ」


「これはプロポーズじゃない!」


即座に反発が飛んでくる。


顔が、はっきりと赤く染まる。


普段の冷静さからは想像できないくらい、

分かりやすく。


「政治行為よ!国家運営のためのPR!」


言葉が早くなる。


定義を必死に守ろうとするみたいに。


「たまたま条件に合うのが、

あなたしかいなかっただけ!」


「中立の人間で、

過去に接点があって――」


一瞬、言葉が詰まる。


「……戦略的に、最適解なの!」


「へえ」


俺は肩をすくめ、

椅子の背にもたれかかる。


わざとらしく、

気の抜けた態度で。


「じゃあさ」


視線を返す。


「俺がそれに素直に従うと思ってるのか?」


「どんな制作契約でもな」


少しだけ、声を落とす。


「“自分自身を差し出す”なんて条項は、

普通入らない」


沈黙。


空気が、押し潰される。


さっきまでわずかに乱れていた彼女の呼吸が。


すっと、整う。


「……残念ね、ユウマ」


ヘスティアは背を向ける。


そのまま、

ゆっくりと窓際へ歩いていく。


「あなたの周りに、

あの魔族どもがいなければ――」


声が低くなる。


「ここまで強引な手は、

取らなかった」


光が差し込む。


金の髪が、やけに眩しく見える。


「もし、私が戻ってきたとき」


わずかな間。


「あなたに普通の恋人がいて……結婚していたなら」


声が、ほんの少しだけ揺れる。


「その時は、諦めたわ」


「エルフ王国の問題も――」


小さく息を吸う。


「……全部、一人で背負った」


その背中。


見覚えがある。


何度も、見てきた。


強情で。


負けず嫌いで。


――全部、自分で抱え込むやつだ。


「終焉のヘスティア」でも。


「暁のヘスティア」でもない。


俺にとっては。


ただの――ヘスティアだ。


「……ヘスティア、お前――」


言いかけた、

その瞬間。


彼女が振り返る。


一切の迷いを切り捨てた顔。


「でも」


声が落ちる。


刃みたいに。


「今のあなたは、

魔族に惑わされている」


視線が刺さる。


「判断力を失っている」


それは、会話じゃない。


――判定だ。


「なら」


一歩、踏み出す。


「強制的に連れて行って、

正気に戻すしかない」


「は?」


間抜けな声が出た。


その瞬間――


体が、止まる。


「……何だ、これ」


動かない。


指一本、動かせない。


見えない何かに、

全身を固定されたみたいに。


「お前、これ――何を……!」


「……へえ」


ヘスティアが眉を上げる。


少しだけ、

意外そうに。


「声は出せるのね」


近づいてくる。


「普通なら、

発声も封じるはずだけど」


「……!」


力を込める。


だが。


びくともしない。


まるで世界そのものに押さえつけられているみたいだ。


「無駄よ」


もう、目の前だ。


冷たい瞳が、

至近距離で俺を見下ろす。


「これは同意を求めるものじゃない」


襟元を掴まれる。


「――保護拘束よ」


感情のない声。


次の瞬間。


体が持ち上げられる。


そのまま、

引きずられるように窓際へ。


ガラリ、と。


窓が開く。


風が一気に吹き込む。


「おいおいおい、待て……!」


視界の端に、地面が見える。


「ここ十階だぞ……!?」


返事はない。


ただ、掴む力が強まる。


――その時。


「ドンッ!!」


扉が、叩き破るように開いた。


「ユウマさん!」


空気が裂ける。


ミクの声。


振り返らなくても分かる。


“いつものミクじゃない”。


赤い魔力が、

静かに滲み出ている。


その後ろ。


カナが立っている。


震えているのに――逃げていない。


「その手――」


ミクが一歩、踏み出す。


低い声。


「ユウマさんから、離して」


空間が、軋む。


異なる力同士が、

正面からぶつかる。


ヘスティアは、

ちらりと視線を向けるだけ。


そして、笑う。


「……離さなかったら?」


金色の光が、

立ち上る。


空気が、沈む。


ミクは迷わない。


顔を上げる。


その目はもう、

アイドルのものじゃない。


「――その時は」


赤い光が、

一気に凝縮する。


「あなたを倒す」


さらに一歩。


言葉に、揺らぎはない。


「ユウマさんを――」


一瞬の間。


そして。


「取り返す」


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