表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『サキュバス・ディレクターズ・カット!』〜俺の現場、まともな人間が一人もいない〜  作者: アキラヤマトリ
第二章:【ディレクターズ・カット】― 暁の王女と終焉の軍神
29/36

第二十八話 夜明けは、いつだって長くは続かないものじゃないか?

ドアノブに手をかけた、

その瞬間――


「待って、ユウマさん!」


背後から、

ミクの声が追いついてきた。


俺は動きを止め、

振り返る。


気づけば彼女はすぐ後ろに立っていて、

そのまま俺の手を――そっと握った。


「……どうした?」


問いかけると、

ミクはすぐには答えない。


視線を落とし、

重なった手をじっと見つめている。


「……ヘスティアが、

本気でユウマさんを傷つけるとは思わない」


小さな声。


「でも……何をするつもりなのか、

分からない」


そのときだった。


俺の手の中に、

淡い赤い光が、

じわりと流れ込んでくるのが見えた。


――いや、見えたというより。


“感じた”。


温かくて、揺るがない、

存在の塊みたいなもの。


「私の魔力……少しだけ、

逆流させたの」


ミクが顔を上げる。


真っ直ぐ、

こちらを見て。


「これで、

多少は魔法に耐性がつくと思う」


言い終えると、

彼女はゆっくり手を離した。


だが。


その温もりは、

体の奥に残っている。


まるで――見えない膜に、

守られているような感覚。


「……悠真」


今度は、カナの声。


振り向くと、

彼女が静かに歩み寄ってきていた。


何かを決意したような顔で。


差し出されたのは――


見覚えのある、

首飾り。


星屑のように微かに光るガラス。


「……これ、持っていって」


声は低い。


いつもより、ずっと。


「前に契約の補助に使ったやつ……

異世界の本物」


一瞬だけ視線を上げ、

俺を見る。


「これがあれば……

あなたの位置、分かるから」


俺はそれを受け取り、

軽く眺めてから。


つい、口をついて出た。


「……つまり、エアタグの上位互換か」


「……まあ、そう思っていい」


ツッコミは来ない。


その代わり、

カナは静かに付け加えた。


「でも、それだけじゃない」


声が少し硬くなる。


「悠真……今回の件」


指先に、

わずかに力が入る。


「ただのCMで終わるとは、思えない」


その一言には。


はっきりとした、

恐怖が混じっていた。


「……ちゃんと、戻ってきて」


俺は小さく頷く。


それ以上は、言わない。


言葉にしなくても――分かっている。


ドアを、押し開けた。


廊下は静かだった。


だが。


会議室に近づくにつれて、

空気がじわじわと重くなっていく。


まるで、

見えない圧力に押されているような感覚。


ドアの前で、

足が止まる。


一拍。


軽く咳払い。


ノック。


――そして、開ける。


中にいたのは、一人。


ヘスティア。


会議室の主席に座り、腕を組んだまま――


最初から、

そこにいたかのように。


「来たのね」


顔を上げる。


その視線は――

人を見る目じゃない。


何かを測る目だ。


汚染された試料でも観察するみたいに。


俺は視線を逸らさない。


そのまま向かいに座り、

同じように腕を組む。


背もたれに体を預ける。


無言の、対抗。


「それで、ヘスティアさん」


淡々と口を開く。


「何の話だ?」


「ここには誰もいない」


彼女は言う。


「遠回しなことはやめましょう、ユウマ」


一拍。


「――CMの件よ」


「CMね」


俺はノートを適当に開く。


「化粧品か? シャンプーか?」


彼女は答えない。


ただ、こちらを見ている。


その沈黙が、逆に重い。


「……違う」


やがて、ぽつりと。


「普通の商品じゃない」


立ち上がる。


ゆっくりと、

会議室の中を歩き始める。


金色の髪が、

わずかに揺れる。


それはまるで――


戦場を越えてきた旗のようだった。


まだ掲げられているが。


どこか、疲れている。


「人間界の言葉で言えば……

これは“政治PR”」


空気が、変わる。


「……PR?」


「ええ」


窓辺で足を止める。


外の街を見下ろしながら。


「立場を売るための、映像よ」


俺は彼女の背中を見ながら言う。


「カナたちから、

ある程度は聞いた」


「五年前、

お前は戦場に戻った」


「……そして勝った」


少しだけ、間を置く。


「だから、てっきり」


「戦争が終わったから戻ってきたんだと思ってた」


ヘスティアは、

小さく笑った。


その笑みは――薄い。


「私も、そうであってほしかった」


声が、静かに落ちる。


「戦後、私の評価は頂点に達した」


「“暁のヘスティア”――そう呼ばれていたわ」


「闇を切り裂く光だって」


そして。


ほんのわずか、息を吐く。


「でもね」


振り返る。


目が、冷える。


「人間も、エルフも……本質は同じ」


一歩。


「英雄を讃える」


もう一歩。


「――同時に、恐れる」


空気が張り詰める。


「ルシアは賢い」


「正面では勝てないと分かっているから……

“言葉”で攻めてきた」


指先に、微かな光。


「国内の反対派に介入し、

世論を操作した」


「私を“危険な存在”として定義するようにね」


声が低くなる。


「血に染まりすぎている」


「戦争を望んでいる」


「統治者にふさわしくない」


「――全部、都合よくね」


俺は眉をひそめる。


「……国王は?」


「もう、限界よ」


即答だった。


「病で床から起きられない」


「後継者問題が噂になっている」


「国は、崩れかけてる」


静かだが、断定的。


俺は彼女を見据える。


「じゃあ、お前が継げばいいだろ」


「実績もある、支持もある」


「無理よ」


その一言で、空気が変わる。


圧が――違う。


これはもう、女優じゃない。


王族だ。


「問題は、評判じゃない」


一歩ずつ近づいてくる。


その声は、冷たく、

正確だった。


「エルフ王国には――絶対に変えられない規則がある」


「――既婚者でなければ、王位には就けない」


……既婚。


その言葉が、

頭の中で反響する。


そして。


あまりにも単純な結論が、浮かぶ。


顔を上げる。


気づけば、

彼女は目の前に立っていた。


一切の迷いもなく。


前置きもなく。


「ユウマ」


短く呼ぶ。


「エルフ王国に来なさい」


一拍も置かずに。


「私と結婚して」


視線が突き刺さる。


逃げ場はない。


「正当に――王位を継ぐために」


……やっぱり、そう来たか。


頭の中で、すべてが一本に繋がった。


俺は彼女を見つめ返しながら。


頭の片隅で、

どうでもいいことを考える。


――今回のPR。


監督は、俺じゃない。


主演は。


どうやら――俺らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ