七つの隣人 第一章 七大種族の来歴
そもそも七種族はどこから生まれ出でたのであろうか。旅の見聞を語る前に来歴を語るのは順序として当たり前のようだが、それだけではない。七種族について世間に流れている思い違いの多くは、この来歴を知らないことから生まれているからである。先に一つだけ、この章の要点を言ってしまう。七種族は、もとは人であったのである。
話は神代にさかのぼる。神々がまだ現界を歩いておられたころ、神々のお傍に仕える神職の一族があった。祭りを営み、社を守り、神託を書き留め、神々と人とのあいだを取り持つ。そういう役目を、親から子へ、子から孫へと受け継いできた家々である。仕えた年月は長く、その忠勤のしるしとして、これらの一族は主神の真名の一部を姓として賜っていた。聖嵐神ヴェルフィナに仕えた一族はヴェルフェンを、叡智神シーデリに仕えた一族はシーデルンを、聖母神ジーエーナに仕えた一族はジーナリを名乗るという具合で、天秤のカノール、堅磐のダグレン、流転のターリャ、門守のシルデンも同じである。つまり七種族の名は、種族の名である前に、人の家の姓であった。
千年の闘争が起こったとき、この一族たちは神に身命を賭して奉じた。神々の守り人として、進んで戦の先頭に立ったのである。神職といっても、祈るだけの人々ではない。主神の社を守り、神託を預かる家柄として、彼らはそれぞれの神の戦いを最も間近で支えた。万夜の勢いに人々が逃げまどうなか、踏みとどまって民を逃がし、神々の盾となり、矛となった。千年に及ぶ長い戦のあいだ、七つの一族は戦い続け、闘争が終わったとき、どの一族も、かつての何十分の一かに減っていたと伝えられる。
闘争の終わりが、同時に神々と現界との別れの始まりであったことは、神書の伝えるとおりである。長い戦で神々は深く傷つかれ、その身を癒すため、もとは一つであった世界を輝界、現界、闇界の三つに分かち、門を据え、輝界へと退かれた。荒れ果てた現界の立て直しは、人の手に委ねられることになった。
ここで神々は、しばらくは現界に直接手を下せないことを憂われた。世界の運行は、嵐も、知も、命も、律も、大地も、水と時も、境界も、司り手を失ったまま放り出すわけにはいかない。そして神々の目の前には、千年のあいだ身命を捧げ続け、いまや数少なくなった、忠実な一族たちが立っていた。
神々のなされたことを、神書は簡潔に記している。神々はおのおの、仕えてくれた一族にその献身を謝し、別れの餞として、おのが権能の一部、おのが存在の欠片を分け与えたもうた。ヴェルフェンの一族には嵐の欠片を、シーデルンの一族には知の欠片を、ジーナリの一族には命の欠片を。カノールに律を、ダグレンに大地を、ターリャに流転を、シルデンに境界を。それは褒賞であると同時に、委任であった。輝界に退く神々に代わり、眷属としてこの現界に残り、世界の運行を補佐せよ。それが、欠片とともに一族たちへ託された役目である。
神の欠片は、人の身に収まるものではない。欠片を受けた一族たちは、代を重ねるうちに、人の枠を静かにはみ出していった。体のうちに小さな嵐を宿す者。知ったことが文字となって肌に浮かぶ者。歩いた跡に花の咲く者。嘘をつけば立てなくなる者。肌が岩理を帯び、雄大なときに生きる者。時を逆さに生きる者。半身が常に三界の狭間にある者。姿かたちの根は今も人にあるが、その身とその生き方には、主神の司るものがそのまま現れている。人はいつしか、彼らを七大種族と呼ぶようになった。もとは同じ人であったことが忘れられるほどに、彼らは変わり、そして、変わらぬまま役目を続けている。
崩滅ののちの復興期に、七種族が果たした働きは大きい。人の治水も開墾も及ばぬ死の土地を甦らせたのは芽吹の民であったし、散逸した原初の言葉が今日まで残ったのは、銘肌の民の書庫のおかげである。黄昏の民は、滅びの日々に迷った数知れぬ魂を、最後まで導き続けたと伝えられる。彼らは神々の代行者として、たしかに世界の運行を支えてきた。ただし、王になろうとした種族は一つもない。人の上に立つのでもなく、人から離れて隠れ住むのでもなく、つかず離れず。それが、七種族に共通する人との間合いである。役目のあるところには必ず現れ、役目のないところには立ち入らない。この独特の距離感もまた、彼らが賜ったものが権力ではなく役目であったことの、なによりの証しだと私は思う。
まとめよう。七種族とは、神々に最も長く仕えた七つの家の、生き残りの子孫である。その名は家の姓であり、その力は献身への感謝のしるしであり、その役目は退かれた神々の代行である。次の章から順に訪ねていく彼らのありようには、人と懸け離れた、驚くべきものがいくつもある。だが、どれほど不思議な姿を前にしても、この章のことを思い出してほしい。彼らは、私たちの遠い親類である。千年の戦を最前で戦い抜き、そのあとも二千年、頼まれた役目を黙って続けている、途方もなく律儀な親類なのである。




