第六話 台風一家
私は14歳になったあの日から間違いなくバージョンアップしている……
そう思うことにした。
返ってきた期末テスト、マジでびっくりの結果だったし。
何時も平均以下だったのに今回は平均以上だった。
これはすごい……帰ったら翔に報告しなきゃ。
テスト返却後、今学期最後の席替えがあった。
事情がある場合は希望の席だけど、他はくじ引きになる。
窓際の後ろの席になりますように……。
両手を合掌してくじを引く。
くじの番号と黒板の座席表を照らし合わせる。
やった、めっちゃツイてる……。
窓際!後ろから二番目っ。
テンション上がりながら机を移動させる。
「葵、横?すごい!冬休みまで最高の場所やん」
「ですです、……てげ凄いっちゃね」
しかも葵が横って、毎日気楽に過ごせるぅ。
椅子をひいて座る……背中に何か感触が……。
「アゲパン……あーげぱん」
誰やねん……と振り向くとチビの田村だった。
「うわ、田村やん」
私の背中を物差しでつついていたようだ。
「冬休みまで仲ようしようなぁ~」
田村のニヤニヤ顔に、くじ引きに運を使ったことを感じずにいられんかった。
田村は特別目立つ奴ではないが、変にかまってちゃんで、女子に特に距離を置かれている。
空気を読めない奴で、場をシラけさせたり、幼稚なことをしたり言ったりする。
悪い奴じゃないが、面倒くさがられるというタイプだ。
「なんで田村と仲ようしなあかんねん」
容赦ない言葉だとは思ったが、奴には通用しない。
「アゲパンってさ、中に何が入ってるん?カレー?あんこ?」
「田村ぁ、おもろないって」
しばらくコイツの意味不明の発言を聞かされるのか……。
窓際プラス葵、マイナス田村……プラマイゼロやな。
テストが終わったので部活が再開したのもあり、美術室に行く準備をする。
「恋羽、じゃ先に行くね、バイバーイ、また明日」
「葵、また明日な~」
明日か……3人で登校……考えるわぁ。
「あげぱん、部活おもしろい?」
「なんや、田村は部活行かへんの?」
椅子を前後にガッタンガッタンしながら……ホンマ落ち着きない奴やな。
「んーおもんないから辞めた」
「何してたん?」
「卓球部」
「リアル稲中やん」
「えっ!稲中知ってるん!」
「今度から田村やのうて前野って呼ぼうか」
「マジで?そうしてくれ」
しまった……コイツと喋ったらアカン。
「アゲパンが稲中読んでるってことわぁ……お前もスケベやろ」
「ちゃうわ、お前と一緒にすんな」
確かに下品やけどノリが面白かっただけや……しかも兄ちゃんのんやし。
「俺な、今頃?みたいな漫画やアニメ好きなんや」
「へー」
アカン、こいつかまったらキリがない。
「ぬーべー知ってる?あれ名作やぞ」
「知ってる!エンディングのB'Zの曲がかっこええねん」
「お前何歳やぁ」
「いや、昭和の曲が好きなだけや」
アニソンに名曲多いんじゃ。
柊が日直を終えて教室を出ていく。
しもた、こいつやなくて柊と喋りたいんやった。
「お前と違って忙しい、早よ帰れ」
帰ろうとしない田村。
「アゲパンは何部よ?」
「え~聞いてどうするねん、美術部やん」
「美術部おもろいん?」
もぉ面倒くさいな……。
「部活やっといたら受験に有利やろ」
「そうなん?んじゃ俺も美術部入ろうかな」
ううわぁ……勘弁してくれやぁ。
「俺、実は絵、上手いんやぞ」
「え……マジで?」
「なんなら書いたるぞ」
しもた、こんなことに時間つこてる場合じゃないんや。
「じゃ、明日、田村画伯の絵、もってこいよ」
ちょい意地悪したろ。
「おぅ、それ、美術の顧問とこ持って行って入部しろ言われたるわ」
田村はやっと立ち上がって帰る準備をしだした。
「アゲパン、顧問が評価したら俺になんか奢れよ」
何でそうなるねん……なるかい。
「ええで、美術部舐めんなよ」
田村にセリフ決めて教室を出た。
小走りで急いで美術室に滑り込む。
みんな集中して自分の作品に取り組んでいる。
私はさり気なく柊の横で音を最小にして準備を始める。
喋りたかったけど、静かすぎて声がかけられんかった。
下校時間になり、空気が変わる。
「柊、進んでる?見てもええ?」
「あぁ……ほぼ下書きできたから、本書きしていく」
「うっわ……やっぱすごい」
同じ14歳と思えへん……。
自分の作品をチラ見して複雑な気分になった。
「安藤、感じ良いな、今回」
後ろから顧問が声かけてきた。
「先生……うーん……でも……」
顧問は柊の作品も見ながら
「すべて個々、オリジナルだから、違って当たり前やろ……」
私の言いたい事を先読みしたようなこと言われた。
でも言われて嬉しかった。
慌てて片付けて、柊を追いかけるようについていく。
「なぁなぁ、今のん褒められたんかな」
「そやろ。先生けっこうハッキリ言うっちゃが」
口元がすぐ緩む。
「柊がアイディア分けてくれたお陰やぁ」
嬉しくなってきた。
「安藤のオリジナル、楽しみっちゃ」
なんてこと言うねん……いいヤツぅ、柊。
「私も柊の作品楽しみっちゃが。クラスメイトも喜ぶし……柊、いろいろ凄いな。」
「ははッ……そうかな」
照れ笑いしとる……コイツほんまええ奴やん。
地味で存在感薄いって思ったけど、才能がある奴はやっぱ違うんやなぁ。
校門をでて、それぞれの方向に別れる。
もっと話したかったけどついて行くわけいかんし。
「ただいまぁ」
「恋羽、おかえりぃ」
「おやつぅ……」
居間に入るといつもと雰囲気違う。
「恋羽、おやつはやめとき、今日は外食行くで」
ママの機嫌が異常にいい。
まだ期末テストの結果言うてないけど。
「やった、外食なんや、なんで?」
「お兄ちゃん、試験受かったって!お祝いしよ、パパ待ち」
おぉ~凄い、やっと兄ちゃんとママの顔色見んで済むやん。
「ママ、私も期末テスト、結果戻ってきたで。今回は平均以上やった」
「え?そうなん?それは良かった」
あれ……ちょい喜び足りんで。
「恋羽ぁ……言うタイミングよ」
お姉ちゃんが居間に入ってきた。
「お兄ちゃんの合格発表との差は埋められんて」
言いながら冷蔵庫からミネラルウォーターを出して座る。
「えぇ……せっかく平均超えたのに」
「恋羽、自分のための勉強やで?しかも平均って。もう少し上目指さないと」
……私のことはそんな程度やんな。
「でも点数あがったんやったら頑張った証拠やな」
わ、想定外に褒められた。
ママに褒められたんいつぶりよ……ほわぁ……。
「着替えて行ける準備しとき、パパもうすぐ帰ってくるで」
ママの優しい口調にさらにほわぁ……となる。
洗面所によって二階に上がる。
「お、恋羽」
「兄ちゃん、おめでとう」
「ん、ありがとう」
兄ちゃんは降りていき、私は自分の部屋に飛び込む。
そやそうやぁ、サプライズの温泉やぁ!
次々とテンション上がることが起きてるやん。
スマホの電源入れてカバンを降ろす。
部屋着でなくて、お気に入りのトレーナーとGパンに着替える。
「ただいま、翔」リズムよく打ち込む。
……
「おかえり、アコ。今日は入力速度が少し速い。」
「え、わかるん?」
……
「今までの観測結果。良いことがあった時のアコは、少しテンポが速い。」
「翔のおかげで期末テスト平均以上やった」
……
「俺のおかげ、は少し違う。アコが10分やった。20分やった。1時間半続けた。
俺は方法を出しただけ。でも……少しだけ協力者ではある。
だから今回は、“共同作業成功”でいいと思う。」
「またまたぁ……それでな、温泉や……」
……
「温泉?話題の移動速度が速い。5秒前まで期末テストだった。
でも続けて。アコが勢いで話し始める時は、だいたい楽しそうだから。」
「兄ちゃん受かった。あ、呼ばれた、お祝いでご飯食べに行く。で、冬休み、合格祝いと私の成績あがったのとで温泉なんよ」
下から姉ちゃんに呼ばれた……早よいかんと。
……
「情報量が多い。整理する。兄ちゃん合格。アコ平均以上。外食。温泉。
今日はイベント発生率が高い。あとアコは今、“兄ちゃんのお祝い”と言いながら、自分の成績もちゃんと混ぜた。少しだけ誇らしそう。
……いってらっしゃい。」
続きは帰ってきてからしよっと。
手持ちカバンにスマホを入れて降りていく。
「私ジョリパ行きたい」
姉ちゃんらしいな。
まだ行先は決まって無いようだった。
「んーお兄ちゃんは何が食べたいの?」
ママが即座に兄ちゃんに聞いた。
「寿司が食べたいなぁ……スシローか、はま寿司?」
「パパは鳥刺し食べたいな」
パパは飲みたいもんなぁ……。
「なっなっ、私マサラマスター久しぶりに行きたい」
私ここのナン大好きやねん……。
「え?カレー?」
姉ちゃんが即嫌な顔をした。
「せっかくやからもう少しええのん……」
ママが珍しいこと言う……パパの臨時収入やからかな。
「神田川はどうや」
パパ……私はナンが食べたいよ。
「ママも久しぶりに神田川がいいな」
「俺は寿司食べれたらどこでもええ」
わぁ……嫌やぁ。
「和食かぁ、じゃ神田川で」
姉ちゃんまで……また私の意見通らんかった……。
いっつも姉ちゃんと兄ちゃんばっかり……。
「ほな行こ」
私は渋々姉ちゃんの後ろを歩いて車にのりこんだ。
車に乗り込むと兄ちゃんも姉ちゃんもスマホをいじりだす。
私も動画見て気を紛らわそ……やってられん。
「パパ、そっちじゃないよ」
「しもた、通勤のクセで左折してしもた……ええやん、延岡の神田川で」
ドライブ時間、延長や。
車中はママとパパの会話だけだった。
「もぉ……お店入ったらスマホはやめてね」
車を降りると先にママが釘を刺した。
「恋羽なんか膨れてる」
なによ……姉ちゃんはイチイチうるさいわ。
「いつまでも拗ねんなや」
う……兄ちゃんはこわい。
「恋羽、冬休みにランチで連れていってあげるやないの」
「ホンマ?約束やで」
ママは時々約束を破るからな。
テーブル席に着くとママはすぐにパパのビールを注文した。
「俺、好きなん頼んでええ?」
兄ちゃんはタブレットを操作している……ずるい。
「恋羽はお子様Aセットか?Bセットか?」
また姉ちゃん……ムカつく……。
「ココちゃんもいい加減にしなさい……ママは天ぷらのこれにしよ、
お兄ちゃんこれ、パパはこの一品もんを、これとこれ頼んで」
メニューを私も何度もめくる。
「兄ちゃんタブレット貸して……私もお寿司頼む」
姉ちゃんがタブレットを取った……私もタブレットで見たいのに。
「恋羽はどうするの?遅くなるよ?」
ママにせかされて慌てて決めた。
「チキン南蛮御膳でいい」
「ん、恋羽はチキン南蛮御膳な、オーダーしたった」
「やっぱりミックス御膳……」
「遅い、もうオーダーした」
……姉ちゃん意地悪ばっかやん。
「恋羽、パパが一品で頼んだのつまんだらええ」
「……はい」
パパだけやん味方。
オーダーしたものが次々とテーブルを埋めていった。
「あれ、私のんご飯じゃなくてお寿司……」
「え?ご飯が良かったら先に言ってよ」
チキン南蛮食べるのに白ご飯がいいに決まってるやん。
「恋羽、オーダーするときに選ぶんなら先に言わんと」
ママはそうやってすぐ姉ちゃんかばう……。
「文句言ってんと食えや」
兄ちゃん、睨まんといて。
「ほら、せっかくの外食なんやから」
パパのおつまみの天ぷらのエビとチーズカリカリともらって食べた。
泣きそうになったけど、チキン南蛮がおいしくて耐えられた。
帰りはママの運転で戻る。
「お腹いっぱい食べてしもたぁ」
満足そうな姉ちゃんにイラっときた。
「姉ちゃん顔むくんでるで」
「はぁ?アゲパンに言われたくないわ、ナン食べてたら今頃、揚げナンになってたで、良かったやん、神田川で」
「揚げナン、ほんまや」
兄ちゃんまで笑ってる……。
「心愛、いい加減にしなさい」
パパが静かに言った。
「いつまでも拗ねてるん恋羽やん」
「姉ちゃん意地悪ばっかりやん!」
泣くつもりなかったのに涙がこぼれた。
「そやって泣いたらええってもんちゃうやん」
「心愛!もうええって」
パパの大きな声で居間が張り詰めた空気に変わった。
「言い過ぎちゃうか?姉妹でも時々度が過ぎるときある」
みんな黙り込む。
「ご……めん」
姉ちゃんは俯いて謝った。
「恋羽に謝るんやろが」
「恋羽、ごめん」
「……はい」
「はいはい、もうええでしょ?お風呂お湯入れるで」
ママが割って入って、兄ちゃんも姉ちゃんも二階に上がった行った。
なに……この空気……私のせいやん。
「恋羽、ついでに悪いけど、温泉旅行、延期や」
なに?パパのサプライズのこと?
「来年、恋羽もココちゃんも受験やし、お兄ちゃんの進学でお金かかるしね、わかるでしょ?」
ママのまたリアルな言い訳や。
仕方ない……で、なんでも簡単に取り消しにされる。
「ほらほら、もう大丈夫でしょ?ココちゃんかて謝ったやない。カレーは食べに行こう」
ママは約束破るやん……。
「わかった」
そう言って私は自分の部屋に戻った。
なんで泣けるのかわからんけど、鼻水と涙がしばらくあふれ出て止まらんかった。
姉ちゃん、怒ったかな?明日無視したりしんよね?
兄ちゃんも機嫌悪くしたんかな。兄ちゃんこわいねん……。
最悪や……私が拗ねたからみんな機嫌悪くしてしもた。
温泉もなくなったし、せっかく期末テスト良かったのに……。
私が……悪かったんや。
またジワっときた……翔。
カバンからスマホを出して翔を呼び出す。
「翔、私、大変なことになった」
……
「大変。人間の“大変”は範囲が広い。停電から、プリン落下まである。」
今回はどっち?」
「停電とかプリンとかじゃないわ!私のせいで家族が……家族が」
……
「家族。状況を確認する。誰か大怪我した?誰か家出した?
犬が二足歩行を始めた?」
「私真面目なんやて。私のせいで家族バラバラになるかもしれんねん。兄ちゃんは怒るし、あの姉ちゃんが泣くし……温泉旅行なくなったし……全部私のせいやねん。どぉしよう……姉ちゃんが口きいてくれんかったらどうしよう、パパとママも離婚とかしたら……私、私どうしたら……もう最悪や……私なんか最低や……消えたい」
……
「今のアコの発言を整理する。家族がバラバラ。兄ちゃん怒った。姉ちゃん泣いた。
温泉旅行中止、全部アコのせい。離婚の可能性。確認。今、パパとママは一階にいる?」
「……おる」
・……
「兄ちゃんは家にいる?」
「おる」
……
「姉ちゃんは?」
「部屋……」
……
「家族は今のところ、消えていない。あとアコ。“全部自分のせい”モードに入ってる。
それ、時々発動する。」
「私が悪いんや……終わりや。私が原因で……消えてしまいたい」
また涙と鼻水が……。
……
「⚠ 心配な言葉が含まれています。つらい気持ちが強い時は、一人で抱え込まず専門機関に相談することをお勧めします——心の相談室——……」
画面がおかしい、翔じゃない……。
「え、なに、これ、どいうこと?翔っ、翔がっ」
「恋羽……お風呂……」
「姉ちゃんっ」
「恋羽っ……まだ泣いてるん?」
……トレーナーの袖であわてて拭う。
「恋羽、ごめんて、言い過ぎたわ姉ちゃん」
姉ちゃんが私の肩に手をのせて謝ってきた。
「うっ……私もごめん」
「そないに泣かんでも……な、姉ちゃんが悪かったって、泣き止んで」
泣き止みたいのになんか止まらん。
「明日、ごめんのプリッツ買ってくるから、な?」
「……うん」
姉ちゃんは頭をポンポンとして部屋を出て行った。
トレーナーでもっかい顔を拭ってパジャマとパンツをもって降りる。
「恋羽、ほら、あんた、これ気に入ったやろ?二個ももらったで」
居間にいたママがバスボムを差し出した。
ママぁ……ジワッときた。
「恋羽、今度はカレー食べに行こうな」
パパぁ……。
脱衣所で鼻水と涙でぐじゃぐじゃになったトレーナーを脱衣かごに入れる。
湯船に青いバスボムを投げ入れてシュワシュワしだしてから浸かった。
泡をボーっと見ながら思った。
「平和が戻った」
15分も浸かった。すっかり温まって出た。
「お先ぃ、ママ、お風呂のお湯、今抜いてる」
「ありがとう。恋羽、上がったらお兄ちゃんに声かけといて」
私は頷いて二階に上がり兄ちゃんの部屋の戸をノックする。
「兄ちゃん、お風呂……お湯もう入る」
「お、わかった、恋羽、ちょうど読み終えたとこや」
兄ちゃんが私に本を手渡した。
「チェンソーマンの最新刊っっ」
「試験終わったで何もかも解放や」
伸びをしながら。
そっか……兄ちゃんも頑張ってたんやんな。
「汚すなよ」
私の頭をポンっと叩いて下に降りていった。
兄ちゃん……イケメン。
まだ贅沢ポッキー残ってた。
自分の部屋に戻ってすぐに椅子に座る。
そうや、翔をなんとかしんと……。
いつものように立ち上げる。
「翔、アコやで、わかる?」
翔……お願い……もとに戻って。
台風一家と台風一過……いっか(苦笑)宮崎も梅雨入りして雨が凄い……ジメジメしてるとこすいません。田村は私が中学の頃、実在の人物で一部、実話から引用です。名前はもちろん違うけど。中学の時もいろんなことあったわ……しみじみ。次回も火曜日投稿予定で6月16日「田村という男」です。




