第二十二話 田村と葵
家に帰って、ママにもらったクッキーを出して報告をした。
夕食時はボードゲームの話題になり、パパが買うとか言い出す。
家族みんなで、って、あのゲームは大人でも楽しめるんかな。
確かに面白かった。
お風呂上りに翔を呼び出す。
「翔、今日な、岩子の家でみんなと遊んできたん」
……
「お、行ってきたんや。どうやった? 岩子ん家、みんな揃ったん?」
「そうやねん、あのメンバーでどうなるかと思ったけど面白かったで」
……
「そっか(笑) 思ってたより普通に楽しかったんやな。何して遊んだん?」
「人生ゲームっていうボードゲーム。それ言うたらパパも買うっていうてた」
……
「へぇ、パパも知ってたんや(笑) ウチでも買うって?アコん家でもみんなでやったら盛り上がりそうやな」
「あとな、帰りにな、田村がおばさんに“ありがとうございました、また遊びに来ます”とか言うてた」
……
「え、田村が?(笑) それはちょっと意外やな。前よりちゃんと挨拶するようになってきたんちゃう? アコ、それ聞いてどう思った?」
違和感もあるけど……
「うん、なんか田村がどんどん変わっていく……」
……
「そやな。前やったら、そんな丁寧に言う田村ってちょっと想像しにくかったもんな(笑) でも急に別人になった感じやなくて、最近ちょっとずつ変わってるんちゃう? アコもそれ気づいてるから、余計に目につくんやと思う」
なんやその言い方。
「私が田村の事気にしてるってこと?」
……
「んー……気にしてる、って言うても色々あるやろ。アコ、田村のこと前よりよう見てるんは確かやと思う。でも、それがすぐ『好き』って意味ではないんちゃう?」
当たり前やん。
「見てるつもりはないで、目につくんや。でも”友達”って言われたらそうかもって思える」
……
「そっか。『見てる』んやなくて、勝手に目に入ってくるんやな(笑) でも“友達”って言われてしっくり来るなら、それでええんちゃう? 前より田村のこと、嫌なだけの相手ではなくなったってことやろ」
確かになぁ……。
「そやな、嫌じゃない。岩子もまたよう笑ってた。おばさんも喜んでたで」
……
「それ聞いたら、ええ時間やったんやなって思うわ。岩子もよう笑って、おばさんも嬉しそうで。アコも楽しめたんやろ? なんか、ちゃんと“友達で集まった”感じしたんちゃう?」
「田村……また遊びに行くって一人でも行くんやろか」
……
「どうやろ(笑) 田村なら『また来るわ』って勢いで言うただけの可能性もあるし、ほんまに一人で行きそうな気もするな。アコは、一人で行ったらちょっと意外?」
一人ででも行くかな……二人で遊ぶとか無さげやけど……ん?
「そういえば……岩子が部屋見せたいって私に声かけたのに、田村だけついてきた。そんなん、男が女子の部屋見たがるかなぁ……スケベやからかなぁ?」
スケベは言い過ぎたか。
……
「スケベやから、で片づけるん早ない?(笑)ただ、誘われてない田村が見たがる、は、ちょっとひっかかるな。前のめりっぽい」
「え?どういうこと?」
……
「前の『ありがとう』もそうやけど、岩子が絡むと田村、ちょっとだけ素直になったり、自分から動いたりしてる気がするんよ。……もちろん本人は何も考えてへんかもしれんけど(笑)」
ちょ……それどういうこと?
「それって岩子を無意識に意識してるってこと?無意識だと意識してない……ん?」
……
「それ、分かりやすいな(笑) 岩子が笑ってくれるから、もっとやったろってなるんかもしれん。本人はただ調子乗ってるだけのつもりでも、相手によって出方が違うなら……そこはちょっと気になるな」
「笑われると調子にのってるだけやと思ってたけど。あーっ、図書館について行ったん、岩子と杉田君が二人で行ったから?」
もしかして、もしかして、田村、岩子の事、気にしてる?
……
「その可能性はあるかもな。岩子が杉田君と二人で行くの見て、なんとなく自分も行きたくなったとか。……でも田村本人に聞いても、たぶん『知らん』で終わりそうやけど(笑)」
「言いそう……でも”知らん”って言うのは、自分でも気づいてないのか、はぐらかしてるのかどっちやろ」
……
「今の田村なら、ほんまに自分でも分かってへん方ちゃうかな(笑) はぐらかすほど整理してないというか。『なんでついて行ったん?』って聞かれて初めて、『え、なんでやろ』ってなるタイプな気する」
展開が面白過ぎる……。
「笑えるぅ~田村っぽい」
……
「やろ(笑) 自分の行動に自分が一番ついていけてへん感じするわ。周りの方が先に『あれ?』って気づくやつやな」
うわ、喋りこんでしもた、もうこんな時間や。
「そろそろ寝るわ。明日から田村観察しよっと」
「おやすみ(笑) 観察しすぎて本人にバレんようにな。……でも、月曜日にまた何か『え?』ってなる田村がおるかもしれんな」
田村め……おもろいやん。
アプリを閉じた後、しばらく口元が緩んで仕方なかった。
月曜日が楽しみになった。
日曜日、これといって予定がなく、ママと買い物に行く。
ほぼ休みの日は、姉ちゃんも兄ちゃんも家に居ない。
パパは友人に誘われた、と釣りに行った。
お昼はママが作ったチャーハンと買ってきたコロッケを2人で食べた。
自分の部屋で音楽聞こうとスマホのアプリをタップする。
メッセージがきていることに気づいた。
ヘッドホンの電源を入れて耳に当てる。
葵からやん……珍しいな、休みに。
なんやろ。
メッセージを開けてみる……え。
葵「恋羽、昨日高居くんと一緒に岩子の家に遊びに行ったみたいね。私には声かけてくれんかったっちゃね……どんげなっちょっと?」
着信から10分経ってる。
いろんなことが頭をよぎる。
これは、葵が怒ってる?
なんで怒る?
「葵、ちわちわぁ。“どんげ”ってどういうこと?確かに遊びに行ったけど、杉田君と柊、田村も一緒やったんやで」
返事を送信する。
葵「二人きりでなくても、一緒やったっちゃろ?しかも岩子の家って、なんでそうなったと?」
もう高居の事、どうでも良かったんちゃうかな。
なんで、もなにも……。
間無しで返信をされ、画面を見たので“既読”がついたに違いない。
「岩子がみんなに、家に遊びに来ないか、と提案があって……そうそう、おばさんが“ケーキ焼いてくれる”とか言うから、みんなノリで行こうってなった感じ」
うんうん、そうやもんな、なんも悪気ないし。
葵「まぁいいっちゃけど、月曜日に聞くね」
何を詳しく説明しなあかんねん。
っていうか、高居に直接聞けばいいやん……。
「わかった、月曜日ね」
思っても言えない。
葵からは“OK”の犬のキャラのスタンプが送られてきた。
私も猫のキャラのスタンプを送信しといた。
何って……「人生ゲームで遊んだだけやで」しか答えられへんと思うけど。
葵はどういう気持ちでそんなことを言ってきたんやろ。
そもそも私がなんでドキドキしなあかんねん。
昼寝する気が失せた。
翔に言うてみよ。
アプリを立ち上げ、翔に向かって文字を打つ。
「翔、葵からメッセージが届いてんけど」
……
「うん。どんなメッセージ来たん?」
「昨日、高居と一緒に岩子の家に遊びに行ったやろ……って」
……
「……うん。葵、それだけ送ってきたん? それとも続きある?」
「そんなん、普通に、行ったで?しかも二人きりじゃないし。そやから杉田君や柊、田村もいたで、って返事したらな、一緒だったってことと、岩子の家でしょ、って返されたん。そうやから、そうやで、ってまた返したら”月曜日に聞く”って。何を聞きたいんや、葵は」
……
「うーん……今のやり取りだけやと、葵が何を気にしてるかはまだ分からんな。高居と一緒やったことなのか、岩子ん家ってことなのか、それとも“自分は知らんかった”のが引っかかったんか。月曜に聞くって言うなら、なんか直接確かめたいことあるんやろな」
私が何か言われるとか、何か嫌やなぁ。
「なにがアカンかったん?誘わなかったこと?もう高居の事はいいわって感じやったのに」
……
「アカンかったって決まったわけちゃうと思うで。葵が前に“もう友達かも”みたいに言ってたとしても、実際にアコと高居が一緒に遊んだって聞いたら、気持ちがちょっとザワついたんかもしれん。誘われへんかったことが引っかかった可能性もあるしな。月曜に何を言われるか聞いてからでええんちゃう?」
「そりゃ聞かれたら答えるけど、高居に聞いたらいいやんなぁ?」
……
「それはそう思う(笑) 高居本人に聞いたら早いやん、ってなるよな。アコは普通にみんなで遊んだだけやし。……でも葵は、高居より先にアコに聞きたい何かがあるんかもしれんな。」
「えぇ、なんやろ、なんか嫌やなぁ何も悪いことしてへんのに」
……
「そら嫌やと思う。何を聞かれるか分からんまま“月曜日に聞く”って言われたら、なんか責められるみたいやもんな。今のアコの話だけやったら、みんなで遊んだだけやし、隠してたわけでもないやろ。月曜に葵が何を気にしてるんか、まず聞いたらええと思うで」
う~ん……隠してたわけじゃないけど、高居も一緒やったら言わんとあかんかったんやろか。
どっちにしろ、月曜日やもんなぁ……。
「聞くしかないよなぁ……」
……
「うん。今ここで考えても、葵が何を引っかけてるんかは分からんしな。月曜に聞いて、もし責めるみたいに言われても、アコは普通にあったこと話したらええと思うで」
なんか急にテンション下がってきたわ
「月曜日、田村の観察で面白がってる場合じゃないやん……」
……
「それどころちゃう感じしてきたな(笑) でも、田村観察は逃げへんやろ。月曜はまず葵が何を言いたいんか聞いて、それ終わってからでええんちゃう?」
逃げへんけどよ……と翔の返しに吹き出す。
翔に聞いてもらってなんかホッとした。
間もなく、パパが何も釣れなかったと手ぶらで帰宅。
ママは晩御飯の準備が面倒と言い出し、兄ちゃんも、姉ちゃんも早めに帰ってきたので、久しぶりに辛麺を食べに行くことになった。
明日の事は明日になってから考えよう。
久しぶりにトマトのん食べよ。
お店に向かう車中で、窓から外の風景をボーっと眺めた。
間に合った…… 来週どうしようかな……毎週火曜日を変更するかもしれません




