第二十一話 岩子家庭訪問
朝、葵と待ち合わせ、もちろん普段通り。
高居含めて、岩子の家に集まること、まだ知らない。
私からそもそも言うことなんやろか?
「葵、最近、高居と一緒に遊びに行ったりとかしてないん?」
まずリサーチやな。
「うーん……LINEもやりとり減ってきてるかなぁ……」
これは……もしや終わりの前兆?
「高居とは友達?」
言ってから“ハッ”とする。
葵の顔をチラっと見る。
「あぁ……もうそうかも」
葵は……高居に冷めてしまったのか。
「隣のクラスの原田君ってわかる?1年生の時はダサかったのに、なんか引き締まってさぁ、雰囲気変わって、だんだんいい感じになってきてんの」
葵のイケメンレーダーがキャッチしたらしい。
「またさ、名前が“逸心君”よ?カッコよくない?」
それは私にはよくわからん。
とりあえず、高居の事に関しては報告義務が無いように思えて、少し気が楽になった。
教室に入ると、荷物を降ろせばすぐに葵は川田さんのところへ行く。
「あげぱん、今日ザビエル、校門で布教活動しとったなぁ」
いや、歴史の先生、頭頂部薄いからってだけでザビエル言うたんなよ。
布教活動って、生活指導で立っとっただけやろ。
返答する価値がない場合はスルーするに限る。
「ふふふっ、ザビエルって……おはよ~」
笑いながら岩子が来て葵の席に座った。
「明日さぁ、ママにみんなが遊びに来るって言ったらすごく喜んでね、ケーキ焼くって言ってた」
ケーキ!!
単純なワードにドキドキした。
手作りのケーキなんか見たことも食べたこともない。
ホットケーキやクッキーくらいなら姉ちゃんが作ったりはあったけど……楽しみ。
「おぉ、マジで? おはよっ」
葵が向こうにいったのを確認してから来たように高居がチラっと振り返りながら岩子の横に立つ。
「ケーキ、ケーキ」
また調子にのった田村が変な踊りを始めた。
小学生やろ……私も楽しみやけどそんな露骨な……。
「フフッ、そんなに喜んだらママもっと喜ぶっちゃが。気を使わないで手ぶらできてね」
岩子の家に遊びに行く、男女混合で何して遊ぶ?と思っていたことがふっとんで“ケーキを食べに行く”がメインみたいなイベントになったように思うのは私だけではないだろう。
明日は土曜日で、学校帰りではないから私服で行くことになる。
こないだ柊にコンビニで会った時はまだ制服のズボンやったな。
私服ってその人の違う面が見れる気がするからそれもちょっと気になるかも。
約束の時間に私は何も要らんって言うてんのに、ママが甲斐さんからたくさんもらったからと、大根をもたされて岩子の家に向かった。
「あ、田村」
前を歩いている田村に追いついてしまった。
「あげぱん、何もってきてると?何も要らん言われたやろ」
そういう田村も広告にくるまれた何かを持っている。
スーパーの袋を広げて田村に土の付いた大根を見せた。
「もらったから持っていけって強制やん……田村こそ何持ってるんよ」
「うわぁ、ダサっ……まんま大根や」
言いながら田村は見せずに手にもったまま。
「俺のは……いいやんけ、ケーキをタダで喰うの気がひけるけ……ちょっとしたもん」
本人が見せたがらないものを強引に見せろとは言えない。
田村の私服は着古した感じのネルのシャツにGパンだった。
ユニクロかGUっぽいな。
私もユニクロのフリース着てきたけど、お揃いにならんくて良かった。
岩子の家が見えてくる頃に杉田君と高居が一緒に歩いている姿が見えた。
玄関近くには柊が待っている。
高居はスポーツブランドのスウェットの上下、いかにも野球少年や。
杉田君はワークパンツにシャツとベスト、上にジャンバー羽織ってる、お洒落やな。
柊は厚地の綿パンにハイネックの上にセーター……制服とあまり変わらない。
「いらっしゃい、入って入ってぇ」
インターホンを押してあったのか、ドアが開いて岩子が出てきた。
岩子……イメージがガラリと変わる、ワンピースだった。
玄関に通されて、ぞろぞろと家に入っていく。
「おじゃましまぁす」
大根をぶら下げている私は最後に入る。
「どうぞ~あ、奥の部屋に入ってね、はい、こんにちはぁ」
岩子のお母さんらしき人が出迎えている。
「ん?なに、もらっていいの?」
岩子のお母さんに何の包みかわからんけど田村が渡してた。
私は恥ずかしいながらもひっこめられずに大根を袋のまま差し出す。
「恋羽ちゃんやね?美香子ちゃん、最近学校楽しいみたいで、よく友達の話してくれるのよ。ありがとう、わぁ、大根、嬉しいわ」
おばさんにそう言われて更に恥ずかしくなった。
でも嬉しい。
家に入ると甘い香りがして期待感が高まる。
そやそや、岩子って言うてるけど“美香子ちゃん”やった。
奥に行くと広くて明るいリビングだった。
「お茶入れるから適当に座ってね、今日は遊びに来てくれてありがとう」
おばさんはキッチンに入り男子たちはやや緊張気味にしている様子が笑えた。
「私の部屋では少し狭いからここで遊ぼう、あ、杉田君みて、ここ、ほら」
岩子がリビングの奥にある立派な本棚に杉田を案内している。
「パパと私が集めた水木しげるの本とかあるねん、見ていいで」
杉田は本棚の前で興味深そうに見入っていた。
「恋羽、ちょっと私の部屋行かん?」
私はドキッとしながらも岩子の部屋にも興味がわく。
「おぉ、岩子の部屋、俺も見たいわ」
え?田村すけべっちいこと言うなや。
「えー女子の部屋やし……んじゃ、男子は健太だけな」
健太……田村やけど、まだ聞きなれん。
岩子の部屋に興味示すってなんやろ……で、岩子も許可出すんや。
岩子に付いて二階にあがっていく。
岩子は一人っ子であることが判明。
「いかにも女子やん」
キレイに整理され、部屋の雰囲気はパステルカラーって感じだ。
「ママとパパの趣味なんよ……私はモノトーンが好きなのに」
本棚にびっしり文庫本がシリーズごとに並んでいて、ガラスケースの中にはフィギュアも置いてあった。
「岩子、凄いな、本こんなにたくさん読んだと?」
田村が本棚を眺めている。
「小学生の頃から好きで、中学に上がった頃から自分で書き出した。小寺さんと書いてたけど、もう学校来なくなって、家まで行ったけど、今は会いたくないとか言われてなぁ……それから会ってない、一人で書いてる」
小寺さん、喋ったこと無いからわからんけど。
「下に降りようか、恋羽に私の部屋見てもらいたかっただけ」
田村もついてきたけどな……なんでかしらんけど。
下に降りると紅茶を出されて、静かに座って飲む高居と柊がシュールで笑えた。
杉田君は水木しげるの本を手に取って立ち読みしていた。
「えっと……誰だっけ?お花ありがとうね」
おばさんは水仙の花を小さな花瓶にいれてダイニングテーブルに置いた。
田村、そこらに咲いてる水仙ちぎって持ってきたんやろか。
「えぇ~健太、お花ちぎってきてくれたん?笑えるけど……ありがとう」
確かに笑える。
田村はなりふり考えずに動く奴やからな。
「田村、靴下、穴あいてるぞ」
高居が田村の足元を指さした。
「ぶはっ……健太、小指出てるやん」
岩子がハマったのか笑い始めた。
「コイツだけ、はみ出し者や」
開き直ったんか田村。
「美香子ちゃん、笑い過ぎよ、ごめんね、田村君?健太さん?」
田村はホンマ、岩子が笑うと調子にのるよな。
おばさんは数種類のクッキーをのせたお皿をテーブルの端に置いた。
「これは昨日焼いた分やけど良かったら食べて。後でケーキ出すわね」
クッキーも手作り……しかも見た目もきれい。
「ママ、あのボードゲームで遊んでもいい?出してくれる?」
おばさんは頷くと別の部屋から箱をもってきて岩子と広げ始めた。
「みんな、“人生ゲーム”って知ってる?これ、てげ面白いっちゃが」
なんやそれ……。
「家族でするのと友達でするのは違うでしょうね、おばさんも一緒に見てていいかな」
箱から次々といろんな紙やカード、部品みたいなのを出して準備しているのをみんながジッと見ている。
「いただきます」
我慢しきれずに私がクッキーに手を出すと、高居や柊も手を伸ばした。
美味しい……ケーキが更に楽しみだ。
「最初に、この車の色選んで、これが人やから1個刺してな」
6色の車の中からそれぞれ色を選んで、人と言われたピンを刺す。
岩子はピンク、私は赤にした。
柊が緑、高居は黄色、杉田君は白で、田村は水色になった。
「これがルーレットで最初みんな回して数が多い人から1番、2番で始めよう」
岩子は数字の付いたルーレットを回すと止まった数をチェックし、私が次に回す。
「さいころ替わりやな」
高居が思いっきり回して早く回るのを見て柊が笑う。
「俺も俺も」
最後の順番の田村がまた調子乗ってルーレットを勢いよく回す。
「わっアホっ」
ルーレットが勢いよく私の目の前に跳んできて、つい田村に言ってしまう。
「ふふっ、早く回し過ぎると、とぶから普通にまわして」
笑いながら岩子に言われて素直に謝る田村に笑えた。
順番が決まり、岩子の説明を聞きながら6人が偽物のお金を受け取り、ゲームを始めた。
偽物のお金でももらうと嬉しいなぁ。
杉田君が一番でボードを眺めながら自分の番でルーレットを回して車の駒を動かす。
「バイトで給料をもらう……」
止まったところに書いてある内容を読み上げると、おばさんが指示通りの金額を杉田君に渡した。
「俺もお金もらおう」
高居がルーレットを回して駒を動かす。
「わぁ、家事代行とか、そんなこと頼まんって」
「マス目の内容にはしたがってね」
岩子に言われて渋々高居は書いてある金額を銀行役のおばさんに支払う。
「俺はガッツリ金もらうで」
田村はルーレットを回し、出た数字のコマを進める。
「見せてみ、“世の中一斉に値上げラッシュ……”」
岩子が田村の駒を持ち上げて読み上げた。
「え~全員が10,000ドル支払うん?俺さっきも支払ったぁ」
「田村だけじゃないん?」
ザワザワしながらおばさんに支払いをする。
田村はいきなりみんなに迷惑をかけるマス目に止まった。
ゲームのなかでも「田村」かよ。
「アニメーターやって。柊は漫画家よな」
柊が職業を選ぶところでアニメーターを選んだ。
「投資家とかあるやん、このゲーム、イケてるなぁ」
杉田君は明らかにお金が増えている。
高居はマスに止まるたびに悲鳴をあげてお金を払ったりもらったりしている。
田村は変な内容が多くて“火星にマイホーム建設を計画”とかで多額をおばさんに支払い、それで岩子が爆笑していた。
「そろそろケーキ切るわね」
銀行役をしていたおばさんが立ち上がりキッチンに向かった。
「おい、高居、どんだけ家族増やしてるねん」
高居は子供が増え、車が2台になり、それを見てみんなが笑う。
岩子は順調に結婚、子ども、マイホーム、とホームドラマの展開。
杉田君は投資が成功、海外進出と、似合った展開。
私と柊はかろうじて結婚したものの地味な進行でつまんない。
田村は狙ってんのか、というくらい手形(借金)が増えていく。
「ちょお、俺だけボンビーって……どんげよ」
「健太は賭け事しすぎっちゃ、私さぁ、いまツキがまわっとおでルーレット代わりに回そうか?」
田村がまた賭けるマスになり、岩子はそう言って代わりにルーレットを回した。
「マジかよ……」
高居がマジな顔で言った。
どんだけゲームに本気になってんねん。
岩子が回したおかげで田村に大金が入った。
偽金を手に持ちはしゃぐ田村。
「飲み物も入れ直すけどコーヒー飲む子いる?」
おばさんが手に持つトレーの上の切り分けたケーキに視線が注がれ、一瞬静まり返る。
「しずかちゃんの家やん」
田村がこぼした言葉にみんながまた笑う。
コーヒーに手を挙げたのは柊と、杉田君だった。
ゲームを一時中断し、ケーキを食べる。
お店のケーキと変わらない、何ならいちごが沢山のっている。
いつも最後に食べるいちごを取り置きせずに食べた。
美味しい……なんかジーンとくる。
「おばさん、凄く美味しいです」
杉田君、かっこいいなぁ、大人っぽく感じる。
「嬉しいわぁ、このゲームもやっぱり人数多いほうが盛り上がるね、見てるだけでも楽しいわ」
ケーキを食べ終えるとゲームを再開し、岩子の家でしたことはそのボードゲームだけだった。
ゲームの勝者は杉田君で、次が岩子だった。
「高居、子ども増えすぎ」
柊のツッコミにみんなが笑った。
田村は一瞬金持ちになったが借金を支払いテンションが下がる。
それを見て岩子が一番笑っていた。
「その残金で新しい靴下買えるやん」
田村にそう言ったが、ビリなのは私で、ゲームでもリアルでも手持ち金が寂しいことに、テンションが一番下がっているのは間違いなく私だろう。
「本当にみんなありがとう、美香子ちゃんが一番笑ってたんじゃないかな?これ、みんな持って帰って食べて」
小さいペーパーバッグにクッキーが入っているものをおばさんが配った。
「もう、ママあまり恥ずかしいこと言わんとって」
確かに、岩子はずっと笑ってたな。
「おじさんがボードゲームが好きでね、他にも面白いゲームたくさんあるからまた遊びに来てね」
「そそ、このメンバー、絶対おもしろいわ」
岩子とおばさんが顔を見合わせて言ってる。
来る前は、何して時間潰すんやろ、とケーキにつられてきたけど楽しめた。
人生ゲームでこれだけ盛り上がったんやもん、楽しそうやな。
「おばさん、また来るわ、ケーキもごちそうさまでした」
え……田村そんな挨拶できるんや。
「今度は新しい靴下で来いよ」
高居がまたみんなを笑わせた。
お土産を手に、それぞれ挨拶をして岩子の家を後にした。
予想外にみんなと遊んだの、楽しかった。
男女仲良く、「友達」ってこんなんやって思えた。
翌日、友達同士で遊んだだけやのに、葵の態度が豹変するなんて予想もしてなかった。
今回も遅れて投稿になってしまいました 昨日覗きに来てくれてた人が居たらスマン ペースダウンしてしもうてる ケーキは苺多めにのせてもらった AIの翔は出てきませんでしたね 初めてかも みんな楽しく遊びました・・だけの回になったな 来週も火曜日は投稿できるかどうか(もう言うてしもてるやん)




