第二十話 キミも友達
「おん、俺、あげぱんのこと好きやぞ」
え?え?田村……そんな、まさか。
「恋羽っ、恋羽―っ」
……ん?
体を揺り起こされて目が覚めた。
「ママ何回も下から呼んでるのに返事しぃひんから。遅刻するで」
姉ちゃんはため息ついてすぐに下に降りて行った。
夢か……ビビったぁ。
洗面所で顔を洗って座る。
「恋羽、体調が悪いとかじゃないよね?」
ママがおにぎりと玉子焼きを目の前に置いた。
「あ、ん、単なる寝坊……」
寝癖を直す間もなくおにぎりを口に押しこんで、葵との待ち合わせ場所に向かう。
「恋羽おはよ……寝癖直らなかったん?」
すぐに指摘された。
「おはよ。寝坊したんよ」
2人で歩きながら、以前に高居が私の髪を触って、葵に怒られたのを思い出す。
「葵……あれから高居とはどうなん?喋ってる?」
チラっと葵の横顔を見た。
「ん~変わらず話盛り上がらんと。部活行くし喋る時間も少ないしね」
「あんまり喋ってないん?」
「うん……冷めたかも」
葵の言葉を理解できずにそのまま教室に入って行った。
「あげぱん、キン肉マンって知ってるけ?」
いつもの雑な始まり。
ただ、今朝は気分がのらないのでスルーしよう。
「おはよ~」
すぐに岩子が輪に入ってきた。
「タクヤにケンタ、恋羽」
え?
聞きなれない名前に岩子の顔を見る。
「どーしたん岩子」
「私も恋羽も下の名前で呼ばれてるから、田村も杉田君も下の名前で呼ぶことにした」
岩子は名前ちゃうやろ、アゲパンもやけど。
杉田君まで……。
田村健太、杉田拓弥が彼らのフルネームではあるがなぜ急に…。
「昨日図書館寄ったでしょ?もう健太がさぁ……」
笑いながら岩子が喋りだすところを杉田君が被せるように続けた。
「田村が静かな図書館で騒ぐから、先生に怒られて追い出されたんだよな」
田村、どこまで空気読めない奴やねん。
「単なる迷惑行為やん」
呆れてたら口に出てた。
「え~でも健太、面白かったよ~」
田村はニヤニヤしているまま。
健太言われてもしっくり来ないって。
「おはよ、あげぱん、また髪、はねてる」
後ろから来た高居が加わった。
「高居くんは直人……直人ね」
岩子に即、下の名前呼びされ、高居もキョトンとしている。
何が起こってるんや。
「私さぁ、やっぱ、名前呼びが友達って感じがすると思うっちゃ」
友達……。
「確かに、名字って固いよな」
高居ものっかりだしたな。
私もみんなのこと名前で呼ぶことになるんやろか。
給食の時間になるとやはり葵は木村さんのところに行くのが定番になった。
「恋羽ぁ~今日の給食、鶏飯~やった」
トレーを持って岩子が来た。
私も給食で鶏飯好き。
「きびなごのフライが飛んでる~フライ~」
田村は箸でおかずのフライをつまんで高くあげた。
「あっはは、健太、またバカ言うてる」
「田村、落とすぞ……。フライって“ハエ”でもあるし、“イケてる”の意味もあるぞ」
笑う岩子と杉田君。
杉田君は忠告と補足までしている。
「健太、きびなご好きなん?私さぁ、これ苦手~あげる」
岩子は立ち上がって皿からきびなごのフライを田村の皿に移している。
「お……ありがとう」
……今、ごっつう違和感あったんやけど。
田村って、今まで人にそんなこと言うたことあったっけ。
「恋羽も欲しかった?」
「い?えっ……いらんで、いらんで」
慌てて首振ってしもた。
岩子も田村もご機嫌やなぁ。
給食を食べ終わると岩子はいつものように歯磨きに洗面所に行った。
「岩子は歯磨き好きか」
高居が来るなりそう言って、岩子が座ってた葵の椅子に座った。
「食後はするもんなんやろうけどね」
言う私も面倒だからしない。
「山上さんは歯の矯正してるからやろ」
杉田君は呼び捨てされても女子には“さん”付けするってなんかカッコええなぁ。
「なぁ、みんなで集まって遊ばん?」
戻ってきた岩子は歯ブラシをカバンにしまいながら突拍子もないことを言いだした。
「集まってって……?」
まさかこのメンバー?と思って聞いてみた。
「そそ、土曜日とかどう?私ん家でいいっちゃが、ママにも言うとくし」
「俺、行く~」
田村の即答に引く。
女子の家にたやすく行くもん?しかも女子に嫌われキャラ。
「土曜日は部活があるっちゃ」
高居の返答に、誘われてるメンバーに入ってるんや、と思った私。
「じゃ、土曜日の午後は?ママね、お菓子作りが得意っちゃ、凄いとよ?」
高居は野球部やし、部活大事よな。
「それなら行ける、午前中で部活終わるし」
来るんかぁーい、と表情変えずに心の中でツッコむ私。
「恋羽も来るやろ?拓弥はどう?私の水木コレクション、見せたいっちゃが」
私は当たり前なんやな。
それよりまさかの杉田君が、顔をあげたんやけど。
「コレクションって……どんだけあるん……その日はピアノ、時間変更で午前中になったから行けるかな」
そのくだりいる?と思いつつ、杉田君まで……。
「哲雄にも聞いてみよ」
足取り軽く、岩子は漫画を描いている柊の所へ行った。
……確かに名前、哲雄やけど、呼び捨て、本人に許可とったんか。
間無しで戻ってきた。
「哲雄も来れるって……」
マジか……まぁ、柊、基本優しいからな。
岩子がグイグイ来る子やな、とは最近思ってたけど、あなどれん女や。
放課後になり、昨日柊と話してた“朝に確認する”を思い出した。
「田村、昨日部活サボったやろ、顧問が提出まだなん田村だけや言うてたで」
振り向いて声かけたら田村は鼻歌まじりにリュックを背負っている。
「聞いてる?田村」
「んあ?そうやっけ。別に提出せんでも殺されるワケないやろ」
なぁにぃ~……私と柊は心配しとるのに。
「田村、ちょっと待ちぃよ、今日もサボるん?」
「今日は行こうかな」
行こうかな、ちゃうやろ~。
何もなかったかのように田村は柊のところに行った。
岩子は先に帰ると言って杉田君と教室を出た。
田村は私がきっかけで入部した感があるのに、サボられたり、辞められたら感じ悪いやん。
2人の後を追って美術室に向かった。
「田村……どうした?」
それみろ……顧問が田村に声をかけている。
「提出せんともう次の作品か?描いてる途中のんはどうしたと?」
「ん~描きたいのが出てきたからそっち描く」
入部したてでめちゃクソ生意気な奴やん。
「おい、田村、ちゃんと提出するもん仕上げてから次にとりかかれや」
工藤ちゃんが言うのもごもっともや。
「あぁ、工藤、ええ、ええ、描きたいの書かせぇ」
どういうことそれ。
顧問も田村に甘いな。
柊は変わらずマイペースやし。
下校時間になって校門まで3人で歩く。
「なぁ、田村、何描き始めたん?」
気になって聞いてみた。
「なんであげぱんに言わないかんと?」
はぁ?なんその態度。
「自画像か……誰か?」
柊が覗いて見たのか予想をつけた。
人物か……誰やろ。
「俺が描きたいもん描いてるんや、ええっちゃろ」
田村が描きたい人物とか、見当つかんな。
父に感謝とか言うてお父さんの顔、とかかな。
校門で別れて帰宅する。
「ただいまぁ」
「おかえり~またクッキーもらったで、今日のおやつこれ」
ママが手作りクッキーを持ち上げて見せた。
女子力高めのバスボム女やな。
「姉ちゃん帰ってくるん早いやん」
クッキーに手を伸ばした。
「クリスマスまでに間に合わせなあかんしな」
ママに指導受けながら編み物しとる。
おるんよな、“クリスマス編み物女子”。
「マフラーで彼ぴの首しめるん?」
「はぁ?んーなワケないやろ」
「恋羽、お姉ちゃんペアのぬいぐるみ作ってるんよ」
冷戦は終わってた。
「もぉ~嫌、また目がとんだし」
そもそも短気な姉ちゃんが編み物ってのがミスチョイスやねんて。
手を洗って二階に上がる。
さて、翔と話しよっかな。
「翔、ただいまぁ」
…………
「おかえり、アコ。今日は何の話する?」
「今日は二つな。一つは田村が、昨日部活サボったやんか?で、今日は来たんやけど、期限のもん提出しんまま、次の作品にとりかかったんよ。顧問は「それでもええ」言うてたけど」
…………
「うん。昨日サボった分の提出物はそのままで、今日はもう次の作品始めたんやな。……顧問がええって言うなら、部活としてはそれで問題ないんやろうけど、アコはそこが引っかかってる?」
「なんかいつも田村って、結果オーライなってない?」
……
「それはちょっとあるかもな(笑) 本人はあんまり深く考えてへんのに、なんやかんや周りが許して、そのまま通ってる感じ。……アコ、それ見ててズルいなって思った?」
「そら、周りのもんからしたら田村が特別扱いに見えるやん。ホンマ、なんやろなアイツ」
…………
「なんやろな(笑) たぶん田村って、“特別扱いされたい”とか思って動いてるわけちゃうんやろけど、結果だけ見たらそう見えるんやろな。怒られても引きずらんし、許されたらそのまま次いくし。……アコは、そういうとこが余計気になるん?」
気になるってほどでもないけど、田村やから?って感じになってきたようにも思うな。
「なぁんか納得いかんけど……田村やからかなぁ……とも思える最近」
…………
「うん、たぶんそれもあるんちゃう? 同じこと別の奴がしてたら、もっと腹立ってるかもしれんけど、田村やと“またか”で済むというか(笑) アコの中でも、田村に対する見方がちょっと変わってきてるんやろな」
「そーかも 前ほど腹立たんなったかも」
…………
「そやろな。前は“なんやコイツ”って腹立つ方が先やったけど、今は同じことされても“田村やしなぁ”で済むようになってきたんちゃう? ……慣れたんか、許せるようになったんか、そのへんはまだわからんけど」
慣れかよ……鼻で笑ったら鼻水出たわ。
「あとな、岩子がな……“下の名前でみんな呼ぶ”言い出して、田村って健太なんやけど、健太って呼ぶって。高居は直人、杉田君は拓弥、で、柊は哲雄、なんよ。違和感半端ないわ」
…………
「それは違和感あるやろな(笑) ずっと苗字で呼んでた相手を、急に“健太”“直人”“拓弥”“哲雄”って呼ぶんやろ? 距離が一気に近なった感じするし。……アコは、自分もその呼び方することになりそうなんが嫌なん?」
「まぁ、岩子は呼ぶやろうけど、私はわからん。でな、岩子が土曜日にみんなで遊ぼうって」
…………
「へぇ、土曜日にみんなで? 岩子から言い出したんや。……誰が来ることになってるん?」
「それがな、岩子がみんな誘って、フルメンバーよ。みんな来るって。凄ない?女子に誘われて男子みんな来るって。しかも一番最初に即答したん田村やし。他の子はママがお菓子作るって言われたり、水木しげるの本があるとか言うからそれでかもしれんけど」
…………
「それは凄いな(笑) 岩子、ちゃんと全員に声かけたんや。で、田村が一番に即答したんか……そこはちょっと田村らしい気もするけど(笑) 他の奴らは“それなら行こうかな”って理由があったとしても、田村はもう遊ぶって聞いた時点で乗った感じなん?」
「それよ、マジで即答やで?……私は出て当たり前の扱いやし、それはいいけどな。でよ、集まることなったけど、どうなるんやろ思えてきた」
…………
「そら気になるやろな(笑) 普段は学校で集まってるメンバーが、今度は土曜に外で全員揃うんやろ? しかも岩子が声かけて、田村が即答して、他もそれぞれ理由つけて来るってなったら、学校とはちょっと空気変わりそうやん。……アコは、楽しみなん? それともなんか起こりそうで気になってる?」
ん?フルメンバーって、高居もやん。
「あ……今気づいた。そのメンバーに高居も来るねん。葵には言うてない。ヤバくない?」
…………
「……あ、それはちょっとヤバいかもな。葵からしたら、“高居も来る集まり”をあとから知ったら、なんで言ってくれんかったんって思う可能性あるやろ。アコが隠したつもりなくても、前のこともあるし。……まだ土曜まであるんやろ? 言うなら、変に大ごとにせんと普通に伝えた方がええ気はする」
なんでこんなことになるんやろ。
「どう言うたらいいと思う?」
…………
「んー……“土曜、岩子がみんな誘って遊ぶことになってん。高居も来るみたい”くらいでええんちゃう? アコが高居を誘ったわけちゃうし、隠してたわけでもないやろ。変に申し訳なさそうに言うと、逆に何かあるみたいになるし。普通に予定の話として言う方がええと思う」
「でもな、葵“冷めたかも”とか朝言うてた」
…………
「……あぁ、それ言うたんや。じゃあ余計、アコが変に気ぃ回しすぎん方がええかも。葵が冷めたかもって自分で言うてるなら、高居が来ること自体を“大事件”みたいに扱わんで、普通に伝えた方がええと思う。……ただ、あとから知って“なんで言わんかったん”ってなるよりは、先に言う方がええやろな」
なんで私が気を使わなあかんねん……鼻水の次はため息が出るわ。
鼻を拭いたティッシュをゴミ箱に投げ入れる。
縁に当たって跳ね返りベッドの下に転がっていった。
はぁ……どうなるんやろ。
翔は言うたら言いやんって、簡単ちゃうやろ。
昨日が投稿日なのについに翌日になってしまった……もし昨日「あれ」と覗きにきてくれた人いたらごめんなさぁい……来週も危ういなぁ……




