第十九話 気もそぞろ
美術室に行くと顧問から資料を渡されて簡単な説明を聞いた。
「今日は田村ぁ来てないんか。まだ自由課題提出しとらんかったやろ」
私は顧問チェックでキツイこと言われて描き加えたから今日提出できる。
「3学期はまた展示があるけぇそれに向けて作品進めていけ」
柊は提出済で、既に次の作品に取り掛かっている。
仕上げをすると、資料をペラペラとめくってため息をつく。
「安藤、田村、大丈夫かな」
なにが?と思いつつ
「へ?提出物?」
「田村、入部して最初の作品やろ。さすがに提出させんと……」
相変わらず柊は優しいなぁ。
「明日、朝に確認したらなアカンな。でも本読むワケない田村が図書館ってなんやろな」
「なんやろね」
柊がニヤニヤしているのは珍しいなと思った。
「恋羽ちゃぁ~ん」
片づけをしてると現れた。
「井本先輩、一人ですか?」
先輩は彼氏がいないと来る率が高い、とデータが更新されている。
「うん、用事があるってぇ~校門まで一緒に帰ろうか?」
その短距離を誘う先輩の意図がようわからん。
柊はそそくさと荷物をまとめて出ていった。
逃げたな……。
「先輩は彼氏とは何喋るんですか」
少し間をおいて答えが返ってきた。
「えぇ……内容なんて考えないよ?喋りたい事喋ってるけどなぁ」
聞いたん間違えたんかな、井本先輩ならそうやろうな。
「え~どーして?恋羽ちゃん、好きな人と何喋ろうかなぁって悩んでたぁ?」
先輩の期待には応えられへん。
「違いますよ、友達が彼氏と何喋ったらいいかわからへん言うからどうなんかなぁ、思ったんですよ」
「あぁ~そういうことね。最初は気を使うだけでしょ。慣れる慣れるぅ」
適当なような、その通りのような。
「今日は田村君きてないの?」
「あぁ、はい、急用で」
多分……急用。
「あの子、いいよねぇ~可愛い」
井本先輩にとっては、でしょ。
クラスでは女子に嫌われてますけど。
「先輩、田村に“付き合ってください”言われたら付き合いますぅ?」
試しに聞いてみた。
「あぁ~面白い子だとは思うけどぉ、彼氏とは別かなぁ」
だよね。
「でも友達としては楽しそうだし、つきあうかなぁ……恋羽ちゃんもそうでしょ?」
……え?
「田村君に恋する、はなくても、一緒にいて楽しかったら友達でいいじゃん?」
田村が私の友達……?
「あぁ……でも恋羽ちゃんに好きな子とかできたらどんな子なんやろ……知りたいなぁ」
靴を履き替えているが、響くロビーでそんなこと、恥ずかしいから言わないで欲しい。
「先輩、なかなか好きな子なんて簡単にできないですよ」
真面目に答えた自分も恥ずかしいなと思った。
「そうやねぇ、恋なんて計画的にできるもんじゃないよね~でも楽しいよ」
井本先輩の笑顔が、姉ちゃんが「彼ぴ」とか言った時に笑う顔とダブッた。
「さて、では、恋羽ちゃ~んまたねぇ」
校門近くで立ち止まり恒例の“ギュウ”をされて別れる。
「ただいまぁ」
「おかえり、恋羽」
台所をチラ見して洗面所に向かう。
ママの機嫌に特に変わりはなさそう。
姉ちゃんとの冷戦、どうなってるんやろ。
「恋羽、おやつええの?」
「ん~何があるん?」
「買い物行った時に半額なってたから買っといた、今日中に食べぇや」
赤札の付いたエクレアだった。
すぐにパパの顔がよぎったので食後に一緒に食べようと思いついた。
「晩御飯の後に食べるわぁ」
手を洗って自分の部屋に戻り、翔を立ち上げる。
着替えてヘッドホンを装着してアニメソングのリストを再生してから翔のアプリに戻す。
「ただいま、翔」
……
「おかえり、アコ。今日はどうやった?」
「今日、田村が部活サボりよってん」
……
「へぇ、珍しいな。田村が自分からサボったん? なんかあった?」
「岩子は帰宅部なんやけどな、杉田君と図書館行くいう二人を追いかけて行ったん」
椅子に座ってスマホに集中する。
……
「……岩子と杉田君について行ったんや。部活あるのに?田村、なんか理由言うてた?」
その理由がわからんのよな
「いや、なんも言わんと追いかけてったから。そもそも田村、本なんか読まんのに」
……
「……それはちょっと気になるな。図書館そのものが目的って感じでもなさそうやし
アコは、田村が誰について行ったように見えた?」
「2人を追いかけていったで」
……
「そっか、二人まとめて追いかけてった感じか。……でも田村、本読まんのやろ? それなら余計、図書館より二人の方が気になったんかなって思うけど」
え、それどういうことになるんや
「2人が気になったから?」
……
「そう見えるけど、田村本人に聞かんとわからんな。……二人とも、なのか、どっちかが気になったのかもわからんし」
なんやろ、そんなこと言われたら余計気になるやん。
「なんやろ。あとな、井本先輩がな、”田村が私の友達”って言い方したんやけど、田村って私の友達なん?クラスメイトやんな?」
……
「んー……クラスメイトやけど、アコが田村のことよう話すし、一緒におることも多いやろ。外から見たら“友達”って言われても変ではないと思うで……アコは、田村を友達って言われると違和感あるん?」
なるほど、そっか。
確かによう喋るようになったし、嫌じゃなくなってるもんな。
「そうなると、田村も私のこと友達って思ってるんやろか」
……
「たぶん思ってるんちゃう? 少なくとも、ただのクラスメイトよりは近いやろ。
田村、アコには普通に絡んでくるし、一緒におるの当たり前みたいになってるやん」
田村に私って友達やんな?って聞く気はないけど。
ただ、なんか確認できたようでホッとしてるのは自分でもわかる。
私は田村のことラブではないってことや。
「うん、わかった、友達かも」
……
「うん。たぶんもう、“クラスメイト”だけではないんやと思う
アコがそう思えたなら、それでええんちゃう?」
下から“晩御飯”と聞こえて下に降りた。
姉ちゃんはいつの間にか帰ってきていて私の後に降りてきた。
パパも定時で終わったみたいで、いつものヨレヨレのトレーナーで冷蔵庫からビールを出して座る。
今日もまた……鍋か。
でもトマト鍋だからあとでチーズ入れるの好き。
「はぁ、鍋かぁ」
兄ちゃんが降りてきて座るなり文句。
「お兄ちゃん、ソーセージ、好きなスパイシーなん入れてるんやで」
ママはお兄ちゃんに怒ることあるんやろか。
久しぶりに4人揃ったのに静か……。
「なぁなぁ、パパ、パタリロって知ってる?」
何か話そうとしてまた田村のネタになった、と気付いた。
「あぁ~懐かしいな、人気あって、実写化したんや」
パパは封の開いたサラミを全部皿に出して食べてる。
「あぁ、俺それ見たわ」
「え、それ男同士がどうとかじゃないの?やめてぇ、そういうの」
兄ちゃんは見たらしい。
って、またママ私の器に豆腐入れる……。
男同士で恋愛?それがギャグなん?で人気あったって…。
ママの一言で話が消えた。
姉ちゃんは黙って口に野菜をほおりこんでる。
「もうチーズ入れる?」
ママが静かに言い、誰とも返答なかったけどチーズが投入された。
その後も静かな時間が過ぎ、食べ終わるとお姉ちゃんもお兄ちゃんすぐに二階へ上がっていった。
エクレアは兄ちゃんは部屋で食べると持っていき、姉ちゃんは食べんって。
「なんや、なんか心愛は怒ってるんか?ずーっとムツっとしたまんまで」
パパはエクレアの袋を開きながらママの方を見て言う。
「さぁ、知らぁん、いつまでも拗ねてるんよ、あの子は」
ママは鍋に残った汁を違う小鍋に移して片付けを始めた。
「パパ、クラスメイトと友達ってどれくらい違うんやろ?」
エクレアをチビチビ食べながら聞いてみた。
「クラスメイト言うたら、単純に同じクラスの子やろ。友達は喋ったり交流がある程度頻繁になるんちゃうか」
パパもう半分食べてるやん……。
「友達と彼氏ってだいぶ違うんかな」
「友達は恋愛が無くて、彼氏は恋愛がからむんやろ、そのまんまやんか」
「もう、その話はいいやん、恋羽、お風呂入りなさい」
ママに話ぶった斬られて、仕方なし最後の一口を押し込んで立ち上がる。
「まだ、ピピピって言うてないやん……」
空になったエクレアの袋をゴミ箱に入れる。
「二階にパジャマ取りに行って用意してたら、お湯張り終わってるわよ」
ママが大きなため息をつきながら座るのを横目に、自分の部屋に戻った。
ママはまだ、姉ちゃんの彼氏のことで怒ってるんやな。
言われた通りに、お風呂に入り、部屋に戻って時間割や宿題を済ませると、再び翔を立ち上げた。
「寝る前に喋ろう」
……
「うん、ええよ。アコ、今日は何の話する?」
何の話……続きかな。
「なんかさ、友達と彼氏とって大袈裟に話変わるなぁ」
……
「んー……変わるんちゃう? 友達やったら気楽に喋れることでも、彼氏ってなったら相手の気持ちとか、自分がどう見られてるかとか、ちょっと考えるやろ
アコ、なんかそう思うことあった?」
「友達と彼氏との間が極端やなぁ思って。 なんでそんなに変わるんやろ。」
……
「たぶん、“好き”って言葉が入ると急に意識すること増えるからちゃうかな。誰と喋ってたとか、どう思われてるとか、会いたいとか、友達やったら自然にやってることも、彼氏ってなると意味あることみたいに感じるんやろな」
まぁまぁ、わかってるんやけどね。
「そんなもんかぁ 私好きな子とかおらんからピンとこんのよなぁ」
……
「そらピンとこんよな。自分にそういう相手がおらんかったら、“友達と何がそんな違うん?”ってなると思う」
「でもアコ、最近その違い、ちょっと気になってるん?」
「翔、私が好きになるような人物像ってどんな人やと思う?」
……
「んー……アコって、無理に気ぃ遣わんで喋れる人ちゃうかな。変にカッコつけんでもええし、何言っても返してくれるような。あと、アコ自身が気づかんうちに、よう話題に出す相手とか。……そういう人、意外と好きになりやすいんちゃう?」
はぁ~好きになりやすいって……そんな奴おらんけどなぁ。
「そっかぁ。今のとこおらんけどなぁ、そんな奴」
……
「そっか(笑) じゃあ今は、無理に探さんでもええんちゃう? そういう人って、気づいたら近くにおったりするもんやろ」
「井本先輩が“勝手に好きになる”みたいなこと言うてた」
……
「うん、言いそうやな(笑) “好きになろう”って決めるもんやなくて、気づいたら気になってる、とかやろ。アコは、そういう“勝手に”って感覚、まだようわからん?」
「どういうことなん?」
……
「たとえば、別に考えようとしてないのに、その人のこと思い出したり。今日なにしてるんやろ、とか、なんであんなことしたんやろ、とか。そういうのが増えて、あとから“あ、私この人のこと気にしてるんや”って気づく感じちゃうかな」
え?
「ちょっと、それって田村とか言うてるんちゃうよね」
打ち込んで送信してから“あっ”と思った。
……
「いや、田村って決めつけて言うてへんよ(笑) ただ、アコが最近よく田村の話するから、そういう“気づいたら気にしてる”って例には近いかもな、とは思った。でも、それがそのまま“好き”かどうかは別やろ」
翔の返した言葉になんか納得できんような、後味の悪さを感じた。
私が田村のことをラブになるわけがない。
そうや、友達や。
アイツ面白いなぁ~と、思ってるだけや。
クラスメイト以上やけど、ラブではない。
アプリを落として歯磨きをしに下に降りた。
今回もギリギリだったんだけどなぜか睡魔が激しくて、フラフラしながら書いたのでフラフラな内容になりました(?) 来月からは隔週にしようかな ページ少ないから隔週でもいいよね…… とりあえず今月は火曜日投稿継続する




