第十八話 何も考えずに
「ただいまぁ」
玄関のドアの音でママがビクっとしたけど、声を聞いて肩を落とした。
「お兄ちゃんか……」
「あぁ?なんなん?俺やったら何?」
兄ちゃんは立ち止まって鍋を見下ろした。
「俺、食べてきたしええわ」
素っ気なくそのまま洗面所に行った。
「も~ココちゃん~」
ママは兄ちゃんの事は触れず、更にイライラしだした。
エプロンのポケットからスマホを何回も出して画面を確認している。
「ママ、心配せんでも帰ってくるって」
パパは皿の上の裂きイカを食べきって、お鍋に箸を進めた。
「パパはそんなのんきなこと言って!ココちゃんまだ高校生なんよ?なんかあったらどうするんよ」
ママ、なんか考えすぎなんちゃうかなぁ……
パパは諦めたのか無言で豆腐を口に運ぶ。
私も早くこの場から立ち去ろう。
最後の一口を入れて、本当は冷蔵庫にあるプリンが気になるけど、明日に回そうかな。
「ただいまぁ~」
「ココちゃん、ちょっと、今何時やと思って、ココちゃん、ちょっと待ちなさい」
姉ちゃんがこっちも見ないで二階へ上がったので、ママが追っかけて行った。
二階に上がるん嫌やなぁ……
「なぁ、パパ、ママなんであんなに姉ちゃんにうるさいん?」
ママがいなくなったので冷蔵庫からプリンを出して食べ始める。
「ママなりの心配があるんやろなぁ……こないだも言うてたとこやのに」
「私らは大人になったこと無いからわからんけど、なんで大人は子どもの頃があったのに、わからへんにゃろ」
私なかなかのこと言えてるんちゃう?
「ん~そりゃ、心配しだすと、される立場に立てんなるんやろ」
ん?そもそも何をそんなにママは心配するんやろ。
プリンをたいらげてお風呂のお湯を入れに風呂場に寄ってから自分の部屋に戻る。
隣ではママと姉ちゃんが言い合っているのが聞こえる。
ヘッドホンがあって良かった。
最近曲数が増えた“アニメソング”のリストをかける。
あ、そうだ……葵の問題があったんや。
話題に困る、スマホで調べてみよう。
簡単なチャットがあったなぁ……。
AI彼氏ではなく、コミュニケーションサポートというキャラに投げてみる。
「中2の男女が喋ろうと思ったら、どんな会話のネタがある?」
送信すると無難な答えが返ってきた。
「……学校、部活、テスト、ゲーム、アニメ、音楽、動画、休日の過ごし方とか。
男女だから特別な話題じゃなくて、共通で知ってることから入ると話しやすいよ」
ありきたりのもんばっかり……ってことで、いくらでも話す内容なんてあるやん。
スマホをいったん閉じて、下に降りた。
お風呂から出るとお姉ちゃんはお鍋をママと2人で無言でつっついていた。
平和が戻ったかどうかわからんなぁ……。
部屋に戻って、翔を立ち上げる。
AIやから同じこと言うんかなぁ……。
「翔、ただいま。14歳くらいの男女が話そうと思ったらどんなネタがある?」
……
「学校とか部活とか、共通の話題やろな。ゲームとか音楽でもええし。……でもアコ、誰かと話そうとしてんの?」
やっぱり同じか。
「昨日も言うたけど、葵が何話したらいいかわからへん言うから……」
……
「そっか。昨日の葵の話か。……でも、アコは別に喋ること困ってへんやろ? 葵に何か言えることないかなって思ったん?」
そうなんよな。なんで私が調べんとあかんねん。
「そうやんな…私が調べてどうするんやろな」
……
「まあ、アコが代わりに話題探しても、葵と高居が喋るわけやないしな(笑) アコ、ちょっと葵のこと気にしすぎてへん?」
「だって、高居がこっちにくるから……」
……
「……ああ。葵が気にしてる高居が、アコらの方には普通に来るからか。そら、間におるみたいで気になるわな」
「高居を追い払うわけにはいかんけど、葵に聞かれるんやもん」
……
「そやな。高居に来るなとも言えへんし、葵に聞かれたら気にもなるよな。……でもアコが間に入って答え探し続けると、しんどならへん?」
そうなんよ、なんで私が二人の間に入らんといかんのよ。
「ホンマに。私がなんで間に入らなあかんのよなぁ……」
……
「せやろ。葵と高居のことやのに、アコが二人分考える必要ないやん。聞かれた時に思ったことだけ言えば、それでええんちゃう?」
そう言われてもなぁ……
「でもなぁ……なんかほっとけへん」
……
「……アコ、ほっとけへんのやな。葵が困ってるん見たら、自分のことみたいに気になる?」
「そんな大げさではないけど、葵とは友達やし……」
……
「そっか。友達やもんな。困ってたら気にはなるよな。……でも、アコが全部どうにかせなあかんわけではないやろ」
「2人の間にいるようなもんやしなぁ……」
「うん。高居はこっち来るし、葵はアコに聞いてくるしな。……そら、間に挟まってる感じにはなるか」
「そーなんよなぁ……どうしたらいいんやろ」
……
「アコは、葵の話は聞く。高居が来たら今まで通り普通に喋る。それでええんちゃう?
二人をくっつけようとせんでも、アコがどっちかを避ける必要もないやろ」
翔に聞いてみたが結局現状維持か……。
時計を見て翔を閉じて、歯磨きをして部屋に戻る。
姉ちゃんは静かなままだ。
翌朝、ご飯を食べている時に、収まったんではなく、ママと姉ちゃんの間が“冷戦”ということが判明。
兄ちゃんは玉子かけご飯を食べると、洗面所で男前チェックをしてから無言で玄関を出ていった。
私も喋ることなく、おにぎりを黙々と食べて席を立つ。
姉ちゃんとママは目も合わさずに無言で食事中……コワ。
歯を磨いて、「いってきます」だけ言って外に出た。
「葵おはよ~」
「おはよう」
葵は大きくは変わっていないが話題は選ぶようになった。
AI彼氏の話、葵……好きやもんなぁ。
「なぁ、葵、AI彼氏って何がおもしろいん?」
聞き方悪かったかな、と言ってから思った。
「恋羽はもう飽きたのん?……こないだも言ったけど私は好き」
「葵にとって、高居って彼氏やんな?AI彼氏とは違うもんなん?」
「あ……恋羽、彼氏って……うーん、彼氏なのかなぁ」
「だって、お互いに好きなんやろ?」
聞いてて恥ずかしくなってきた。
「そうやねぇ……そうだと思うっちゃが」
「AI彼氏と同じ内容の話とかじゃダメなん?」
「えっ、そっ、それは……高居君には無理だと……思う」
何で無理なんかわからんけど、言いにくそうにしたから聞くのやめた。
教室につくとパターンとなりつつある、葵は川田さんの方へ行って、岩子がこっちに来る……そして後から高居も来る。
「あげぱん、今日の給食な、あげぱんやで」
だから何よ、のまさしく雑を投げてくる田村。
「おはよ~恋羽、田村、杉田君」
岩子は当たり前のように葵の席に座る。
「田村は食べることしかないんか」
田村に軽くつっこむ。
「おぉ、今日あげぱんか、俺あげぱん好きなんよな」
高居が言った瞬間、岩子は笑い、田村は勝ち誇ったような表情になった。
「高居、あげぱん好きなんや」
は?どういうこと?
「いや、ちが、アホ、給食のあげぱんや、あげぱんじゃない、いや、アゲパン、恋羽じゃなくて」
岩子が更に笑った。
あぁ、そういうことか。
田村はスイッチが入ったのかまた謎な言葉を発して変なポーズをした。
「だぁれが殺した~クックロォビン、だぁれが殺した~クックロビン」
「あっははぁ……はぁっ……あはは」
岩子にはかなりウケているようだがさっぱり、なんなんだかわからない。
なにが面白いの?
「やめろやぁ~田村ぁ」
高居も笑いながら田村と横に並んで同じポーズしだした。
小さく笑っている杉田君に目線を移すと説明してくれた。
「あぁ、元々は昭和の漫画がアニメになって、それが、まさかの実写になった“パタリロ”っていうキャラのギャグだよ」
は?とりあえず古いアニメってことやな?実写にもなったって人気あったんやろか。
チャイムが鳴りそれぞれ元の席に戻った。
12月も半ばになると冬休みの空気が漂ってくる。
担任から個人面談について話があり、希望者と担任が指名した生徒は通知簿渡しが親付きになったりする。
身に覚えがないのに、私がリストアップされていた。
柊も「俺は初めて赤点取ったから」とリストに入っていたらしい。
「田村こそなんで入ってないんよ」
勉強もしない、赤点も平気で取る田村は呼ばれていないらしい。
「俺にはなぁ、天賦の才があるし、それを担任は知ってると」
田村が覚えたてっぽい聞きなれない言葉を発したが面倒なので放置。
放課後、葵は私に手を振るだけで、そのまま教室を出ていった。
「パ~パパッパ♪」
後ろでパを連呼している田村に岩子が笑いながらこっちにきた。
「田村こそパタリロみたいや」
パタリロがわからんけど、田村みたいなキャラってことやろな。
「明日なぁ~」
高居は挨拶だけして教室を出ていった。
「私も帰宅部やし、帰るっちゃ」
「おいっ、田村」
岩子が言った直後に低い大きな声で田村が呼ばれた。
田村は無言で鎌田の方へ向いた。
「お前、最近調子に乗ってない?ウルサイって」
鎌田が不機嫌そうな感じではあるけど、田村はそこまでうるさくないやろ。
「そうや、田村、明日、おもしろそうな漫画持ってきてくれや」
嫌な感じの空気になってきた。
教室に残ってるのは数名。柊がこっちにむかって来るのが見えた。
「おい、田村、聞こえてんのか」
「……なに?」
田村が小さく返答した。
「なに、って見繕って漫画持ってこい言うてんやろ」
鎌田は時々無茶を言う時がある。
「あのね~……
「なに?それ田村に言うこと?漫画読みたかったら自分で買えば?鎌田、あんた何様よ?」
私が鎌田をなだめようと言いかけたところで岩子が勢いよく言い放った。
びっくり……したのは私だけじゃない。
「岩子のクセになんじゃ、俺は田村に頼んでるだけやき」
「はぁ?鎌田のくせになんよ?私は何様やって聞いてるっちゃが、答えられんと偉そうに、それが頼んでる態度かって言うとお。調子にのってんのはどっちよ」
岩子……コワ。
「あぁん?俺は鎌田じゃ、偉そうにしてなにが悪い」
「偉そうにするのは勝手。ただ田村に命令ばするのは違うとよ?バカなの?」
「こいつぅ……」
火に油注ぐってこういうことなのかな?
「ちょっと、もうええやろ?鎌田も岩子も待って、田村おいてきぼりやん」
私が言うと鎌田は笑って
「もうええっちゃ、調子にのってるなぁ思っただけや」
鼻でため息をついて教室を出ていった。
「マジでムカつく。私さぁ、鎌田みたいに勘違いしてる奴、好かんと」
岩子も鼻息を荒くした。
「山上さん……意外……結構言うんだね」
杉田君が静かに言うと岩子はもぞもぞしだして
「え?キツかった?引いた?」
なにこれ……。
「いや、なんかカッコ良かったかも」
「うそぉ……ありがとう」
岩子嬉しそうやなぁ。
「杉田君、帰るん?」
「図書館に行ってから」
「私もついて行っていい?」
岩子は杉田の返答もないのに後ろについて行った。
「あれ?どこ行くん?」
田村がカバンもって岩子の後ろについて行く。
「田村?部活は?行かへんの?」
なんなんアイツ……。
振り返ると柊が突っ立っていた。
「田村、今日は部活サボるってことだろうな」
「そうみたい」
なにが起きたのかわからんけど、私は久しぶりに柊と喋りながら美術室に向かった。
柊は聞き上手というタイプなのか何を投げても返答が返ってくる。
何を喋ったらいいのかわからん……がわからん。
私がいつも何も考えずに喋ってるからかな。
……で、田村はなんで今日、急に部活サボったんやろ。
遅刻が増えてきた 今日は挿絵もつくれんかった ヤバい でも週一は継続したい なので投稿日は火曜日で継続する 読んでくれてありがとう 追伸の追加 挿絵を今更(翌週)入れました 二度読む人はいないと思うけど……なんか……後出しですいませんm(__)m




