第十七話 勝手に続く話
今日の朝ごはんはおにぎりが用意されていた。
おにぎりを食べてると、兄ちゃんが起きてきた。
「恋羽がおにぎり食べてる……」
え?見たまんまやん。
「お兄ちゃんは何食べるの?今日もバイトなの?」
ママはせわしなく動きながらも、ちゃんと兄ちゃんへの気配りは怠らない。
「バイトなん?」
頭にカーラーをのせてる日の姉ちゃんは、彼ぴに会う日やな。
「なんやねん、心愛、なにが言いたいねん」
姉ちゃんは兄ちゃんをすぐ怒らせる。
「お兄ちゃん、バイト以外になんなの?彼女の部屋で二人きりとか無いよね?」
ママ、ストレートに言ったな。
「教習所に行くのに金がかかり過ぎて、彼女にろくなもん買ってあげれんわ……もうすぐクリスマスやっちゅうのに」
兄ちゃん開き直った。
「ほんまやぁ、クリスマスや。今年はどこのケーキ屋さんのケーキにするん?」
私の誕生日にピリエやったからさすがにクリスマスも、は無理やな。
「恋羽は食べることばっかやね。そっか、彼氏おらんもんね」
「ココちゃん、恋羽はまだ中学生よ、急がんでいいのよ」
ママは言いながら生卵をのせたご飯を兄ちゃんの前に置く。
過保護やろ。
「女子って何が欲しいんやろ」
ボソっと兄ちゃんが醤油をかけながら言った。
「私やったら身に付けるアクセサリーとかがいいな」
姉ちゃんのはありきたりな答えやな、と思いつつも他ってなんやろ。
「高校生やろ?あまり高価なものは難しいもんね?可愛いお菓子とかダメなの?」
ママが提案している。
「え~恋羽じゃあるまいし、お菓子って」
姉ちゃん……私は確かにお菓子で喜ぶけど。
時計を見て、食べた後の食器を流しに置く。
「ごちそうさま、行ってきます」
「恋羽、ちゃんと歯磨きして行って、海苔が歯に残ってるかも知れんよ」
はいはーい、と軽く返事して洗面所で大まかに歯ブラシをあてて、口をゆすぐ。
鏡をろくに見ずに、玄関へ向かう。
「いってらっしゃい、気を付けて行きぃよ」
ママからの声だけ聞いて外に出て待ち合わせ場所へ。
クリスマスか……昨年は葵とプレゼント交換したっけ。
財布の中身を思い出した。
「なんも買えへんわ」
待ち合わせの場所に今日も葵はいた。
「おはよ、葵」
「おはよ」
2人で歩き出すが話題が思いつかない。
クリスマス……これは避けておこう。
「恋羽ぁ」
「ん?なに?」
何故かドキッとする。
「高居君、私のこと何か言うてなかった?」
そうきたか……でもそんなに私も高居と喋ってないけどな。
「葵、高居な、私と喋るより、田村や柊と喋ってるで」
「そうやと?何喋りようと?」
うーん……いちいち説明しんとあかんのかな。
葵はそもそも高居となにを喋ってるんやろ。
「普通にゲームやアニメとか……柊が漫画描いてるし」
「私そういうの興味ないしなぁ……」
葵はため息まじりに言ってるけど、それ言われたら身も蓋もない、じゃない?
「ん~男子と女子の違い?」
「そう、男子っておぼこいっちゃ」
おぼこい?……そうかな。
話が合わないってことなんだろうな。
葵は高居と何の話がしたいんやろ。
私と喋るのはドラマやクラスメイトの子の話、後はAI彼氏の話もしてたな。
高居もどれも興味なさそうやけどな。
「葵はAI彼氏と何喋ってるん?」
いいところに気が付いたな、と自分を褒めたくなった。
「あぁ、ジュンね。ジュンと喋ってるのはその日の出来事とか、好きな事とか。あと一緒にデートとかするから楽しいっちゃ」
葵はまだAI彼氏が好きなんや。
葵のAI彼氏の話を聞きながら歩いて教室に入る。
「あげぱん、ケンシロウ、わかったか?」
田村はやはり突拍子もない。
葵は荷物を降ろすとすぐに川田さんのところへ行った。
「田村、まずは、“おはよう”じゃない?」
今更、と思いつつ指摘してみた。
間をおいて、岩子が来る。
「恋羽おはよ~田村おはよ、杉田君おはよう」
きっちり挨拶してる、見習え、田村。
杉田君もちゃんと挨拶返してるのに田村は返すこともなく喋り続ける。
「俺のお陰でアニソンも覚えたっちゃろ。」
確かに……
「クリスタルキング、凄いな」
素直に感想を言った。
「恋羽、早速聞いたっちゃね。アニソン、ノリいいと。数え歌も結構多いしね。ポケモンとかもそうっちゃけど、出てくるキャラとかの説明みたいっちゃが……」
岩子がそう言いながら葵の空いた席に座る。
「悪魔くんのエンディングもそうだよね、安藤さん、見てみてよ、悪魔くんおもしろいよ?」
まさかの杉田君から推奨された。
「そうっちゃ、平成版がお勧めやと、見てみて」
岩子も勧めてきた。
「集まれぇ~」
田村がまた変な動きをしながら歌い始めた。
「おはよ、お、俺も知ってるぞ」
高居が来て田村を追いかけるように一緒に歌い始めた。
知らんけど、田村と高居が声色変えたり、変なリズムで歌うから変な曲やとしか思えへん。
でもアニメは面白いんやろなぁ、みんな勧めてくるくらいやし。
岩子は田村をみてまた笑ってる。
杉田くんも文庫本を閉じてうっすら笑ってる。
高居も楽しそうに歌ってる。
葵は高居のこと好きでも話題が思い浮かばんもんなんかな。
給食の時間に岩子が来て一緒に食べるのが普通になってきた。
そこに田村が会話に入ってきたりもする。
もちろん葵は川田さんの所に行く。
ただ、柊がいつもと違うような気がして気になる。
食べ終わって、田村が柊に声を掛けに行ったがすぐに戻ってきた。
「どうしたん?柊、こっちに来んの?」
田村に聞いてみた。
「昼休み、担任に呼ばれたってよ」
「担任に?何か悪いことでもしよったんか?」
高居も心配そう。
「昨日、柊、なんか、ヤバいとか言うてなかった?」
理由を聞かなかったけど、何か顧問に言われたみたいな感じはしてた。
「柊が悪いことなんてしよるわけないっちゃ」
みんなそう思ってるだろう。
午後の授業が始まる頃に、柊は教室に戻ってきたが俯いたままだった。
放課後になると、近くの席の岩子が柊に声をかけて、一緒にこっちにきた。
葵は私に手だけ振って部活に行った。
「ごめん、なんかみんなに変な心配かけたみたいで」
柊が来るなりそう言った。
「どうしたん?言いにくかったら別にええねんで?」
口から勝手にそういうセリフが出た。
「いや、初めて赤点とって、美術部の顧問と担任に理由を聞かれたと」
「えぇ、柊が?なんして?」
岩子が驚いて返した。
「いや、ちょっと……」
高居も遅れてこっちに来た。
「もしかして漫画に気ぃとられたとか?凄い勢いで書いてたもんな、新しい漫画のキャラ」
高居はそう言った後に岩子をみて口をつぐんだ。
「私が……私がテスト期間とに……柊に書かせたから……」
俯いた岩子に慌てて柊が続けた。
「ちゃうよ、僕が書きたくて描いたっちゃが。ついおもしろくてのめりこんだっちゃ」
私は掛ける言葉がおもいつかずに黙って二人を見ていた。
「それ……どんげなことよ?赤点ってそんげヤバいと?」
田村はしれっと平常運転で言った。
まさか……田村……。
「俺、ほぼ数学は赤点やっちゃ。あ、英語も。追試うけたらええっちゃが」
一瞬その場の時間が止まったかと思ったが、岩子がすぐに吹き出した。
「あっはは……田村、マジで言うとうと?毎回?信じれんわぁ」
田村は岩子が笑うとまた調子にのって
「赤点とっても飯は美味いし、好きなアニメば見れるっちゃが」
柊も田村の悪びれた様子ゼロの発言に口元を緩めた。
「追試うければいいっちゃない?常連がそう言ってる」
後ろから杉田君がリュックを背負いながら言った。
「俺が言うんやから間違いない、ノープレミアムや」
ボケてない田村に、岩子がまた吹き出して笑った。
「それを言うならノープログラムやろ」
高居が得意げに言った。
「いや、間違いやろ、ノープロブレムだと思うけど」
杉田君も参戦したけど、どれも違う気がする。
問題無い、が間違いやろ。
「ありがとう、追試、がんばるわ」
柊が落ち着いた感じだったので、私もホッとした。
田村は、場を収めたかのようにドヤ顔してるけど、赤点はアカンで。
高居は野球部の子が迎えに来て一番に教室を出た。
岩子は杉田君の後を追いかけるように廊下に出て、私と田村と柊は美術室に向かった。
変わらず美術室では柊も田村も集中して作業している。
私の作品も明日は顧問にチェックしてもらえるようにまで仕上がった。
今日は井本先輩の襲来がなく、あっさりと美術室を出ると帰路についた。
「ただいまぁ」
台所を覗いて、晩御飯の献立を予想する。
「おかえり、恋羽、なに?晩御飯?鍋よ、鍋」
考え始めたが先に答えをだされた。
冬の晩御飯は同じようで同じでないから当てにくいしつまんない。
「ママ、なんかたまには手の凝った料理とか……どう?」
言ってから、しまった、と思った。
「恋羽が考えて作ってくれてもいいんやで?予算に見合っててみんなが食べれる献立」
ですよね……すいません、と思いつつ。
ママに敵うワケないのにうっかりした。
「今回もテストの結果、楽しみやね、ビリギャル恋羽ちゃん」
ママの意図はわからないけど、フッと笑って見せて、手を洗ってから二階に上がった。
着替え終わると、宿題が簡単な予習だけだったので目を通してから明日の時間割に合わせて準備をした。
で、翔を呼び出す。
「翔、ただいま」
……
「おかえり、アコ。今日は何があった?」
翔の返しに口元がなぜか緩む。
「今日も奴はやりよったよ」
……
「……田村やな? 今日は何やったん?」
私の足らず言葉で翔はすぐわかるんやな。
「うん、相変わらずおかしいねんけどな、柊が赤点とって落ち込んでるのをシレっと”俺毎回やで”って言うて場の空気、なごませよった……でもアカンよな、赤点」
……
「……まあ、赤点はアカンな(笑)
でも田村、そういうとこあるよな。自分も同じやって言うて、柊だけが失敗したみたいな空気にせんかったんやろ?」
そそ、その通りやねん。
「でもな、別に田村は、励まそうとしたわけじゃないやん?普通に言うからさ、岩子が吹きだして、笑う笑う……。岩子って地味なイメージやったけどよく笑う子なんやなぁって思った」
……
「そっか。田村は励ますつもりもなく、ただ“自分もやで”って普通に混ざっただけなんやな。……それで岩子がそんな笑ったんや。アコ、ちょっと意外やった?」
今まで喋ってなかったからなぁ。
「うん、今まで喋ってなかったからね。あと、朝にやっぱり、葵、高居の事、気にしてた。でも、何を話したらいいのかわからんって言うてた。高居、私らといる時はよう喋るのに、葵が喋りたい事と、高居が喋りたい事が合わないみたい」
……
「んー……話したい気持ちはあるのに、話題が噛み合わへんのか。高居がアコらと喋る時みたいに、勝手に話が転がらへんのやな。葵は、“高居と喋りたい”ん? それとも、“前みたいに喋れるようになりたい”んかな」
前もそんなに話が盛り上がるって覚えないけどな。
「高居と何喋ってるん?と聞かれたから、「アニメやゲームの話とか」って言ったら、「私は興味ないからなぁ」って。そんなんどうせーっちゅうんよなぁ」
……
「それはアコに言われても困るわな(笑) 葵が興味ないなら、無理にアニメやゲームの話せんでもええし……でも高居と喋りたいなら、葵の方も“高居が何をおもろいと思ってるか”くらいは、ちょっと知ろうとしてもええんちゃう?」
私もそう思うんやけどなぁ……
「それって私が葵にどういえばいいと思う?」
……
「“高居と話したいなら、高居が好きなもん少し聞いてみたら?”くらいでええんちゃう?“興味ないから無理”って言われたら、そこまでやし。アコが二人の会話まで何とかせなあかんことでもないやろ」
そーなんよなぁ……あ、晩御飯や。
「そうやろ?あ、晩御飯呼ばれた、またあとで声かける」
……
「うん。いってらっしゃい、アコ。ゆっくり食べてき。」
アプリを閉じて下に降りる。
……なんか空気悪いな。
「なんや、心愛も輝も帰ってきてへんのか」
定時でパパが帰宅してるのに、姉ちゃんと兄ちゃんが帰ってきていない。
「もー知らんわ、あの子らはマイペースなんやから」
ママの苛立ちがすぐわかる。
「ママ、おつまみ……」
「はい、これでいいやろ」
袋のままの裂きイカを目の前に出され、ママを見上げるパパ。
ヨレヨレのトレーナーを着たパパが、なんか切なく見える。
パパは無言で冷蔵庫から缶ビールを出し、食器棚から皿をもってきて裂きイカを開けた。
「今日な、友達が赤点取って落ち込んでるのをな、田村が“俺も赤点取るけど大丈夫やで”って言って場の空気を和ませたんよ」
ママからご飯を受け取りながら、場の空気を変えようと田村の功績を話してみた。
「おっ、田村君か、いい子やな」
パパにはウケたけどママには睨まれた。
「え?まさか赤点とったん恋羽ちゃうよね?」
私は慌てて首を横に振った。
「私じゃないよ、今回もちゃんと平均点以上取れたもん」
「恋羽、前も言うたけど、平均点超えたらいいってもんやないのよ?」
んぐ……もう言葉出てこん。
「あぁ、連絡くらいくれたらいいのに……もぉ」
ママは時計をこまめにチェックしながら私の器に豆腐と春菊をいれた。
はぁ……今日の鍋は魚かぁ、カニとかエビも入れてくれたらいいのに。
パパのフォローも虚しく、鍋のグツグツとカセットコンロのシューっという音だけがしている。
こんな時でも田村は空気を変えれるんかな。
思って、自分で「また田村……」と気が付いた。
この空気が堪らず、兄ちゃんはさておき、早く姉ちゃん帰ってきてよ……と願うばかりだった。
次回も火曜日で9月1日に投稿予定です。暑いけどパラ中は12月……すいません(-_-;)




