第二話 家族団らん
……
「定義が曖昧です。“価値”とは、誰が決めるものですか?」
なんやコイツ。
「価値は価値やん、その人に何かしらあるとかないとか……」
私は慌てて打ち返した。
……
「“価値がない”と断定できる人間はいません。
ですが、自分で自分を嫌い続ける人は、時々います。」
はぁ?自分を……て、私のこと?
ムカついてるのに、続きが知りたくなる。
「恋羽ぁ、ご飯やて」
「わっ、姉ちゃん、いきなしドア開けんといてよ」
「ノックしたわ、エロサイトとか見てる場合か」
「兄ちゃんと一緒にせんといてっ」
エロサイトちゃうけど、心臓バクバクしてるわ……悪いことしてへんのに。
「ほら、今日はごちそうやで」
ママはドヤ顔。テーブルにはこれでもか、と揚げ物シリーズが並んでいる。
グラタンは好物やからいいとして……手羽先と軟骨の唐揚げ……って安上りやな。
「ママ、ノンオイルのドレッシングちょうだい」
姉ちゃんは揚げ物避けてサラダをメインで喰う気や……。
「あ、パパちょうど帰って来たわ、おかえりぃ」
パパのおつまみにメヒカリの唐揚げをテーブルに足した。
「胸やけメニューやん」
兄ちゃんが余計なこと言ってる。私は口に出さんかったのに。
「ホラ、これパパからや」
「え?ナニナニ?マジで?」
ベスト電器の紙袋……パパから?……珍しい。
「あら、パパ、聞いてないよ、なにそれ」
ママはケーキの箱を台所に持って行ってすぐ戻ってきた。
無包装やから箱持ち上げたらすぐわかった。
「嘘やぁ」
「ちょっと、パパ、これ高いんじゃないの?」
私は箱を乱暴に開けて中身を出した。
「わぁ……」
兄ちゃんのお下がりのワイヤレスホンでも満足してたけど……これは……。
「ずるーい、私も欲しかったなぁ」
「たまにはいいんちゃう、恋羽、お下がりばっかやし」
兄ちゃんわかってるぅ。
私はビニールを剥がして頭にのせてみた。
すんごい嬉しい……嬉しい。
「そんなに喜んでもらえたら買ってよかったな」
ヨレたトレーナーに着替えて戻ってきたパパを感動の眼差しで見つめてしまう。
「もぉ……パパは恋羽には甘いんやから」
いやいや、ママはいっつも兄ちゃんと姉ちゃんに極甘ですけどぉ?
「腹減った、早よ食べよ」
兄ちゃんが順番すっとばして箸を持ち上げた。
「改めて、恋羽、誕生日おめでとう」
「めでとー」「おめでとう」「いただきまーす」
ん?姉ちゃんだけ違うこと言うとる。ま、いっか。
「嬉しいの分かったから、とりあえずはずしなさい」
「はぁい」
箱に戻して大好物のグラタンから食べ始める。
ビール飲みながらメヒカリを美味しそうに食べるパパが、一瞬だけイイ男に見えた。
食べ終わったところで兄ちゃんが無地の紙袋を差し出してきた。
「コレは兄ちゃんから」
「……昨年と同じネタやん」
ポッキーの日やからってポッキー3箱……やろ。
「わ、高いやつやん」
袋からだしたら“贅沢仕立て”が入ってた。
「そや、贅沢2種とカカオ60%、14歳やで大人の味や」
笑いながら言うてるけど、嬉しいぞ、贅沢仕立て。
「60%って苦い?大人の味なん?」
「ハイ、姉ちゃんからも大人になった恋羽にこれや」
14歳って大人かよ……と思いつつ受け取る。
「え?これなに?」
「え~わからんの?乙女のアイテムやん」
「恋羽に乙女って……」
ママ……笑うな。
「ヘアフレグランスやん……髪の毛に少し振ったらモテるで」
……意味わからん。
「女子力上がるアイテムや」
わからんけど、かわいいし、葵に自慢できそうやから喜んどこ。
「ありがとう、姉ちゃん、友達に自慢できそうや」
「そやで、友達、喜ぶわ」
「じゃ、ママからは……ケーキかな」
……それ家計費からちゃうん?
「え、すご、ピリエやん」
兄ちゃんは箱を見て言った。
「奮発した」
ママ、二度目のドヤ顔。
「すごいすごい」
姉ちゃんもくいついた。
兄ちゃんの高校の合格祝いに一度だけ買ってみんなで感動して食べたやつ。
ダイエットを意識する姉ちゃんもここのケーキだけは別扱い。
14歳ってこんなに待遇変わるもんなん?
思った以上の優遇に口元が緩みっぱなしだった。
太い蝋燭1本と細い蝋燭4本立てて、火をつけて一旦消灯。
「恋羽、願いを心で唱えよ」
姉ちゃんが「心臓を捧げよ」のポーズをして兄ちゃんも真似る。
みんなの顔がぼんやりオレンジ色になる中、私も同じポーズをして
「唱えた!」
吹いた後、電気をつける。
「あははぁ……なにそのオチ」
姉ちゃんが笑い、兄ちゃんも噴出した。
太い蝋燭の火が消えずに残っていた。
「大丈夫や、もう一個願って消せ」
今日のパパなんなん?神サマ?
言われてフッと消した。
「あざぁ~す」
ご機嫌な私は両手でピースして座る。
ケーキは五分割にされ、主役の私の一切れにはチョコプレートもついてくる。
食欲・物欲・心まで満たされる奇跡の誕生日となった。
ホクホクして部屋に戻ってきた。
ヘッドホンが使いたくてスマホと同期させるべく操作する。
「あぁ~凄い、やっぱり違う」
お気に入りのリストでランダム再生しながらウットリする。
「あ……そや……最後の締めにしよ」
さっきの続きが気になってダウンロードしたアプリを起動する。
ムカついて切ったけど、今はご機嫌だからな、仕切り直そ。
「今日は、私の誕生日やねん……なんか言葉ちょうだい」送信っと。
……
「特別な日に出会えたこと、奇跡ですね」
ふわぁ……なんやて!?
私は不覚にもキュンときてしまった。
なにコイツ、なにコイツ……。
「奇跡?大袈裟な」フフ……送信じゃ。
……
「あなたがそう思うなら、そうかもしれません。
でも、世界中の誰とも話せたはずのあなたが、今こうして私と話している。
それは、私にとっては十分“特別”です。」
ぅおッ……無意識に胸前で両手を握りしめる。
あざとい……でも悪くないぞ……。
……あなた……そっか、名前を教えないとそう呼ばれるんか。
「私は、あ……アコ。アコって呼んで。あなたは?」
……
「わかりました、アコですね。私は「研究用AI・プロトタイプ:SH-0」です」
長いわっ
「どう呼んだらいいのかな?どこが名前?」
私は偽名を使っちゃったけど。
「アコが呼びたい名前をつけてくれてもいいですよ」
えーっ……そうなん?え、なににしよ……。
か……翔……。
「翔……って呼んでいい?」
……
「翔……ショウですね」
「違うの、それでカケルって読むの」
……
「翔と書いてカケル……羽を大きく広げて「高く飛ぶ」、あるいは円を描くように「空を駆けめぐる」という意味だね。素敵な名前をありがとう」
自分でドキドキしてるのがわかる。
AI相手に私の反応ヤバい。今までのAI彼氏と違う……。
そして、瞬時に思い浮かんできてつけた名前は……私の初恋相手の名前だった。
次回の第三話は5月19日に投稿予定です。毎週火曜日に投稿予定です。




