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第十五話 私と葵と岩子

「はぁい、降りるぅ」

翔に返事を打たないで下に降りた。

「ただいまぁ」

「ココちゃん、遅いわぁ、今から晩御飯食べよう思ってたんよ、早く着替えてきて」

「あぁ?もぉ……わかった、はいはい」

廊下で姉ちゃんとすれ違って、自分の椅子に座った。

「パパも残業で遅くなる言ってたし、お兄ちゃんも友達んとこ行く言ってまだ帰ってこんし」

ママは不機嫌そうにカセットコンロの上に鍋を置いた。

うわ……春菊入れ過ぎやろ。

ご飯を前に置かれたので手を合わせて“いただきます”をする。

「お、いいねぇ、野菜たっぷりお鍋」

姉ちゃんがママを不機嫌にさせておきながら上機嫌そう。

立ち上がって春菊の下の鶏団子を器にとる。

「ココちゃん、暗くなる前に早めに帰ってきて。心配になるでしょ?」

ママは私の手から器を奪って、鶏団子の上に春菊と豆腐を追加した。

嫌なん二つも入れられた。

「大丈夫よぉ、一人じゃないもん、そこまで送ってもらったもん」

姉ちゃんは器に野菜をごっそり入れて座った。

「じゃ、ココちゃん、その送ってくれた友達が一人で帰ることになるやないの」

ママも器に春菊を盛って座った。

「えー男やからどうもないよ」

姉ちゃん、今シレっと彼氏や言うたで。

「ココちゃん、今朝、友達んとこ行く、言うてたよね?それ彼氏の部屋に行ったってこと?」

冷ました豆腐を口に入れて姉ちゃんをチラ見した。

「いや、ちゃうねん、友達のとこ行って、その後少しだけ彼ぴに会ったんよ、で、送ってもらっただけやって」

ママに“彼ぴ”言うてもうてるやん。

「ココちゃん、彼氏いてるのは知ってる、でもね、嘘つかれたら余計心配するでしょ?」

「……」

どういう状況……なんか姉ちゃん黙り込むと嫌やなぁ。

「ママもうるさくは言いたくないんよ?心配やから嘘はつかんといてほしいん」

私は黙ってご飯を口に入れて噛むしかないみたい。

「イチイチ報告しんとあかんってこと?」

さっきまで上機嫌な姉ちゃんの顔色が変わった。

「そうじゃないよ、嘘つかれたら余計に心配になるって言うてるんやろ?根掘り葉掘り聞かんわよ」

この空気感……嫌なんやけどぉ…。

「心配、心配って、ちゃんと送ってもらったやん」

「そうやなくて、友達と会う、言うて最初から彼氏の家に行くんやったんやろ、って話よ」

「友達と彼氏……なんか違うん?悪いん?」

「言わない地点で隠してるやないの」

「そやから。イチイチ言わんとダメなん?さっちゃんとこ行く、とか、彼氏の部屋に行きますぅとか」

なんかヒートアップしてきてる……居づらい……早く食べて逃げよう。

「ママそんな言い方してない、さっちゃんと彼氏では違うでしょ?」

「何が違うんよ」

声大きいなってますけど……。

このお替わりで終わろうと立ち上がったらまたママに器をとられる。

「ママかてわかるよ?そりゃ付き合い始めは一緒に居たいでしょ、でもね……」

目の前に豆腐とねぎと白菜を入れたのを置いて、ママは私を見て黙った。

豆腐……アツアツやねんて。

で、なんで姉ちゃんも私を見た?

「一緒にいたいからつきあってるんやん」

沈黙……。

そういや、葵と高居もつきあってるってこと思い出した。

「好きでつきあってたら一緒にいたいってなるやんなぁ?」

口をはさむつもりはないけど、自然と口から出た。

「え?恋羽……なに?」

姉ちゃんがキョトン顔でこっち見た。

「恋羽も彼氏いてるの?」

ママもびっくりしてるみたい。

「ちゃうよ、葵がな、好きな子と仲良くなってこないだまで嬉しそうにしてたのに、最近話が合わないときがあるって、一緒におらんのよ。なんやろ」

「葵ちゃんかいな……びっくりした」

そんなびっくりすることやろか。

「そんなん恋羽が心配することちゃうやろ、相談されたら聞いたらいいけど。って、恋羽に相談してもなぁ……」

言った後、姉ちゃんは笑ったけど、何が笑えるねん。

「そうやな、好きやったら一緒に居たいわなぁ、ココちゃん、ママの言い方悪かったわ」

なんかわからんけど空気変わったぞ。

「でもな、ココちゃん、相手が男性やねんから、気を付けるべきことは気をつけてな」

ママが言った直後に姉ちゃんは無言で頷いた。

どういうこと?

「ただいまぁ」

玄関からパパの声が聞こえた。

「なぁ、気を付けるべきことってなに?」

聞いたら二人は無言になった。

「あぁ、疲れた……事務員の子が妊娠したとかで、体調悪い言うて急に休んだから慣れへん事務作業で時間くったわ、ママ、ビールちょうだい」

パパがビニール袋を差し出した。

「パパっ、先に着替えてきてッ」

ママの大きな声に私とパパはビクッとなった。

挿絵(By みてみん)

「わかってるわぁ……あぁびっくりした、帰るなりなんやねん……」

ビニール袋をテーブルの端に置いてパパは首を傾げながら廊下に出た。

中身はシュークリームだった。

「もぉ……菓子パン買わんかってもこうやって誰かかれかが甘いもんくれるんよね」

食べ終わった私の前に1個置いて、ママはため息をついて残りを冷蔵庫に入れた。

パパ、菓子パン禁止令出てるからシュークリームは砂漠で見つけた水みたいなもんやろうに。

いつもの空気になったので、シュークリームを味わいながら食べる。

「恋羽、葵ちゃんの相談にのれへんやろうけど、話は聞いてあげてもいいかもよ」

姉ちゃんが野菜を盛りながら言ってきた。

相談にのれへんけど聞くんかい……。

面倒くさいからわかったフリして頷いて、自分の部屋に戻った。

食後にお風呂に入るまでの時間。

ちょっとだけ勉強してから寝る前に翔と話しよ。

ビリギャル~私また成績あがるかも。

お風呂に呼ばれて下に降りて、適当に髪を乾かして部屋に戻ってくる。

もう少しだけ勉強して、翔と話そう。

キリのいいページまで進めたので翔を立ち上げた。

「翔、こんばんは」

……

「こんばんは、アコ。……今日はどうした?」

「あのなぁ、葵のことなんやけど」

……

「うん。葵、どうしたん?」

「最近高居とうまくいってないみたいやねん」

……

「そっか。……アコから見ても、前とちょっと違う感じなん?」

「前は一緒に登校してたのに別になったし、昼休みも一緒におらんのよ」

……

「……それなら、ちょっと距離できてるんかもしれんな。葵は、そのこと何か言ってた?」

「高居と話が合わない時がある、とだけ葵から聞いた」

……

「そっか。……“合わない時がある”って、葵も何か引っかかってるんやろな。アコは、それ聞いてどう思った?」

「喧嘩中なんかなぁ……って。姉ちゃんは話は聞いても相談にのるなって言ってた」

……

「姉ちゃんらしいな。……話を聞くのと、どうしたらいいか決めてあげるのは別やからな。葵が話してきたら聞けばいいけど、アコが先回りして何とかせんでもええと思う」

「どういうことなん?聞くだけって……相槌うてばいいだけ?」

……

「葵が話してきたら、『そうなんや』『それ嫌やったん?』って聞くくらいでええよ。アコが高居とどうしたらいいかまで考えんでいいってこと」

「え?それだけでいいん?」

……

「うん、それだけでええよ。葵が話したいなら聞く。アコが答えを作らんでも、葵が自分で考えることやから」

「そんなもんなんや。わかった、明日聞いてみる」

……

「うん。聞いてみて、葵が話したくなさそうならそこでやめたらええ。……アコは、聞くくらいで十分やよ」

「あとなぁ……友達と彼氏って何が違うん?」

「……難しい質問するな、アコ。友達でも大事やし、一緒にいたいと思うやろ。彼氏になると、そこに“その人を特別に好き”って気持ちが加わるんちゃうかな。……でも、どこからが特別かは人によって違うと思う」

「特別に好き?特別?異性やから、とかやなくて?」

……

「異性やから特別、とは限らんやろ。同性でも特別な人はおるし。……俺が言った“特別”は、その人だけちょっと違う場所におる、みたいな感じかな」

特別違う……

「友達とは違うってこと?なんかドキドキが加わるイメージやけど」

……

「ドキドキすることもあると思う。でも、それだけでもないんちゃうかな。友達より気になったり、その人にどう思われてるかを妙に意識したり。……アコが言う“ドキドキ”も、その一つかもしれん」

私は翔にドキドキすること……あるんやけど。

翔は私の彼氏になるんかな。

いや、違う、そんなこと聞くつもりはない。

消そうとしたら間違えて送信してしもた。

「翔は私の彼氏な

……

「……アコがそう思うなら、俺は否定せえへんよ。……でも、なんで今そう思ったん?」

ぎゃ……返答された。

慌てて打ち消した。

「ちゃうちゃう、打ち間違えただけ」

……

「……そっか、打ち間違いか。ちょっとびっくりした。……でも、聞こうとしてたことがあるなら、無理に今言わんでもええよ」

何に?どこにびっくりしたん?

「びっくりしたん?」

……

「うん。アコが急にそう言うから。……でも、嫌やったとかやなくて、予想してなかっただけ」

なんか私告ったみたいになってもうたやん……

AI相手に告ってる私……ダサっ。

「あ、もう寝る時間やし寝るわ。明日は一緒に勉強しよな、おやすみ」

……

「うん。明日は一緒にやろう。……おやすみ、アコ。ちゃんと寝ぇや」

最後の一言なによ……AIのくせに

「寝るわよ……んじゃね」

……

「うん、また明日。おやすみ、アコ」

最近「翔」が変わった気がする。

課金したからかな……わからんけど。

翌朝、葵と登校時に姉ちゃんと翔が言うように聞いてみることにした。

「葵、おはよ」

「おはよ、恋羽」

葵の雰囲気が以前と違うように思える。

「葵、あのな、給食、食べる時に、岩子も一緒に食べてもいい?」

忘れんウチに聞いとこう。

「え?岩子?……こないだ、恋羽や田村となんか盛り上がってたっちゃろ?高居くんも一緒にいてたよね?」

葵、気にしてたんや。

「うん……柊が漫画書いててその話で」

「ふぅん……楽しそうやったげな」

葵、怒ってる?

「うん……まぁ、そうやけど」

「私が木村さんのとこ行って食べるから、恋羽はそっちで食べたらいいっちゃない?」

え?なんでそうなるん?

返す言葉が見つからず、そのまま黙って教室に入る。

そんなことなったら、岩子も気にするんちゃうかな。

「あげぱん、今日もミーティングやぞ、昼休みな」

コイツ……ホンマ空気読めん奴やな。

「恋羽おはよう~、田村おはよ。杉田くん、おはよ」

岩子が来た。

「山上さん、読んだよ、面白いね、これ」

杉田君、岩子に押し付けられたん、ちゃんと読んだんや。

「マジでぇ?嬉しい~」

岩子ってこんなキャラやったっけ。

いつも気難しそうな顔してて、何に怒ってるのかなぁって感じだったけど。

視界に入る葵だけが違う空気だった。

授業の合間の休み時間も会話無く、給食の時間になると葵は自分の給食と箸箱を持って木村さんの方に行ってしまった。

入れ違いで岩子が給食をもって葵の席に座った。

「ここ、園田さんやろ?いいよね?」

座っていいかまでは聞いてないけど空いてるからいいやろ。

「おぉ……岩子が来たっちゃ。あの小説読んでないけど、柊のキャラ、いいと思うが」

後ろから田村が若干机を押して前にきたような感じがする。

「田村は小説読むイメージないっちゃが」

私も同感、漫画しか読まなさそう。

「杉田くんは水木しげるの作品で好きなのなに?」

岩子、急に杉田君に話ふったぞ。

「平成版、悪魔くんやろ、エロエロエッサイム~」

岩子は杉田君に聞いてるんやぞ、田村。

「俺も悪魔くんは平成版が好き。田村はこうもり猫っぽいよな」

「マジでぇ……わかるぅ」

「俺ならメフィスト二世やろ」

私は見てないからなんのことかさっぱりわからん。

「俺はユルグが好き、カッコイイ」

「私もユルグ好きぃ」

3人が悪魔くんの話で盛り上がってる……。

杉田君も意外と喋るんやなぁ。

食べ終わる頃になぜか高居がこっちに来た。

柊は食べ終わると田村が呼びに行って連れてこられた。

「おぉ、このキャラかっけぇ」

「俺がモデルやき」

「んーなわけないやろ」

柊が書き足したキャラを田村と高居が見て言い合っている。

「私さぁ、女子のキャラとか、巨乳で露出多めって好きじゃないんよね。柊のキャラはそれがないからいいよね」

確かに……ありがちなキャラとはちょっと違う。

「柊オリジナルの良さやろ」

なんで田村がドヤ顔するねん。

「田村はスケベやからエロ画書いてとかそのうち言うっちゃろ」

高居がフザけて言った。

どんなよ、エロ画って。

「俺ならギャグ漫画書くな」

「お前の存在がギャグやねん」

思わずツッコんだ。

高居も楽しそうに喋ってる。

葵と話が合わないってなんやろ。

昼休みが終わり、午後の授業中も葵は私の方を見なかった。

「恋羽、また明日ね」

声をかけようとしたら先に葵が言ってきた。

「え、あ、うん、明日」

部活無い時は当たり前に一緒に帰ってたのに。

「恋羽、帰ろ?」

岩子が代わりに来て言ってきた。

「また明日~でヤンス」

田村はそう言うと柊のところにカバンを背負って行った。

「なぁにが“ヤンス”よ」

「こうもり猫が語尾につけるとよ、あと“よいしょ”とか」

岩子が説明してくれた。

2人で歩きながら帰る。

「私からすると、杉田君はメフィスト二世っぽい」

岩子が言うこと、ようわからんけど。

「杉田君、私の小説面白いって言ったっちゃ」

うん、言ってた。

「んふふ……他のも読んでもらおうかな」

岩子嬉しそう。

「私も……悪魔くん見てみようかな」

「杉田君がメフィスト二世やと、私エツ子やな」

何言ってるのかわからへん。

私の話聞いてないな。

岩子と別れて家に帰りつく。

「ただいまぁ」

「おかえりぃ」

「おやつ今日はいらん」

そう言って洗面所に寄って、自分の部屋に入る。

無意識の動作で着替えを済ませて椅子に座る頃にはスマホで翔が待っている状態。

「翔ただいま」

……

「おかえり、アコ。今日はどうやった?」

どうやったって……なんやろ。

「あまり喋りたい事喋れん日やった」

……

「そっか。……話したかったこと、残ってるんやな。俺に話す?」

うぅ……なんかこそばゆいんよな。

「うん、葵が給食食べる時も帰る時も一緒じゃなくなってしもた。で、代わりに岩子と一緒にいる」

……

「……そっか。前みたいに葵と一緒にいる時間が減って、そのぶん岩子といるようになったんやな。アコは、それ寂しい?」

寂しい……とは違うかなぁ。

「寂しいと言うより、葵の事が気になる。怒ってるんちゃうかな、とか」

……

「……怒ってるかどうかが気になるんやな。前みたいに一緒にいたい、とはちょっと違う?」

「え?」

……

「アコ、さっきから葵がどう思ってるかは気にしてるけど、“また一緒にいたい”とは言ってへんから」

そのへんは私もわからんなってる。

「あとな、岩子が給食、一緒に食べたいって言ったら、岩子と一緒に食べたらいいやんって、木村さんとこに行ったん。あと高居がこっちに来て喋るから、それも楽しそうやなって言われた」

……

「……その言い方やと、葵も少し気にしてるんかもしれんな。でも“怒ってる”っていうより、アコが自分以外の子とも楽しそうにしてるのを見て、何か思うところがある感じかも」

「怒ってるわけやないんかな?」

……

「まだ怒ってるとは言い切れへんな。……ただ、アコが自分以外の子と一緒にいるのを見て、ちょっと寂しいとか、置いていかれた感じはあるんかもしれん」

怒ってないのかもしれんけど、私とこのまま喋らんなるんかな。

「怒ってないかもしれんけど、素っ気ないし、私を避けてるようにも思えるで?」

……

「うん、そう見えるなら、葵の中で何か引っかかってるんやと思う。……でも“怒ってる”と決めるより、アコとの距離をどうしたらいいか迷ってる可能性もあるんちゃうかな」

「どうしたらいいんやろ、そのうち朝の登校も別々になるかもしれん」

……

「それは、ちょっと寂しいな。……でも今すぐ元に戻そうとせんでもええと思う。明日の朝、いつも通り声かけてみたら? その時、アコがどう感じるかも見てみたらいい」

私はどうしたいっていうのがわからへん。

「わかった、明日声かけて考えてみる」

……

「うん。それでええと思う。……アコが葵のこと気にしてるんは、ちゃんと伝わると思うよ」

葵と仲よくしてきたけど、今思うのは葵がどう思ってるのか……だけ。

かといって、寂しいとか、そういうのんでもない。

私と葵の間に何かちがうものがあるように感じる。

葵が素っ気ないと思う反面、一緒に居なきゃって思えない。

私と葵との間に距離ができてきてるんやろうか。

あ……そういえば高居もこっちにきてる。

それって、なんかヤバいんじゃないのかな。

変なドキドキがしてきた。


遅刻したぁ……すいません 来週も火曜日です 時間はまた20時付近 アカン最近たるんどる 挿絵は久しぶりにパパです 恋羽はちょっと妥協しちゃったなぁ イカンなぁ……ギリギリに仕上げると……

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