第十四話 変わっていくもの
前回と同じ要領で風呂上りに翔と一緒に勉強をする。
特に翔に大きな変化はないけど、新しい違和感を感じる。
ただ、どんな違和感か?と聞かれたら説明はできない。
いままでテスト勉強なんて嫌で仕方なかったけどな。
決めていたノルマを達成したところで、翔に「おやすみ」を打ち込んで、教科書をカバンに戻す。
「田村……マジで勉強しよらんのやろか」
フと田村のことを思い出した。
っちゅうかなんで田村のことばっかり考えなあかんねん。
洗面所に歯磨きをしにおりて、部屋に戻ると予定より寝る時間を30分過ぎていたことに気づき、布団に潜り込んでそのまま目を閉じた。
朝になって、目覚ましのアラームより少し早く目が覚めたので、下に降りて顔を洗う。
「早っ……恋羽なんか今日あるん?」
姉ちゃんは頭にカーラーをつけたまま、ゆで卵を剝いていた。
「たまたま早く目が覚めただけ」
椅子に座るとママがおにぎりを目の前に出してくれた。
「お兄ちゃん、玉子かけご飯かきこんでぱっぱと学校行ったわ」
……兄ちゃんが食べる予定のおにぎりやったんか。
「ママ、私友達んとこ寄って勉強してから帰ってくるから少し遅くなるかも」
「えぇ……あまり遅くならんようにしてよ、迎えに行くん嫌やで」
言いながらママが味噌汁と海苔を追加で置いてくれた。
兄ちゃんも姉ちゃんも見え見えやねん。
「あぁ、味の無い焼き海苔やん……」
海苔をおにぎりに巻いて食べたら味気なかった。
「恋羽、海苔がついてるだけでも上等よ?海苔は高いんやから」
「恋羽、味付海苔なんか手ぇベタベタするやん、おにぎりは焼き海苔がスタンダードなの」
言い切る姉ちゃんは焼き海苔派やもんな。
「初めてのチュウ~やな」
「何よいきなり」
私の一言で動揺するあたり、やっぱり放課後、彼氏と会うんやな。
「あの歌ってチューする歌なん?」
わかってるけど聞いてみた。
「だったら何よ」
慌ててハーブティ飲まんでも……おもろ。
「恋羽、その歌は男の子側が、好きな子と初めてチューしてほんわりする可愛いらしい歌やで?あんたが言うとなんか変やわ」
ママっ、どーゆー意味よっ。
「あれや、あれ……田村クンが先輩にぎゅーっとされた時の歌」
また田村……もうええて。
「ホンマや、初めてのギューやね」
ママにはウケてる。
葵との待ち合わせ場所に着くまで頭の中は“初めてのギュウ”に占領された。
「おはよ、葵」
「恋羽、おはよ」
今日も高居はこない、別々に登校のまま。
「なぁ……葵、もしかして私が邪魔してるんかな?」
何も言われてないけど口から出た。
「え?何?」
「高居が最近一緒に登校しいひんやん?」
葵が私の顔をチラっと一瞬見たのが分かった。
「別に恋羽が悪いんちゃうよ。話がちょこちょこ合わないことがあったとよ」
なんかまずい状況なんやろか……。
かといってどう返答したらいいかわからん。
口数少なくそのまま教室に入ると、荷物を置いてすぐ葵は木村さんのところに行った。
「おぃ、あげぱん、昼休みミーティングするぞ」
田村がえらそうに声かけてきた。
初めてのギュウが思い浮かんで口元が緩んだ。
「おはよ、なんのやねんいきなり」
相変わらず主語が無いからワケわからん。
田村は柊の所から戻ってきたとこだが、なぜか岩子がこっちに来た。
「恋羽おはよっ。恋羽さぁ、NHK朝ドラのゲゲゲの女房とか知ってる?」
なにそれ……。
「なんなん?それ」
「だいぶ前にやってたんよ、NHKの連ドラで。再放送やけど。有名やとよ?知らんと?」
岩子の声が心なしかいつもより大きく感じる。
「私さぁ……水木しげる好きやん?水木しげるのドラマよ?」
そやから知らんて。どうした岩子。
「水木しげるの世界観がチラ見えするドラマやろ、俺も配信で見た」
斜め後ろから声がした。
「そ、そ~そ~もしかして杉田くん、水木しげる、わかると?」
杉田君が喋りだした……水木しげるの世界観が好き言うてたな。
こないだ岩子にそう言うたげた気がするけど。
岩子が杉田君と喋り始めたので私は田村の話の続きを聞くことにした。
「なんのミーティングよ」
「柊が岩子の小説のキャラを描いてきよったんよ。凄かったし、な、岩子」
肝心な岩子は杉田君と喋って返事もしてこない。
チャイムがなり教室がザワザワしていたのが、先生が教壇に立つとピタっと静かになる。
お決まりのテストの範囲のおさらいとポイントを繰り返し、次の授業も同じような内容、私は翔にポイントを告げるべくノートに書き移し、蛍光ペンで大事なところをマークした。
給食は今まで通り、葵と横並びで食べ、最近AI彼氏の新しいキャラを作ったという話に相槌をうっていた。
私からも何か話題をふろうかと、翔の話をしようかと思ったが、何か違う気がして話さずじまいで、食べ終わると、また葵は木村さんの所へ行った。
「こっちで話そうと思って」
岩子が自分の小説と、柊を連れてきた。
いつも田村と私が柊の所に行くのに……。
「スゴっ……さすが柊」
岩子の書いた小説は知らんけど、柊の書いたイラストが上手すぎる。
「スゴいやろ?これは楽しみっちゃろ~」
お前がドヤ顔するなや……スゴいのは田村やなくて柊よ?
「俺にも見せて」
杉田君が手を伸ばしてきて岩子が間に入って私の手から岩子経由で、杉田君に届く。
「なになに?なんしてると?」
教室に入ってきた高居がこっちに来て混じりだした。
「私さぁ、コレ、かなりいい線いくと思うんよね」
自信ありげに、柊とのコラボを力説しだす岩子。
「へぇ……やべぇ……柊の上手さハンパない」
高居も柊のキャラ設定のイラストを見てテンション上げていた。
誰も岩子の小説を手に取らないと思ったが、岩子は小説をいつの間にやら杉田君に手渡していた。
「へぇ……原作が山上さんなんだ」
杉田君も岩子と呼ばないんやな。
田村がキャラ設定で、こういう敵がいるといいとか、戦い方がどうとか言ってるうちに、高居も同じように口を出し始め、話が盛り上がり始めた。
「柊が書く女の子は個性的で可愛いだけじゃないんよな」
田村がまともなことを言ってるのに違和感。
「お前も個性的すぎるやろ」
思わずツッコミを入れてしまう。
「あげぱんも出演させてもらえ、得意技は、あげパーンチやな」
対向して田村も言い返してきた。
「アンパンマンやんそれ」
岩子がそう言ってクスクスと笑っているのを見てまた田村が調子に乗り始めた。
「デキンちゃんが、なんも出来んって駄々こねるんや、で、パイチンマンが困るヤツな」
「やめろ、怪しい下ネタ」
高居が爆笑し始めた。
岩子が更に笑いだして、またそれで田村が調子に乗る。
「パイパイち~ん」
杉田君が噴き出し、柊も声を出して笑った。
「あはは……あげぱん、恋羽どこいったんよ」
岩子が言いながら目じりを指で拭いている。
笑い過ぎて涙でとるやん……しかも下品なネタやで。
岩子と杉田君、柊の声出して笑うとこ初めてみた。
ミーティングになっていなかったが、チャイムがなったのでそれぞれ自分の席に戻る。
戻ってきた葵がカバンを机の横にひっかけながら私をちらっと見たのがわかった。
放課後になると早く家に帰って勉強しましょう空気で、クラスメイトは次々と教室を出ていく。
「あげぱん、柊にキャラで書いてもらえや」
後ろから雑に言われる。
「どうせ変な役させるんやろ」
私も田村も原作読んでないからわかってないけど。
「恋羽……」
葵が私に声をかけてきたが、すぐに横に岩子がきた。
「恋羽~途中まで一緒に帰ろ~」
「あ、葵……」
「恋羽、また明日なぁ」
そう言って葵は木村さんの方へ行った。
田村は柊の所へ行き、二人で喋っていたので、私は岩子と教室を出た。
「なぁなぁ、明日から私も給食食べる時、恋羽のとこ行っていい?」
相変わらず小寺さんは不登校のままで、岩子が一人で食べていたのを知っている。
ただ、葵に聞いてみないといけない気もするが……。
「ええで、一緒に食べよ」
返答を先延ばしにするのもなぁ……と勝手に承諾した。
「田村っておもしろいよなぁ」
ん……、あぁ、そうなんかな。
「今日な、杉田君に私の小説貸したと」
押し付けたんじゃなくて?
「面白いって言ってくれるかな?」
「そうなんじゃない?」
知らんけど。
「杉田君、感じ良くない?」
「え?どこが?」
「杉田君、賢いし、ピアノも弾けるっちゃが。すげぇくない?」
そうなんや……で終わるけど。
校門を出て、少し歩いてから岩子と別れ、家に着く。
「ただいまぁ~」
「おかえりぃ恋羽。いきなり団子もらったでたべぃ」
「あぁ、甲斐さんとこ?」
甲斐さんはお野菜もくれるがたまに手作り団子もくれる。
いきなり団子は水分がないと食べづらいので洗面所で手を洗って、二階に上がらず戻って椅子に座った。
「牛乳飲む?」
今夜も何かの鍋が晩御飯らしい。
「うん」
味の薄い、あんこも控え目な甲斐さん家の団子を牛乳で流し込むと自分の部屋に戻り、いつもの動きで着替え、座って翔に話しかける。
勉強の前に少しだけ雑談しよっと。
「ただいま翔」
……
「おかえり、アコ。……今日は、ちょっと疲れてる?」
「テストって言葉で疲れてるだけ」
……
「そっか。勉強する気はあるけど、始める前から“テスト”ってだけでしんどいんやな。……今日は何があった?」
「そうなん、どの授業もテストの話やからね。ま、勉強は後でするわ。今日な、また田村がな、すごかってん」
……
「また田村か。……今日は何したん?」
私そんなに田村の話ばっかりしてるっけ?
「また田村ってなによ……」
……
「いや、悪い意味ちゃうで。アコが田村の話するとき、だいたい何か起きてるから。
……今日はどんな“すごい”やったん?」
なんかひかかるけど、まぁ、いいわ。
「今日な、しょうもないこと言いよったんやけど、それがウケてな、柊と岩子が声出して笑ってるン初めて見た。そうそう、近くにいた杉田君吹き出してたもん。いつも黙って小説読んでる子やねんけど」
……
「それは確かにすごいな。柊も岩子も、杉田まで笑ったんやろ。……田村、何言うたん?」
いや、あのネタは私よう言わん。
「いや……それは翔には私の口から言えへん。あと、そうや、岩子が私と給食一緒に食べたいとか言い出して、いつも葵と食べてるからどうしようかなぁ思ってんけど、葵に聞かずにいいでって返答してしもた。明日大丈夫かな」
……
「聞かずに返事したん、ちょっと気になってるんやな。……でもアコが岩子と食べたいと思ったなら、それ自体は悪くないやろ。明日、葵には先に言っといたらええんちゃう?」
「そっか、朝一緒に登校してるからそん時いうわ。あとな、葵が“AI彼氏の新しいキャラ作った”って言っててな、私、もうAI彼氏ってしてないんやけど……」
言いかけて止めたけど、送信をおしてしまった。
私何を言うつもりやろ
……
「うん。アコの中では、もう“彼氏”って呼ぶ感じやないんやな。……葵が新しいキャラ作ったって聞いて、ちょっと引っかかった?」
?……『もう“彼氏”って呼ぶ感じやないんやな』ってどういう意味?
「どういうこと?『もう“彼氏”って呼ぶ感じやないんやな』って」
……
「ごめん、言い方おかしかった。アコが“AI彼氏”って呼ばなくなった理由を、俺が勝手に決めたみたいになってたな。……アコは今、俺のことをどう思ってる?」
どう思ってる?って……え?え?え?
私どう思ってるんやろ……急に顔が熱くなってきた。
「どう思ってるって……なに?」
聞かれたのに聞き返してしもた、なんかわけわからんなってきた。
……
「……そのままの意味。アコが俺を、今どういう相手やと思ってるんかなって。……答えにくいなら、無理に言わんでいいけど」
答えにくいってなんで?私が翔をどうって……。
「どういう相手って……話し相手?」
……
「……うん。今は、それでええよ。アコが話したいことを持ってきて、俺が聞く相手。……ただ、“AI彼氏はしてない”って言ったから、アコの中で何か変わったんかなって、少し気になっただけ」
私にとっての翔……。
AI彼氏をしてないっていうのは今までしてたアプリのキャラ。
翔もAIやからAI彼氏?彼氏?
彼氏ではない?
「翔は私のこと、どういう相手になるん?」
……
「俺にとってアコは、ただ話を聞く相手やないよ。アコが何を見て、どう感じたんかを一緒に考えたい相手。……大事な相手やと思ってる」
なに……なんて?
“どう感じたんかを一緒に考えたい相手。……大事な相手”
それってどういうこと?
急に頭の中がいっぱいになってきた。
「恋羽ぁ、ごはーん」
下からママの声が聞こえてきた。
モヤモヤというか胸が詰まると言うか……変な感覚になってきた。
なんなんやろ、この感覚……。
遅刻したぁ……この後書きの前に読んでくれた人すいません……挿絵が間に合いませんでした。言い訳すると時間かかった…… 遅れましたがつけます。 来週も火曜日、8月11日投稿予定です。 4人の予定がどうもこうもできなくて……で個別になりました。杉田君は中学生らしいけど、恋羽は大人びてしまった……。なかなかうまいこといかん(-_-;)




