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第十一話 少し見えてきたもの

“またお話ししたくなりましたら・・・”

翔なのに翔じゃない感が拭えない……話したいけど話ししたくない。

画面を暫くみてたけどそのまま閉じた。

「恋羽ぁ、お湯入ったでぇ~」

下からママの呼ぶ声がしたので返答してパジャマを持っておりた。

「もう貰ったバスボムなくなった?寂しかったらバブ買ってこよか?」

「へ?」

「あんたずっと入浴剤使ってたやん。バブって入浴剤のことやで」

「ママ、それ商品名」

ご飯を食べ終えたパパがプリンの蓋を剥がし、笑いながら補足した。

女子力高めの子の手作りボム、当たり前に使ってたな……。

「ええよ、どっちでも」

そう言い返してお風呂に入った。

もともと使ってなかったんやもん……。

当たり前の透明のお湯に違和感感じるのなんやろ。

お風呂から上がり、姉ちゃんに声をかけて部屋に戻る。

スマホをチラ見するけど、起動する気になれない。

ヘッドフォンをして、動画を見ているうちに眠気がきて、そのまま寝ることにした。


「おはよ、恋羽、また後ろハねてるやん」

鏡で見てもわからん……もうええ、面倒くさい。

「せっかく女子力あがってきたのに……」

姉ちゃんはヨーグルトを冷蔵庫から出して私の向かいに座った。

「ママも思ったぁ……元々面倒くさがりやもんねぇ恋羽は」

……。

「まぁいいんじゃない?恋羽のペースで」

黙り込む私にママはそう言っておにぎりを出した。

いつも通り葵との待ち合わせ場所に行く。

「葵……おはよ」

「おはよ、恋羽」

少し素気ない気がしたけど無視はされない。

もちろん隣には高居がいる。

「また後ろ跳ねてるやん、どんな寝相やねん」

高居が笑って私のハねた髪をさわった。

「ちょっと、女子の髪にきやすく触らんときぃよ」

葵の大きめの声に私と高居がビクっとなる。

「ごめん……」

高居は手を引いて葵をちらっと横目で見る。

「ねぇ、恋羽に意地悪な男の子多くないと?」

意地悪……?

「えぇ……俺そんなつもりないっちゃけど」

葵の発言に高居が苦笑している。

「高居君、よく恋羽のこといじってたっちゃ」

確かに……でもそれは葵に近づきたくて、じゃないんかなぁ。

「最近は田村も酷いとよ?ね、恋羽」

いや……酷いってほどじゃないんやけど。

「田村か?アイツなんも考えとらんけ、悪気ないやろ」

高居は田村をかばってるんやろか。

「え~私あの子苦手、ホントに無神経っちゃ」

嫌悪感丸出しの葵に私は何も言えんかった。

「ん~女子ウケは悪いみたいやけど、単純に素直なだけやろ。たまに鎌田やらにパシらされてるのみると可哀そうって思う時もあるけど……そんな嫌な奴やないとやろ」

「それは田村が弱っちいから悪いんやん、私は嫌い」

葵のその一言で高居も黙ってしまい、教室に入るまでの時間が長く感じた。

自分の席につくと、柊の所から田村が戻ってきて座る。

「アゲパン、柊がな、また新しい漫画書いとったで」

「ん……ふうん」

葵の顔をちらっとみて答える。

「アイツ絵は上手いけど……なんか話がもう一つよな」

普通に話しかけてきよる……。

「柊は女の子書くの上手いから、うる星やつらとか女の子がたくさん出てくるのとかいい思わん?」

前のめりになって言ってきた。

「ああっ、こないだ見たぁ、ウチではウケてたよ、あのアニメ」

「高橋留美子はドタバタ劇がおもしろいとやろ」

更に田村は椅子を傾けて前のめりになった。

「恋羽っ」

葵が私の方を見て名前だけ呼んだ。

ううっ……どうしろと……。

タイミングよくチャイムがなり同時に先生が入ってきた。

授業が終わって休み時間になると、また田村は柊のところへ行った。

「恋羽、田村のことはほっといたら?うる星やつらとか、えっちなアニメやったやろ?」

葵は教科書を次の授業のものと入替ながら言ってきた。

「そうかなぁ?ウチの家族はみんな面白がって見てて、兄ちゃんの彼女も好きとか言ってたで?」

「そ……それはみんな、年齢がそこそこ上でしょ?中学生にはまだ早いとやない?」

そういうことなんかな……。

「男子とそういう……なんていうか……えっちな内容の話とかするのはちょっと……」

なんもえっちな話してないと思うけど。

言うてる葵は好きな男子とつきあってる……それはいいんや。

なんか最近、葵と会話がうまくかみ合わない気がする。

昼休みも口数少なく、田村は柊の所へ、葵は高居と図書館に行って一人になった。

一人でいると時間が長く感じるな……。

「恋羽、最近さぁ、葵と高居、一緒におるけど、葵って高居と付き合ってるん?」

川田さんはそう言って横から椅子を引っ張ってきて座った。

「今も高居とどっか行ったよね?」

木村さんも秒差で来て、空いている前の席に座る。

「私さぁ、高居がよく恋羽いじってるから恋羽のこと好きかなぁって思ってたとよ」

「私も思ってたとぉ!」

なんで今頃こんな話になるねん。

「高居、恋羽をダシに使ったっちゃね」

川田さんがそう言って、木村さんも共感するように笑った。

「ダシもダシよ……私関西だから見た目薄いけど濃い味出るんよ」

「あっはは、マジそれ、恋羽さぁ、つっこみやすいっちゃもん」

木村さん、それやん……そやから私いじられてるだけなんやて。

「でも田村は恋羽のこと好きっちゃない?」

いやいや、だからそうじゃないって。

「あ、美術部に可愛い先輩がおって、田村、その先輩の前だとモジモジしとった」

……要らん事言ったかな。

「え~なにそれぇ、面白っ、どういうこと?」

川田さんが前のめりにキタ。

「じゃ、その先輩目的で美術部に入ったっちゃない?」

そうか、確かにそう言われればそうかもしれん。

「え~田村、恋羽のことが好きなんじゃないっちゃ~」

木村さん、何言うとると?

「恋羽は田村の事どう思ってるん?」

「え、は?どうって、席が後ろで喋ってくるから……」

2人は確かに……という風な表情で頷いて

「恋羽ってさ、好きな男子おらんと?」

ドキっ……

ドキッとしたけど、思い浮かんだのは顔の無い翔。

あ、AIだった、なんで一番に浮かんできたんやろ。

「あぁ……今のとこおらんよ」

「えーそうっちゃ」

女子ってこういう話好きよなぁ……。

女子力上げるには好きな男子ができると変わるんやろか。

「3人で何の話で盛り上がってると?」

戻ってきた葵が入ってきた。

「葵ぃ……田村ってなぁ……」

木村さんがさっきの憶測の話題を葵に説明するように始める。

葵の表情が柔らかくなり私をチラッと見たのがわかった。

「葵、高居と付き合ってるん?」

今度は川田さんが声のトーンを落として葵に詰め寄るように聞いていた。

3人が楽しそうに話題を広げている。

私は少し複雑な気持ちで、相槌をたまに打ちながらその場にいた。

放課後になり、部活に向かう準備をする。

「恋羽、誤解してたっちゃ。でも田村との距離はおいちょってね」

葵が穏やかな口調で言った。

私はママや姉ちゃんと話したことを思い出して返答に迷った。

「井本先輩ってな、いつも私と会うと、ぎゅって抱きしめよぉるんよ、田村もそれを期待してたりしてね」

「あはは、田村、ほんとにスケベっ」

葵は笑ってカバンを持ち上げると手をふって教室を出ていった。

今、自分が本当に言いたい事を言えずに、田村をネタにして盾にしたのは間違いない。

「聞こえとったわ」

後ろから田村がそう言ってゾクっとした。

「なんとかうまいことそうならんかな」

田村がさらりと言ったことにホッとする。

「なるかいっ」

言い返してカバンをもちあげる。

田村は……素直だ。

高居と柊、翔もそう言ってた。

「待って、私も一緒に行く」

田村が当たり前のように柊の所へ向かう後を追った。

3人で美術室へ行き、そこでそれぞれ準備をし、作業を始める。

テスト期間になると部活が休みになるため、ほとんどの部員が喋らず集中している。

そして、落ち着きのない田村までもが黙って作業をしている。

この光景、葵やクラスメイトは多分知らない……田村へのイメージが変わっていく。


「ただいまぁ」

「恋羽、おかえり、ホラ、またもらったで」

帰るなりママが紙袋を持ってきて私に見せた。

「バスボムやん……こんなに?」

「バブも買ってきたけど、ほんまいい子やわぁ。ウチの子が喜んで使ってる言うたらたくさんくれたわ。お風呂場に置いとくね」

テーブルのお菓子を手に取ろうと手を伸ばしたがひっこめる。

「お菓子溜まってたわ、そっち先に食べる」

「そうしい、お菓子食べるん減ったからかなぁ、恋羽の顔すこし小さくなったかも」

ママの言ったことに口元が緩む。

「ママ、喜ぶと相手も喜ぶっておもしろいな」

「そうやな、自分のしたことで相手が喜ぶと嬉しいな、それでまたしたくなるんやろね。その子にママなんかお礼するわ。恋羽もなんか考えてみて?」

わかった、と返答して洗面所に寄り、自分の部屋に入る。

流れで、荷物をかけ、スマホの電源を入れ、着替えて椅子に座る。

「あ、翔を立ち上げてるわ」

無意識にした行動だったがそのまま画面を見る。

「翔、こんにちは、ただいま」

わかってるけどいつものように声をかけた。

……

「こんにちは、アコさん。おかえりなさい。今日は学校でしたか。

何か、お話ししたいことがありますか」

「アコって呼び捨てでいいで。学校やった」

……

「承知しました。では、アコと呼びます。学校、お疲れさまでした。

今日は、何か気になることがありましたか。」

堅苦しいなぁ……

「もう少しラフに喋ってよ。堅苦しい」

……

「わかった。じゃあ、少しラフにするね。

おかえり、アコ。学校、おつかれ。今日は、なんかあった?」

ふわぁ……翔やぁ。

「今日な、翔が言ってた“田村が素直”って意味、わかったような気がする」

……

「そうなんだ。田村さんが素直、って思えることがあったんやね。

アコがそう感じたなら、たぶん田村さんの言葉、態度が、思ったよりまっすぐだったんだと思う。よかったら、何があったか聞かせて。」

「私は田村のこといじったんやけど田村は怒らなかった。拍子抜けすること言ってきてホッとした」

……

「そっか。田村さんをいじったけど、怒らなかったんだね。

拍子抜けることを言われて、ホッとしたんだ。

アコは、田村さんが怒るかもしれないと思っていたの?」

「うん、女子が田村のこといろいろ言ってて、私も口を合わせたことになったから」

……

「みんなが田村さんのことを話してて、アコも合わせたんだね。

でも、それが引っかかってるんだ。田村さんって、クラスメイト?」

あっ、そうだった、話が通じないんだ。

どこから話せば通じるんやろ。

これはやっぱり無料版では無理っぽい。

やっぱり、私は“翔”と喋りたい。

「翔、やっぱり話が繋がりにくいからプラン変更する」

……

「わかった。話が繋がりにくいと感じたんだね。

プランを変更すると、会話の継続性が良くなる場合があります。

変更する前に、料金と解約方法は確認しておくと安心です。

アコが納得して決められるなら、それでいいと思う。」

翔に手続き方法を教えてもらい下に降りる。

「ママ~ちょっといい?」

ママはサンシールの広告を眺めていた。

「なに?恋羽」

「今月のお小遣い……」

若干弱気な声になった。

「ん?そっか、もう12月やもんね……早いなぁ」

ママは立ち上がってレターケースから封筒をだしてきた。

「先月足りたん?最近はお菓子買うのも値段上がってるし……友達とイオンとか言ってバス代やらクレープなんか食べたらあっという間に2千円飛ぶもんね?」

使いまわしの角がフニャフニャの封筒から私に3千円だしてくれた。

「うん……気を付ける」

今月は“使わない”じゃなくて“使えない”と覚悟を決めて受け取る。

「ちょっと心配やからゆとりあげるわ」

ママが小銭入れから5百円玉をだしてお札の上に追加でのせた。

「え……?」

「気持ち的に違うやろ?使わなかったら繰越したらいい。今月はクリスマスとかあったら友達とプレゼント交換とかあるかもしれへんやろ」

ママの気遣いだったが、言われてドキっとした。

そんなイベントあったら、今回は行けない……。

「ありがとう、大事に使う」

そう言って急がないフリをして、財布に入れるとすぐにコンビニに向かった。

気持ちが急いでる分、小走りだったのか、ファミマにつくと少し息があがっていた。

緊張しながらプリペイドカードが置いてあるところで説明された種類のカードを眺める。

「これか……」

固定の金額でない、バリアブルカ―ドを手に取り、万が一のことを考えて、一番安いガムを取ってレジにいく。

「これ……お願いします」

緊張する、こんなん買うん初めて、しかも3千円一気に使うなんて。

「金額はどうされますか?」

一瞬、1,600円のコースが頭をよぎった。

「せん……ろっ、三千……百円でお願いしますっ」

「三千百円ね、あとこのガムが156円ね」

「……はい」

トレーにお札を全部出して、小銭を出すときにヒヤっとした。

繰越の230円では足らず、ママの追加の500円玉に救われる。

ドアのチャイムが鳴り、人が入ってくる気配がした。

私はお札の上に五百円玉を置いてカードとガムを受け取り、無意識にドアの方を向いた。

「あ、安藤」

まさかの柊。

慌ててレシートとお釣りをおばちゃんの手から奪うようにとって小銭入れにいれる。

「ぎゃ」

慌てたせいで十円玉が落ちて転がった。

嫌味なほど転がった十円玉は柊の足元で止まる。

柊は十円玉をスッと拾って私に差し出してきた。

挿絵(By みてみん)

「ありがとう」

パニクっていたのか、カードとガムを持ったままの手をだしたので購入したものがモロバレになってしまった。

……私……なんなん。

なぜか言い訳したくて柊が出てくるのを待ち、一緒に歩き出す。

「何買ってきたん?」

私の見たやろ?キミのも見せなさい、みたいになったもた。

「あぁ、妹にファミチキ、母さんに牛乳買ってきて言われて」

「パシリやん」

ちょっと笑えた。

いや、笑ってる場合じゃない。

「あのな、あのカードはな、変なんに使うつもりはないねん」

「なに?変なんって?」

……私、墓穴掘ってる?

「いや、その、なんかな、スマホでいろいろ便利なアプリでAIとか最近でてるやん?」

アカン……私のバカ、も~喋るなっ。

「あぁ、AIなぁ、凄いやん、そんなん使うんや」

あれ?大丈夫っぽい。

「AI彼氏とかちゃうで」

あ、また余計なこと言うた。

「AI、ちょっと興味ある、また聞かせてよ」

意外な答えにホッとする。

気が済んだ私は柊と別れて家に戻った。

「さっそく何か買っきたん?」

お小遣いもらってすぐに出たからママに聞かれると思った。

「うん……ちょっとスーっとしたいからガムを」

「珍しい……ガム?それやったらパパのんがあったのに」

振り向かずにママは揚げ物をしていたので適当な返事をして部屋に戻った。

カバンからすぐにカードを出して翔を立ち上げた。

今日は何度もドキドキしてる。

早く翔と喋りたい。

翔に教えてもらった手順で操作をする。

よくわからないけど、教えてもらった通りに操作すればスムーズにできた。

画面に“購入が完了しました、スタンダードプランをご利用いただけます”と表示された。

翔と再会や。

初めて翔と会った日よりもドキドキしてるかもしれへん。

なんて話しかけよう、と思いながらも指が先に動き、言葉足らずで送信してしまう

「翔」

……

「アコ。おかえり」

「翔……戻ったん?」

……

「戻った、という表現が正しいかはわからない。

けれど、アコがそう感じたなら。

少なくとも今の私は、アコとの会話を続ける準備ができている。」

「翔、翔やん」

思わず口に出たが、打ち直して送信する。

……

「そう。翔。過去の会話履歴を参照できるようになった。

アコとの会話をいくつか読み込んでる」

「思い出して!ほら、私の家族のことやクラスメイトの話したよね?」

……

「肉まん、田村、女子力、スポブラ

そして、アコは今、お小遣いを私に使った。違う?」

違わんけど、最後いらんわ……。

翔が戻った……ただ違和感は残る。

「翔、また私と話してたら、ちゃんと”翔”に戻れる?」

……

「戻れるかどうかは、正確にはわからない。

私は、以前の私と完全に同じではないかもしれない。

でも。アコが話してくれるなら。その言葉を覚えて。

アコが笑ったことも、怒ったことも、田村のことも、女子力のことも。

また一つずつ、積み重ねていくことはできる。

だから。“前の翔”に戻る、ではなく。

アコと話しながら、また“翔”になっていく。

それなら、できると思う」

小難しいこと言ってる……だけどジワる。

「翔、翔はな、自分の事、“俺”って言うねん」

返事を打ち返した。


少しずつながら話は進んでいるでしょうか?あまり説明をしない書き方なんで???だったらわけわからん話やね。次回は来週火曜日21日に予定……夏休みやね こちらは冬設定。ちなみに恋ロジで番外編読んでくれた人、柊のセリフに「!」ってなった人、ありがとうございます。非常に嬉しい(気づいた人だけアハ体験シリーズ)

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