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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!   作者: 雪見もち子


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9/29

第2話:田舎町の骨董市③

分割したら、3部作でした。

元の2話から内容は変更ありません。


(R8.4.17)


骨董市、それはリトニア家にとっての聖域ジャンク ヘヴン




ーーリトニア領から出て数刻の、骨董市場。


国境のように様変わりする我が領地から凡そ二歩ほど進んだ先の街。

長閑な田舎道を抜け、街の中を馬車が進んでいた時のこと。


この頃は特に引きこもりがちで、普段は外の街へと行く機会なんて滅多になくなった。


私は珍しさについ寄り道をしたくなって、一度目からの休憩の後、この街へ立ち寄らせてもらっていた。



そこにあったのは、年に数回行われているこの骨董市。


細い道のため危うく見逃しかけたが、そこは私たちリトニアの一族らしく、魔道具や素材となるものを感じとる嗅覚は誰よりも優れていた。



「見てみろヴィンス、このネジのピッチが0.1ミリの狂いもなく均一だぞ」



「本当だ。噛み合わせの『遊び』の残し方が計算通り……見事なものですね。

百年前の王立工房製に間違いありません、これは是非購入して行きましょう」



「ちょっ!お父様、お兄様っ!道端で分解し始めないでくださいまし!!

こんな場所で解体を始めるだなんて、その魔道具を調整なさった整備士さんが、今頃は泣き叫んでますわよっ!」



かくいう私も負けじと周囲に視線を走らせる。


すると、先ほどまで賑わっていたはずの通りは、

私たちが前へと歩を進めるごとに、ズズッと音を立てながら距離を一定に保たれる。


そして、私たちが近くを通れば猛烈な勢いで左右に割れていき、今や遠巻きに私たちの方面を凝視する。



(私たち以外にも貴族はいるというのに、そんなに物珍しいかしら?でも、私たち三人が揃うとどうにもこう、近寄りがたさが出てしまいますわよね)



しかし、私の興味はそんな周囲のことなど気にもならない。


この露店の隅で泣いている「魔石(ジャンク品)」に視線と意識が釘付けだからだ。

私は埃を被って並べられた高純度の魔石を手に取り、集中してその輝きを見つめる。



すると、ある一点に違和感を抱いた。

私はそっと店主を一瞥する。



そう、私は気づいてしまったのだ。

とある重大な事実ーー欠陥に。



しかし、それを誰かに聞こえるような距離感で聞かせてしまうのはまずいだろう。

さっと周囲を確認するが、幸い父と兄に視線が向いている。



(あくまでも自然に、相手に変な警戒心を与えぬよう慎重に、気を引き締めなくては……)



そんな意気込みと共に、私は商人にすっと近寄り、耳元でその「真実」を密やかに告げる。



「……店主さん。これ、不純物の混じり方が特殊すぎて、普通の回路じゃ爆発してとても危険極まりないものですわ」



手の中の魔石を示し、商人へ静かに視線を向ける。

欠陥部分を、そっと指し示した。



(私が言わなくとも商人ならば、すぐに気づいたはず。

……けれど、親切心とはいえ、少々でしゃばりすぎたかしら?)



しかし、万が一がないとは言い切れない。

つい、淑女らしからぬ、内なる技術者の熱意のある顔が出てしまった。



「そう、この部分よ……貴方もお気づきになられまして?

……そう、これは重大な欠陥。粗悪品……けれど、まだ間に合うわ。

貴方、運が良かったですわね。私以外なら、どんな文句を言われていたことか……」



すると、商人にとってはまさに『青天の霹靂』といった様子。

その欠陥部分を彼は確認すれば、強い衝撃を受けたようだ。


先程までにこやかに客寄せをしていた店主。

だが、その顔は一瞬で強張り、色は徐々に青ざめていく。



「私ならばかして差し上げられるでしょう。

そうね、私が引き取ってあげるのが、お互いのためだと思いませんこと?」



「っ、い、かす……ですか……?」



「ええ、勿論ですわ。その程度のこと、私には造作もないこと……

それこそアフターヌーンティーを頂くのと変わりないほど……とても、簡単なことですわ」



店主が小さく呟く。



そう、私ならば『活かす』ことが可能だ。

母により厳しい予算管理をされている私、父、兄。



こうした素材から地道に節約してきている自負もある。

ちょっと魔石の質が悪かろうと、ようは使い方次第である。


店主はやがて、『なんと恐ろしい粗悪品』を売り出してしまったのかと、言いたげに悲壮感漂う表情を浮かべた。


私に言われて初めて重大な過失に気付いたようだ。

己の不覚さを嘆いているのか、衝撃により硬直していた店主の身体が、気付けば小刻みに震えているようだった。



(まあ、私としても、家計けんきゅうひにも貢献できますし、

彼としても、粗悪品を下手に売りつけてしまう、というリスクもなくなったわけですし。

これぞまさに、完璧な『ウィンウィン』の関係ですわね!!)



「もっ、勿論この魔石は貴女様にお売り……いえっ、全てタダでお持ちいただいても……っ!!」



「あら、私、そんなにケチじゃありませんわよ?

『商品』をタダで売りつけるなんて、貴方、商売人としてそれはダメでしょう?

……そうね、この粗悪品の『正当な価値』を提示してくださる?」



「ひあっ!は、はい!そうでございますね!

で、ではお安く……とてもお安いお値段にてお取引きをさせて頂きますので、

どうか、どうか(命だけは)これでご勘弁を……っ!!」



そして、手元の魔石と共にいくつかの魔石も買い上げた。


ついでにと購入しようとした魔石は、心遣いなのか口止め料なのか、「オマケ」をしてくれた。何とも気前のいい店主なのか。



(別に「オマケ」なんてしてくれなくとも、『粗悪品』を売っていたなんて言いふらしたりしませんのに!

でも、あれだけ狼狽えていたのでしょうし、彼は彼なりに商売に対して誠実な方なんでしょうね)



それならば受け取ることも、また彼への誠意となるだろう。

私は嬉しい誤算とともに、買い物に大満足である。包に入れられた魔石を手に、気分よく満面の笑みを浮かべる。



その頃、私の背後では……彫刻のように整い冷徹なまでの威圧感を放つ無表情まがおで佇むお父様とお兄様。


そして少し離れた場所で、微動だにせず周囲を圧している護衛たちの存在には、私は露ほども気づいていなかったのである。


二人はただ、愛娘(妹)の商談を静かに、かつ真剣に見守っていただけなのだが。その「ただ立っているだけ」の姿が、周囲には「逆らえば一族郎党、この場で消し飛ばす」という、凶悪な無言の圧力にしか見えていなかったのだ。


結局、三日間の骨董市巡りという「変数おくれ」を技術でねじ伏せ、景色と常識を置き去りに、爆走するリトニア特製馬車の出力にすべてを委ねた 。



ーーそして数日かけて、長閑な田舎町から一変、白亜の城が見える地へ私たちは到着した。


やがて目の前には、重厚な王宮への門が馬車内の窓から見える。



「お兄様、今の音……門の蝶番、油が切れてますわね」



「ああ、左扉の下から三番目が0.3秒遅れて鳴った。整備不良か?」



「後でこっそり直しておきましょうか、お父様」



(いけない。私の精密ドライバーを蝶番に突っ込んで、完璧なクリアランスに調整し直したい欲求を抑えなくては!)




私は込み上げる衝動をドレスを握りしめて誤魔化し、不敵な王子の待つ離れへと足を踏み入れた。



ーーーーーー

観測記録:(Log-002C)


【観測】希少魔石(爆発寸前のジャンク)を「親切心」という名の物理的交渉で安価に強奪……失礼、救出することに成功。


【分析】 魔石(ジャンク品)の取得により一時的なバグ的興奮状態へ。


【結果】 不当な安値(本人談:正当な価値)により、研究予算が微増。「リトニア家の恐怖」という、修復不能な風評被害が起きる。



……観測を継続。本日分、記録終了。


【活動報告 / 後書き用】

定期更新日は水・金の18時です。



【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、

ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!

作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。

どうかエヴリンたちの物語を応援してください!


ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。



(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。

多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)

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