第2話:禁断の実録本と代理戦争②
分割してます。内容に変更はありません。
(R8.4.17)
長い代理戦争の末、やっと一人になった車内。
私は執事のクロードが「道中の退屈しのぎに」と持たせてくれたカバンを開ける。中には彼からのどこにでもある紙質の手紙と、それに似合わぬ異質な物体ーー銀色に鈍く光るスパナが入っていた。
『私の「特製スパナ(予備)」も紛れ込ませておきました。
万が一、とある高貴なお方がさらなる無茶を言った際には、そちらで交渉を――執事クロードより』
(……クロード。「交渉」って、まさかこれであの王子の優秀な頭を叩けとおっしゃっているんじゃありませんわよね!?)
クロードが入れた予備のスパナは「高硬度合金特製スパナ」、表面には我がリトニア家の刻印があるこれは、一般的な魔道具であり、工具の部類。いわゆる生活用品として仕分けされる消耗品が主なもの。こちらは道具としての『魔道具』という規格。
しかし、私の愛用品はそれをさらに改良した「魔導具」と呼ぶべき一品、非売品を持っている。
主に軍事や精密作業に用いられる、高出力・多機能な一級品。再利用可能な希少魔石を心臓部に持つそれは、高級品でもある。
その制作と登録は私のような「国家魔導具師」という資格持ちにしか許されない。
どちらも全人類が持つこの魔力という動力をもって、道具に組み込まれた魔回路を通り、魔石に魔力を注ぎ使用するというのが常識だ。
(私視点で言わせれば、前者はただの『道具』、後者は魂を通わせる『相棒』なのだけど……この違いを理解せず、私の『魔導具』をただの便利道具扱いする輩には、愛用する私のスパナによって物理的な『再定義』が必要かしらね?)
私はカトレアが仕込んでくれたドレスの隠しポケットに、その愛しき「鋼の相棒」たちを次々と装填していく。これは必要な装備だ。
「精密ドライバー……よし、胸元の発煙筒……も、よし。……安全確認、点検ともに問題なし!!
ふん、これぞリトニア家令嬢としての、格式と品位を両立した完全擬態ーー
ーー淑女の完璧な正装の完成ですわ!!」
満足げに自分の装備を指差し確認する。現場作業ではよく行われる基本の『基』である。これはリトニア家の家訓でもあり、開発作業現場では当たり前のこと。
準備も万端、あとは目的地まで優雅に茶菓子でも楽しむだけ。そう思い手近な雑誌をパラリと捲る、
ーーその瞬間。
「…………はえっ?」
上機嫌な声色から、淑女らしからぬ枯れた声が漏れ出た。思考は戦慄し、表情ごと凍り付く。
【(巷で大人気3作品:シリウスの華麗なる執事業シリーズ)】
『冷徹な鉄の執事~お嬢様を侮辱した不敬者は、銀のスパナで「解体」致します~』
『狂信的従者はネジを回す~天才幼女の影に潜んで闇を「排除」致しました〜』
『深愛の番犬~主の寝顔を守るためなら、不敬なゴミは「収容」済み~』
(待って、待って、待っって!!えっ、これ、どう見てもうちのクロードじゃありませんの!?髪色を銀から黒に変えただけで隠す気ゼロですわ!!?)
感情が昂りわなわなと震える指でページを捲る。そこには、三日前の「厨房での夜食」という、本人しか知り得ない極秘実話が赤裸々に綴られていた。なお、出版社は母エカテリーナの実家ーーフェルマイト伯爵家が経営を手掛けているものだ。
「稼げるうちに稼ぐのよ!」という、実利を重んじる母のプロデュース。脳裏に浮かぶ母の声と姿に、私は力の限り理雑誌をぐっと握りしめ、力の限り天を仰いだ。。
「子爵令嬢としての品格が、まるで壊れかけの鳩時計のバネのように吹っ飛んでしまいますわ!! 助けておばあ様っ!!」
今頃畑仕事をしているであろうおばあ様へと向け、絶叫を上げた数秒後。休憩で停止していた馬車の中へと、兄のヴィンセントと父のハロルドが戻ってきた。
間一髪で私の叫び声は聞こえていなかっただろうか、いや、聞こえていた所でまたいつもの事かと特に気にされないだろうが。
「エヴリン、どうした? 新作の魔導具のことでも思いついたのか?」
「あっ、いえっ、なんでもありませんわよ、お兄様っ!この改良されたスプリングのおかげで、快適に過ごせておりますので!」
それでも羞恥心というものは私にもある。叫び声を上げる事となった元凶の雑誌を、そそくさと必死に隠しながら、レモン味の炭酸水を口にした。
お兄様やお父様はよく愛想のない人だと、誤解されがちな性格をしているが、それは大きな勘違いだ。お兄様は少し表情は固いものの、誰にでも優しく、丁寧な物言いをする。
外面も私とは違い、時期当主として立派な体裁を保てるほど。そんな兄は末っ子の私を特に可愛がってくれており、何かあってもなくても手を差し伸べてくれる。
ちょっと過保護な部分はあれど、思いやりと思慮深い、自慢の兄だ。
「気分が悪いのなら、このまま休憩を取るが」
「はい、お父様!でも、もう大丈夫ですわ!お兄様に頂いた炭酸水で、気分もスッキリいたしましたので。お気遣い、感謝します」
父は家族の中では一等言葉数も少なく、自分の研究に熱中しやすい技術者らしい傾向がある。
だが、観察眼は誰よりも優れ、いつも家族の不調を即座に見抜き、大事な時は必ず言葉にして伝えてくれるとても頼りになる自慢の父親だ。
そんな二人は私の尊敬する技術者であり、そしてとても大切な家族の一員。私の返事に安心したのか、二人はほっと表情を和らげ頷くと、停止していた馬車が動き出す。
「しかし王家も急ですね。手紙が届いたら至急王宮へ登城せよとは。……まあ、大体いつもこのような無茶ぶりは受けますが」
「……我ら三人の『国家魔導具師』を招致したのだ。此度の件、よほど何かしらの思謀があるのだろうな」
訝しむ兄と父の表情は硬い。かつてあのドS王子に『周囲一キロの頭頂部の反射率を検知して光るサーチライト』といった悪趣味なガラクタを要求されかけた記憶が蘇る。
もちろん私への依頼だったので、無事に断ったが、尊敬する兄と父への依頼だったら怒りのあまりとんでもない暴言を吐く所だった。
「……もしもまた、あの時のような嫌がらせ紛いのくだらぬ制作依頼だったら、絶対に私が断ってみせますわ。あの『魔道具』オタクの王太子殿下には、一度きちんと言っておかねばならない、技術者としての矜持もありますからね」
父と兄も同感だと言わんばかりに頷くのを見る。しかし、そんな私の意気込みも、道中で骨董市を見つけてしまえば霧散してしまう。
リトニア領から出て数刻のこと、王宮までの道のりはまだまだ続きそうである。
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観測記録(Log-002B)
【観測】奥様プロデュースの「実録本」による精神デバフの付与を確認。
【分析】物理的拘束により可動ビット数68%に制限。さらに自尊心の1ビット消失を検知する。
【結果】自由意志の喪失と引き換えに、不憫値は本日も極めて良好。
……観測を継続。記録終了。
【活動報告 / 後書き用】
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




