表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!   作者: 雪見もち子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/32

第2話:強制召喚と、代理戦争①

急遽前編後編に分けました。

後編は本日の18時投稿になります。



王宮からの招待状。




それは、辺境の技術者街で平穏を愛して引きこもる私にとって、実質的な「強制召喚状」に他ならなかった。


家令のリチャードから銀盆に乗せられた手紙を渡された瞬間、盛大に、かつ戦略的に駄々を捏ねた。


しかし、私はたかが子爵家の令嬢の身。世の中、どうにもならない事もある。



翌朝。

渋々といった顔で、私は自室に籠城するという道を選んだのだが、そこは流石リトニア家の家令、私の小さな目論見などお見通しだ。


退路を塞ぐ数人の侍女たちに包囲され、あっという間に団欒室へと運び込まれたのだった。



「着飾るなんて時間も予算も無駄ですわ。技術者として呼ばれるのですから、油染みのついた作業着で十分! そうでなくて?」



ソファの上をゴロゴロと転げ回る姿は淑女失格だろう。

十六歳にもなって落ち着きがないだの、子供っぽいだの何と言われようとも、私は気にはしない。


お気に入りの作業用エプロンドレスを振り乱して抵抗する。


しかし、リトニア家の使用人たちはこの程度では一切動じない。何故ならこれが彼らの日常であり、至って普通のことだからだ。



「むしろ正装なんて着たら、私の技術者ゆえの精密な感覚を持つ繊細な指先が、精度を低下させてしまいますもの!」



無駄なく整えられたロマンスグレーの髪を持つ家令リチャードは、背筋をピンと張り、私の前方数歩先でお手本の教材の如く控える。視線一つで逃走を許さない、まさに堅牢な扉のような構えで立ちはだかる。



(あの王子の言うことを素直に聞くのは、釈然としないのだから、仕方ないと思うのだけど?)



動き回る身体を止め、恨めしげな視線を家令に向ける――が、私の意思など素知らぬ風に、澄まし顔で感情を汲み取らないと言いたげに静かに見返されるだけだった。



「なりませんよ、お嬢様。王宮の敷居を跨ぐのに、そのように煤けた作業着で行くなど……奥様になんと言われるとお思いで?

……おや、窓から逃げようとしても無駄ですよ。

すでにそちらの窓はクロードが外から完璧に施錠ロックしております。工具を取り出したところで、解除するその時間で私が確保致しますゆえ」



(なんですの、その完全包囲網の鉄壁さは!

リチャードは元・国家二級騎士……私が十人束になったとしても、物理的な制圧からも逃亡不可能だなんて、容赦の欠片もありませんわね!?)



一方的な睨み合いと、冷静沈着なリチャードとの無言の応酬。


緊迫と静寂が広がる室内。


やがて、私が諦めるしかないと絶望の淵に立たされていたその時。 カチャリと小さくドアノブの音が響き、時間を再び動かすように扉が開かれた。



「お待たせいたしました、お嬢様。貴方の専属侍女、カトレアがただいま参りましたわ」



――私の専属侍女、カトレアだ。



(……これぞ淑女として、そして侍女としての品位の高さを示す優雅な身のこなしね……)



蜂蜜色をした垂れ目の瞳、その左目の下に添えられた泣き黒子が彼女の無垢さから色気を引き出す。瞳に宿るのは心を揺さぶる甘さ。そこに滲み出る慈愛の色が熱量を増し、全ての視線を釘付けにする魅了の眼差し。


彼女が動く度に周囲には、甘さの中にどこか知的で涼やかな香りが満ちていく。侍女でありながら、『調香師』としての資格も得ている。その腕前はこの香りが何よりの証明となる。


豊満な体型は女性らしさを強調するのに、表情に棘がないからこそ、嫌味さが浮き彫りにはならない愛らしさが残る。



(……その『愛らしさ』という名の安全装置セーフティを外した先に、どれほど苛烈な毒が潜んでいるのか、一見しただけでは分からないでしょうね。

巷の平民たちのみならず、貴族たちでさえも『傾国の侍女』だなんて呼ぶだけの説得力がありますわ。

脳の回路を焼き切るのも納得な仕様スペックですわね)



「……あら?そう言えば貴女、今日は何やらやる事があると聞いていたのだけれど、もう用事は済んだのかしら?」



「はい、用事は無事済んだのですが、少々問題がございまして……」



「問題?それは何……って、えっ!?本当に何ですの、その無駄にある謎の物体の山はっ!?」



彼女の背後には、馬車一台分はあろうかという色とりどりの「布の山」という背景。他所から見たら異様な光景だ。



「実は、お嬢様が本日より王宮へと出ると昨夜に聞きましたので、一晩中、兄と議論をしたのですが、一向に決まらず……それならばと、ドレスを全種類お持ちすることにいたしました」



「全種類!?」



「馬車を増やせば、どうという事はないでしょう……?」



「何それがさも当然、みたいな顔をしているのかしら!?持っていきませんからね!!ええ、あの山は全部クローゼットにしまっておいてちょうだい!!」



私のクローゼットに入る隙間があるのならば、の問題だが。そもそも私のクローゼットは無駄を嫌い、他のご令嬢が持つタイプより規格はうんと小さい。きっと倉庫行きになるだろう。



カトレアが衝撃を受けたようにカッと目を見開き、悲しみに嘆く。……が、私の方が嘆きたい。



「なぜ私の専属侍女はこう、変わり者なのかしらね……けれど、それがカトレアらしい、と言えばらしいのだけれど……」



「ふふ、お褒めに預かり光栄ですわ、お嬢様。……ああ、それと、こちらなのですがーー」



耳障りの良い言葉だけを拾い上げる。聞いていないという事ではないのだろうが、私の些細な愚痴で挫けるような女性ではないのがカトレア。



おずおずと私の前に一歩踏み出す。いつの間に持っていたのか、夕暮れのような鮮やかな茜色のドレスを私の前に掲げる。彼女は頬を染め、熱っぽい吐息を漏らしながらその一枚をうっとりと眺める。



「本日のドレスですが……、お嬢様の神々しさを全土に知らしめるには、この夕陽の光のように、視線を惹きつける一着こそが相応しいかと」



「毎回言うようだけれど、私に神々しさは何処にもないし、それに、そういう貴女の方が神々しいのだけど?!

と言うよりも、全土に知らしめるって何ですの!?私にとっては人生最大級の恥ですわっ!

その重すぎる信仰心バグの負荷で、これ以上、私の回路のうを焼き切らないで頂戴!!」



譲れない思いが駆け上がり、一気に加速する私の饒舌により騒がしくなった室内。そんな喧騒の中、音もなく背後に執事のクロードが姿を現した。



「失礼します、お嬢様。本日の装いと聞いて参りましたが……ああ、カトレアはもう用件は済みましたね?」



「クロード!いつも言っているけれど、音もなく背後に回られると驚くのよ!少しはか弱き令嬢レディの心臓に配慮してくださる?」



(……相変わらず、無駄に整った顔立ちよね)



クロードはカトレアとの風貌が同色である。瞳は甘さを残しながらも、目元はスッと切れ長な為に、一見すれば理知的、けれどその風貌には冷徹さが隠せていない。

右目下の泣き黒子はカトレアと対になっているのも兄と妹という関係値を即座に連想させる。



(本当に印象がこうもガラリと変わるものね。でも表面には見えない毒がある、だなんて誰が想像するかしら?)



男女問わず虜にする『傾国の執事』なんて呼ばれているのも、納得の仕様スペックだ。

その凄まじい美貌を隠すために私が作った魔導具の一つ、「認識阻害の眼鏡」は、今の彼を見ているとまるで機能しているようには見えない。



(けれど、本当に癪ですわ! 私が心血注いだ魔回路の構築!

そして、何日も徹夜して組み上げたレンズの屈折率を、本人の実力びぼうだけで貫通してくるなんて、

なんたる屈辱……っ!制作者としてのプライドは砕け散りそうよ!)



「おや、それは申し訳ございません」と悪意なく笑みを浮かべるクロードのことだから、きっと私があまりにも騒がしくて気配に気づけなかっただけなのかもしれない。

気を取り直すように、小さく咳払いをし、クロードへと向き直る。



「それで、クロード、貴方の用件は一体なんなのかしら?」



「ええ、私からも是非お嬢様にお召し頂きたいものがありまして……。それでは、こちらをご覧下さい」



恭しく礼を捧げる彼は、カトレアと入れ替わるように立ち並び、完璧な執事を自称するに相応しい非の打ち所のない所作で私の前へと差し出すドレス。

それは、カトレアの茜色とは真逆の、深夜の静寂を夜空に優しく溶かした、深い藍色のドレス。



「お嬢様という『至高の傑作』に相応しいのは、この一着のみかと。どうぞ、身に纏って頂ければ」



「あら、兄様……貴方まで何故ドレスを?あそこにある布の山、貴方に見えていなくて…?」



妹のカトレアは、「敬愛するお嬢様の素晴らしき生き様を、全土に説き伏せて差し上げましょう」と、至高の福音を広める「狂信的な奉仕者」


兄のクロードは、「お嬢様の歩みを妨げる不浄は、この爆弾で跡形もなく完璧に消し去ったのち、お嬢様を閉じ込めて差し上げましょう」という、「無慈悲な番人」



(……どっちも、私の制御コントロールを余裕で振り切る、高出力フルスロットルな忠誠心の持ち主ですわ!)



「うーん、迷うわね……。けれど、私だったらこのドレスより作業着ーー」



「あら、兄様。お嬢様のお着替えを、邪魔するつもりかしら? 支度を始めますので、早く出て行っていただけます?」



「邪魔をするつもりなど到底ないが、お嬢様の魅力を伝えるには、こっちの装飾品とて必要だろう?それだと、お嬢様にとっては不必要な飾りになると思うが」



右側からは、私の言葉を遮るように、身をずいっと寄せ甘く微笑むカトレアと、情熱を秘めた茜色のドレス。


対するクロードは負けじと、左側から攻め込み妖しく微笑むクロードと、深淵を形にしたような冥色めいしょくのドレス。



そして、ーー美の暴力によって眩しげに目を細める中央の悪役令嬢(顔)な私。



構図がまさしく、巷でいう「テンプレ」そのものであったのを、私は知らない。

嫌なサンドイッチである。



迫り来る二人の美貌偏差値ぼうりょくよりも、この混沌とした状況に私の回路は爆発した。



「やめて! 私の『外装ドレス』で代理戦争をしないで!! 私の適正スペックはもうとっくに限界突破オーバーヒートしていますわっ!」



兄妹間で静かな火花が散る。

「お嬢様愛」という名の熾烈な暴走。



その後、「ドレスの試着」という名の拷問をくぐり抜け、ようやく王宮へと向かう馬車に押し込められたのは、それから三時間後のことだった。




ーーーーーーー

観測記録(Log-002A)


【観測】 被検体(お嬢様)、王宮からの「召喚状」を物理的に拒絶。駆動トルク(駄々)の最大値を確認。


【警告】 侍従兄妹クロード・カトレアの忠誠心がバグり散らかしており、お嬢様の外装ドレスが爆発寸前。


【判定】 自尊心の1ビット消失を予見しつつ、王宮行きの馬車へ「強制乗車パッキング」処理を完了。



……いってらっしゃいませ、お嬢様。


【活動報告 / 後書き用】

7話まで、毎日18時に投稿を行う予定です!

しばらくは「タイトル詐欺(?)」のような展開が続くかもしれませんが、ぜひその変化もお楽しみください!


【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。どうかエヴリンたちの物語を応援してください!

ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ