第1話:悪役令嬢は、淑女の嗜みにスパナを隠す②
1話のリメイク(多分)完了です。
しかしながら、評価されすぎるというのも考えものらしい。
――十六歳になった今現在。
工房でいつものように開発に勤しんでいた午後。基盤をいじっていた私の元に、重々しい足音が近づいてきた。
「エヴリンお嬢様。王太子アルフレート殿下より、直々のご指名です」
「……あら、またなの? ……はあ、今度はどんな無茶ぶりをされるのかしら」
現れた家令のリチャードの手には、王家の真っ赤な封蝋。差出人の欄には、有無を言わせぬ圧力を放つ筆跡。
令嬢らしからぬ渋い顔をしてしまうのも仕方ないだろう。
「あの王太子、アルフレート殿下は、よく飽きもせずに私たち一家に無茶な依頼を吹っかけてきますわね……」
「お嬢様、そう言ったところで王太子殿下には届きませんよ」
「だって仕方がないじゃありませんの! つい先日は、頭がハ……んんっ、えっと……『“毛根の活動”が「休止モード」に入られた方に対してのみ激しく発光する、薄毛検知魔導具』。
『履くだけで高圧電流の流れる健康靴』型の魔導具を開発しろだなんて言ってきましたのよ?
そんな開発を私たちに依頼するだなんて、とんだ腹黒ですわ!!」
(うちは便利道具の製作所ではありませんわ!!)
特に健康靴に関しては技術の冒涜だと判断して、丁寧にお断り申し上げた。
代わりに以前から王子が欲しがっていた、『全自動マッサージ機能付き作業椅子』――通称「ととのう君」をプレゼントして、なんとか矛先を収めてもらったのだ。
(今では毎日愛用するほどに気に入っていましたけれど。……まさか、また他のものを欲しがっているのかしら?)
もっと無茶を言っても大丈夫などと思われても、私には他に作りたい魔導具が山ほどある。呆れの溜息が無意識に漏れ出していた。
「いつもの無茶ぶりなど、些細なことでしょう。それよりもお早い開封をお勧めします」
「出来ればその手紙、見たくないのだけれど。……はあ、仕方ありませんわね。リチャード、手紙には一体なんと書いてありますの……?」
恐る恐る尋ねると、リチャードは慇懃無礼なまでに滑らかな所作で手紙を開いた。
「今回の招待状には、殿下からの直筆でこう追記されておりました。『万障お繰り合わせの上、直ちに参内せよ。さもなくば、君の工房の予算を半分にする』と」
「んなっ……!?」
私の思考回路が、あまりの理不尽さにショートしかける。
(予算半分? 新型の全自動コーヒー機の費用はどうなりますの!? 予算は技術者の血液ですのよ!?)
「『どんな都合も全部ぶっ潰して調整しろ』、という殿下の強い意志を感じますな。……ああ、それからお嬢様。旦那様と若旦那様にも、既に登城命令が下っております」
「お父様とお兄様も!?」
「ええ。『国家一級魔導具師の親子三人が揃わぬのなら、予算削減は確定だ』とのこと。現在、お二方は別の部屋で執事のクロードを筆頭に、物理的に正装をされております。……さあ、お嬢様も観念なさいませ」
脳裏に、あの男の顔が浮かぶ。無駄に整った顔立ちに、澄ました顔つきながら、底意地の悪い鋭利な瞳。
私の顔を見ては「今日もヘンテコな魔道具を魔改良しているのかい?」と軽口を叩いてくる、あの腹腹黒い王子を思い浮かべる。
私は手に持っていたドライバーを、ガシャンと重々しい音を立てて作業台に置く。
「……嫌な予感しかしませんわね」
代わりに、淑女の嗜み(武装)としてドレスの隠しポケットにスパナを忍ばせる。
これが私の受難の日々の幕開けになるとは、この時の私はまだ、知るすべもなかった。
―――――――――
観測記録(Log-001B)
【観測】 5歳時の洗礼式。お嬢様の瞳の鋭さ原因となり、「悪役令嬢」という属性を強制付与。
【分析】 家族からの「愛らしい」という評価と、外部からの「傲慢」という評価の不一致が発生。
【結果】 対人関係の深刻なエラーを検知。以降「引きこもり・魔導オタク」へと変貌。
……お嬢様の観測を、継続します。
【活動報告 / 後書き用】
定期更新:水・金 18時
【※調査団のパトロンになりませんか?】
「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!
作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。
どうかエヴリンたちの物語を応援してください!
ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。
※本作は作者の妄想・パッション・ロマンで構築されています。
多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです。




