【幼少期編】第3話:十四歳、擬態の淑女と平和の翼
新規とリメイクを混ぜた幼少期編。
――リトニア家の令嬢は、少しおかしい。
巷の噂を、私は紅茶のカップを握りしめながら聞き流していた。
十四歳の頃の私。
当時は母の教え通り、「淑女」として振る舞おうと必死だった。
人と話す時は失礼がないか、怖がられないか。擬態のためのシミュレーションを絶えず繰り返していたのです。
「エヴリン様。どうやら庭園の噴水の調子が悪いようでして……」
馴染みのない侍女の声に静かに頷き、私は庭園へ向かった。
(淑女らしく、穏やかに。お母様が仰っていた通りに……)
新米の使用人たちの輪に入り、緊張を誤魔化すよう深く息を吸う。
「――あの、少しよろしいかしら」
声をかけた瞬間、全員の視線がこちらに向く。
空気が強張る。それが分かってしまうから、余計に息苦しい……けれど。
――カチッ、カチ、カチ……
(あ、やっぱりズレてるわ)
不規則に響く音。息詰まりも消え、思考がふと切り替わる。
――構造を解析。原因を特定。修正手順を構築。
下ろしたてのドレスにつく泥跳ねも、周囲のちくりと刺す棘のような視線も、もはやどうでもいい。
「バルブの締め付けが甘いですわ。一体誰がこんな杜撰な管理を……ああ、ここをこうして、この回路を――!」
気づけば噴水は元通りに……いや、以前より高く美しく。
圧力ポンプを強化したそれは、水を勢いよく噴き上げていた。
呆然とする使用人たち。
それを見て、私ははたと我に返る――が、時既に遅し。
(――ああ、またやってしまいましたわ……)
淑女としての「擬態」は、不具合という「現実」の前ではあまりにも脆い。
結局、私はこうして生きるしかないのだという、諦念と自覚に再び胸を詰まらせることとなる。
――そして同年の冬。
私は十四歳という若さで、最年少で『国家一級魔導具師』の座を勝ち取る。
資格を得るために必要だったのは技術だけではない。
評価の後押しとなったのは、私の努力の結晶――制式名称「トッピーちゃん8号式」、通称『ピーちゃん8号』。
国家の厳しい通信規制を、軍事転用不可能な「平和の技術」としてクリアし、事故率ゼロに近い精度を誇る彼女は、今や世界中を飛び回り、人と人を繋ぐ配達員へと進化した。
(彼女は手紙だけでなく、幸運さえも運んでくれる。私の誇りであり、ささやかな祈り)
――リトニア家は、軍事開発には決して加担してはならない。
私たちは「世界を変えてしまう異質な技術」を悪意に取り込ませないよう、王家と「制約」を交わしている。
それが、技術を愛する者が世界を壊さないための一線。
常識であり、信念であり、矜持でもある。
私は「悪役令嬢」という呪いを、自分なりの「仕様」として受け入れ、前を向く。
――そうして私は幾つもの試練を乗り越え、十六歳である現在の私の姿になったのですわ。
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※本作は作者の妄想・パッション・ロマンで構築されています。
多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです。




