【幼少期編】第2話:十歳、存在証明と父との約束
新規とリメイクを混ぜた幼少期編。
工具のカツンと鳴る金属音、蒸気の噴き出すシュッという熱気の音。リトニアの領地では珍しいことではなかった。 人の声よりも私の耳によく馴染む、一つ一つが規則正しく機能を果たす生命音。
音が少し不安定なら調整し、効率が悪ければ回路を引き直す。 それが当たり前の世界。
――十歳の私にとって、家の中ではその「理論」は正当に評価されていたのです。
(やはり、不具合は修正すべきものよね……)
転機は十歳の頃。
その日、珍しく工房に外部の職人たちが入っていた。
――カチ、っ、カチ……
(……あ、音が引っかかっている。ズレてるわね)
僅かに、けれども確実に歪に響く回路の詰まり。その音から、私の脳内に正しい計算式が浮かび上がる。
「あまり表立ってはいけない」という父の言葉を思い出し、一度は視線を逸らす。……けれど。
――ガタン
不具合が目に見える形で現れた瞬間、私の衝動はもう止まらなかった。
「失礼します。……この音が聞こえませんか? そう、ここが原因です。この接続では負荷に耐えられません。――ですから、この回路を並列に組み直すべきです」
一歩踏み込む私の身体。
そして、自然に手が動き続ける。
止まらぬ思考回路、止まらぬ言葉の羅列。
私は周囲の気配が凍りつくのも構わず、本来あるべき姿へと「修正」しようとする。
やがて正解を叩き出した――だが。
「エヴリン。――控えなさい」
父のその一声は静かで、しかし確かに心に波紋を落とした。
「表立ってはいけない」――父の言葉が脳裏に浮かぶ。
善意を止められたのは、これが初めてだった。
「ですが、不具合が――」
「それでもだ。ここでは順序がある。立場がある」
理解はできる。
でも、やっぱり納得はできない。
人の感情はどう直せばいいのか、私にはわからなかった。
――その後、数日、数週間と経ったある夜。
団欒室に姿を現した私に、家族は呆れ混じりの、けれど親愛のこもった眼差しを向ける。
「遅かったわね、エヴリン。また時間に遅れて……もう、お父様と同じ言い訳をしないの」
お母様の言葉に、お姉様たちがくすくすと笑う。
お兄様は技術書から目を上げ、私の肩に乗る自作の魔導具「ピィちゃん4号」を「努力の証だ」と褒めてくれた。
そして私は、奥に座るお父様の前に立つ。
緊張でスカートをぎゅっと握りしめる。
父は私を、一人の技術者として見てくれていると、そう信じていたから。
「お父様。私、『魔導具師』の国家資格を受けたいのです」
今のままでは、開発現場では「お手伝い」しかできない。
――私は、誰かの補助で終わりたくはない。
「私が私として生きていくために必要な、『存在証明』なのです」
青い羽を持つこの鳥に生命はない。
けれど、私という技術者ならば、いつか核と呼応する魂を見つけ出せるかもしれない。
「魔導具は私の存在証明であり、唯一無二の、最強の武器であり盾になると信じています」
沈黙の後、父は「ピィちゃん4号」を手に取り、検分し、ふっと笑みを零した。
そこには技術者ではなく、一人の父親としての顔があった。
「立派になったな、エヴリン。期待しているよ」
不器用で無骨な、温かい手が慈しむように私の頭を撫でる。
私は父の足にしがみつき、堪えきれずに半べそをかいた。
――決意の日。
この日から私は、自身の矜持と価値を証明すべく、孤独な戦いを開始したのです。
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※本作は作者の妄想・パッション・ロマンで構築されています。
多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです。




