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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!~国家一級魔導具師のお仕事トラブルコメディ~  作者: 雪見もち子


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【幼少期編】第2話:十歳、存在証明と父との約束

私たちのように魔術回路を持たない人でも扱えるようにと、先人の技術者たちは考えた。


先人たちは魔力や魔術を研究し、魔術師だけの力ではなく、誰もが利用できる技術へと発展させてきた。そうして生まれたのが、魔導工学と魔導具である。



蒸気の噴き出すシュッという熱気の煙が立ち込める、我が家の工房。


人の言葉よりも、私の耳に馴染むのは金属音だった。


一つ一つが規則正しく機能を果たす、魔導回路から鳴る生命の音。


効率が悪ければ調整し、音が少し不安定なら回路を調律するのが当たり前の世界。


十歳の私にとって、家の中ではその「理論ただしさ」は正当に評価されていた。


――転機は十歳の頃。


その日、珍しく工房に外部の職人たちが入っていた。


――カチ、っ、カチ……


(……あ、魔導回路の音が引っかかっている。ズレてるわね)


ほんの僅かな違和感。けれども確実に、その音を私の耳は拾い、歪に響いていた。


魔導回路の詰まりの音。その異音から、私の脳内に正しい計算式が浮かび上がる。


そして、ポーチの中に入れた工具へと向かい、動き出す私の指先。


けれど、不意に父のある言葉を思い出し、一度は動きを止める。……けれど。


――ガタン


不具合が現れた瞬間、私の衝動はもう止まらなかった。


「失礼します。……この音が聞こえませんか? そう、ここが原因です。この接続では負荷に耐えられません。――ですから、この回路を並列に組み直すべきです」


一歩踏み込む私の身体。


そして、自然に手が動き続けていた。


止まらぬ思考回路。


止まらぬ数式と言葉の羅列。


私は周囲の気配が凍りつくのも構わず、本来あるべき姿へと「修正」しようとする。


やがて、不具合を直し、私なりの正解を叩き出した。


――だが。


「エヴリン。控えなさい」


父の一声が工房に響いた。


それは静かで、しかし私の心に波紋を落とした。


視線が交わされる。その瞳を見つめ、私は思い出す。


「表立ってはいけない」――父の言葉が浮かんだ。


こうして行動を止められたのは、初めての事だった。けれども私は、父に向かって言葉を告げる。


「ですが、不具合が――」


「それでもだ。……ここでは順序がある。そして、立場がある」


場所ごとのルールは理解はできる。


でも、やっぱり心の中では納得ができない。


他人と私の感情のズレは、どう直せばいいのか、私にはわからなかった。





――それから数週間後の、ある日の夜。


夕食の時間をとうに過ぎた頃、私は慌てて食事をとった。その後に私は家族との時間を過ごすため、団欒室に入って行った。


この頃の私は一日中工房に篭りっきりであった。気まずげな表情の私に、家族は呆れ混じりの、けれど親愛のこもった眼差しを向ける。


「遅かったわね、エヴリン。また遅くまで工房に篭っていたのでしょう?」


「ちょっと手が止められなかったんですもの。……けれど、キリのいいところで切り上げて来ましたわ」


「……もう、お父様と同じ言い訳をしないの」


私の言い訳の言葉に、お母様の溜息が零される。気まずさについ視線を逸らした。するとその先に映るのは、暖炉近くのソファに座っていたお姉様たちの姿。


柔らかな囁き声でくすくすと笑うのがひっそりと聞こえ、ますます顔を苦くする。そして、お姉様たちの向かいに腰掛けていたお兄様が技術書から目を上げ、目が合った。


「まあ、エヴリンのそういう所はすぐには変わるものではありませんから」


「でもね、そう言って甘やかしてばかりはいられないわ」


「その気持ちはよく分かりますが、最近はちゃんと夕食を食べるようになったじゃないですか」


助けを求める私の縋る視線に気づいたのか、兄からの援護の言葉が母に向けられる。私はほっと一息吐いて、半歩だけ下がる。


(今はちょっとだけ、お母様のお相手を頼みましょう……)


そして、私の肩に乗る自作の魔導具、「ピィちゃん4号」をそっと指先で撫でた。


これは私が暫く工房に篭りっきりだった理由。これは私が制作した伝書鳩の魔導具だった。


(それに、今言わなくては決心が揺らぎそうですもの)


兄に「努力の証だ」と褒めてもらえた、私なりの成果。私は肩に止まるこの子を伴い、奥に座るお父様の前に歩みを進めた。



父の前に立つ。手元の回路図から私の方へと視線を向けられた。


「どうした、エヴリン」


「……お話が、あります」


緊張でスカートをぎゅっと握りしめる。


それでも、どうしても今、伝えたい思いがあった。


父は私を、一人の技術者わたしとして見てくれていると、そう信じていたから。


一つ、呼吸を置いて、私は口を静かに開く。


「お父様。私、『魔導具師まどうぐし』の国家資格を受けたいのです」


今のままでは、開発現場では「手伝い」の範疇でしか作業に加われない。けれど――私は、誰かの補助オプションで終わりたくはない。


だから、私は一人の技術者として、資格を手にしたかった。


「私が私として生きていくために必要な、『存在証明』なのです」


――ピュイ。


肩に乗る小鳥が小さく鳴いた。この青い羽を持つ鳥に生命はない。


それでも私は、いつかこの子を本当の意味で生かせる日が来ると信じていた。


「魔導具は私の存在証明です」


前を向き、胸を張る。


「そして、私を守る唯一無二の武器であり、盾になると信じています」


私が言葉を告げた、その後。無言が場を支配した。


互いに動きも止め、見つめ合う私と父。


しかし、その空気を動かすように、父が私の肩に手を伸ばした。


そして、「ピィちゃん4号」を手に乗せ検分する。


「……」


誰もが口を閉ざし、私たちの様子を窺う。


緊張で速まる私の鼓動。


そして、検分を終えた父は、ふっと笑みを零した。


そこには技術者ではなく、一人の父親としての顔があった。


「立派になったな、エヴリン。期待している」


不器用で無骨な、温かい手が慈しむように私の頭を撫でる。


「おとう、さま……ありがとう、ございます……っ!」


私は父の足にしがみつき、堪えきれずに半べそをかいた。


これが私が決意を告げた日――。


こうして私は自身の矜持と価値を証明すべく、国家資格を目指したのです。


【活動報告 / 後書き用】

定期更新:水・金 18時


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作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。

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ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


※本作は作者の妄想・パッション・ロマンで構築されています。

多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです。

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