【幼少期編】第1話:五歳、悪役令嬢の定義と再定義
新規とリメイクを混ぜた幼少期編。
洗礼式の儀が行われるために、五歳の私は王都の地へと降り立った。
レンガや石造りの建物が整然と並び、白亜を彩る小ぶりな花々。緑に溢れた、優美で洗練された街並み。――そんな季節の頃。
あの頃の私は、鉄と煙の立ち込める雑然としたリトニア領の辺境とは、まるで違うその光景に圧倒されていた。
少女らしく、レースたっぷりな愛らしくも清廉な白いドレス。品格も格式もある一般的な正装。
しかし、気の強そうな顔立ちにはどうにも不格好で、家族の褒める言葉も幼い耳には素通りしていく。
片田舎で育ったが故に交流が絶望的に少なかったこと、人見知りな性格も相まり、不安と緊張で顔は強張る。
それを表に出さぬよう、小さな両手をきゅっと握るだけ。
母との練習通りに出ない言葉。
しっかりしなければと焦るほどに、目つきは鋭さを増し、口元は硬くなる。――そんな幼少期。
「睨んでるのか? な、なんだよ、その生意気な目付き……!」
「あら、意地の悪い顔ですこと……怒っているの? やだ、怖い」
「あなた、まるで――悪役令嬢みたいだわ」
――悪役令嬢……?
(生意気な目? お母様は、愛らしいと微笑んでくださったわ)
(意地の悪い顔? お父様は、素敵だと言ってくれたわ)
ぐちゃぐちゃの脳内と言葉、感情……混乱する心。
(どちらが嘘で、どちらが本当なの?)
柔らかな心に突き刺さったまま、傷がじくじくと痛んだ。
ーーあれから数年。九歳になった私は、ずっとあの疑問に囚われていた。
何度も繰り返した言葉たち。
そして、不意に訪れた――再定義。
――カチリ。
ピースの嵌まった音が、脳内に響く。
(他人の評価なんて、私の前においては存在価値はない)
作業台の上に置いた飴玉を口に含み、子供らしからぬ自嘲じみた笑みを浮かべる。
「理に適っていない……ああ、そっか。どっちも不正解で、どっちも正解……そういうことなんだわ」
不具合があれば、修正する。ただ、それだけの話だ。
人は感情で動く。曖昧な判断をする。空気で物事を決める。
それは理解している、でも――
(不具合を心で隠す方が、よほど不自然だと思うのだけれど……)
そんな単純明快なものではないと、当時の私には理解ができなかった。
最初は、相手のためを思っての助言だった。
けれど返ってくるのは曖昧な反応。
「ここ、少し歪んでいるので直しますね。あ、それと、ここはこうした方が効率が――」
「あの子、ちょっと怖かったよな」
「なんか圧があってさ」
理解はできる。けれど、納得はできない。
心というものは、もどかしく、私の『理屈』を大いに掻き乱した。
――そして私は一人、油の染みた最新の魔力回路図と、令嬢のマナーより役立つ接点復活剤が溢れる工房へと、深く潜っていくことになったのです。
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