第3話:国家予算という名の甘い蜜①
3話長すぎたので分割しました。
内容は変更ありません。
(R8.4.17)
王宮の離れには春の訪れを告げる庭園。
優しい新緑の豊かな香りが漂う落ち着いた空間。どこか親しみを感じさせつつも高潔さを失わない、計算し尽くされた美がそこにはある。
整えられた庭園に囲まれたゲストハウスの中には、外の穏やかさとは裏腹に、ピリッと肌を刺すような気配と緊張感に溢れていた。
ゲストハウスの中には五人。私たち家族と、対面するのは二人の若き指導者。
重厚なソファに腰を下ろしているのは、次期国王たる王太子アルフレート殿下。
眉目秀麗にして、負の感情すら断ち切る才覚の持ち主。かつて第一王子と呼ばれた少年の頃、
国政を根底から覆す斬新な施策を成功させ、圧巻の実力で群衆の口を沈黙させた実力者。
「我が国の光」は今日も優雅な相貌に笑みを浮かべた。
(今日も完璧な理想の王子様像……っていう見事な『仮面』を被っておりますわね。
他国からも神々しいとまで言われるブロンドに、計算されたその笑顔。
あの仮面の裏では、一体何を考えているのか、私の理屈では到底計り知れないわ……。
いつもの魔道具おねだり?ただの嫌がらせじみた無茶振り?それとも、他に何か企みが……?)
その隣で、春の陽だまりのような微笑を浮かべるのは王太子妃フローラ様。
公爵令嬢としての気品と、すべてを包み込むような慈愛を湛えた彼女は、
誰もが夢見る理想の女性像と言えるだろう。
それほどに彼女は意識をし自身の美貌も名声も築き上げてきた努力がある。
(透き通る白い肌に、ピンクブロンド……少女時代なら迷わず浮かんでくる、お姫様のようなお方。
普通に話す分にはお淑やかなご令嬢……だ
けれど、会話の節々からは、本来の彼女らしい聡明さが光るのよね。
そう考えるとあの王子には、確かにピッタリだわ)
事実、社交界では「内政のアルフレート」、「外政のフローラ」とまで謳われている。
国内の古いしがらみを一掃した王太子と、そんな彼に寄り添う次期王太子妃。
内側では熾烈な饒舌を、外側からは冷徹な交渉を、そうして二人がまとめ上げる。
公私共に隙のない存在、アステリア共和国での最強の番だ。
そんな二人の対面には、「国家一級魔導具師」とう肩書きを持つ子爵家である私たち。
比べてしまえば使い捨ての消耗品である魔石と、高品質で長く使える巨額な高位者が持つに相応しい魔石。雲泥の差があるのは歴然だ。
ーーカチリ
アルフレート殿下が手にしたティーカップを受け皿に置く小さな音。その音はまるで精密な時計の歯車が噛み合った合図のように正確さを表していた。私の鼓膜に響く正常を示す音。
「……さて、リトニア卿、ヴィンセント、そして……エヴリン嬢。君達を呼んだのは他でもない。
『国家一級魔導具師』としての、腕を見込んでのことだ」
殿下は、標的の構造を解析するかのような、鋭い眼差しを私に向けた。
「エヴリン嬢、君も知っているだろうが、旧世代では『出力信仰』が強く根付いていた。
それを私が廃し、実力による資格制度を敷いた。
……こうして魔力数値の多寡が、人間の価値を決める時代は終わりを告げた」
殿下の言葉に、私は頷く。 かつては出力7以上の『英雄級』が崇められ、出力4以下の『技師級』は無能と切り捨てられた忌まわしき古き制度だが、今や魔力はただの「個人の適性」だ。
(回路を持たない私たちが、知恵と執念で『奇跡』を再現するために組み上げた外付けの代用品
――それこそが、私の愛する魔導具。殿下は、それを国家の基盤に据えたのだわ)
「あの日、保守的な貴族共はこう言った。『魔力4の無能に何ができる』と。
……それを黙らせたのは、君のような変人がもぎ取った一級の称号だ。
私の『法律』を、君の『技術』が証明したのだよ」
(出たわね、王子の殺し文句! 恩を売りつつ、自分の正しさを補強するために、
私を使い倒そうとするその傲慢さ……やっぱり、気に入らないですわ!!)
「……恐れ入りますわ、殿下。私が今こうして、平穏に……ええ、
『平穏かつ平凡に』過ごせておりますのも、全ては殿下の、『合理的で冷徹な』改革のおかげですもの」
「皮肉が上手くなったな、エヴリン嬢」
腹黒王子の隣で、フローラ様が楽しそうに扇で口元を隠した。その瞳は、私のポケットから覗く、スパナの光を確実に見抜いている。
それを指先でそっと隠したが、時すでに遅しだろう。
彼女の目元が私に、悪戯な色を向けたのを感じた。
「……さて、前置きはこの程度にして。……実は君たち一家に、『特命』があってね」
アルフレート殿下は組んだ指の上に顎を乗せ、楽しげに目を細めた。
ーーいつもの無茶振り前の、典型的なポーズだ。
「目的地は、北の果て。不落の要塞のさらに深層……。
君たちが『古代都市のシギル』と呼んでいる、あの周辺。
そこには失われた超古代技術の結晶、『古代魔導人形』の部品が眠っている”らしい”という、
不確定ながら、有力者による情報が入った」
『古代魔導人形』。
その名を聞いた父が眉をひそめて繰り返した。
「殿下、失礼ながら……。シギルは我が国でも幾度となく調査隊を派遣した場所です。空振りの代名詞のような石の廃墟。歴代の専門家が見逃したものを、我々に見つけろとおっしゃるのですか?」
「その通りだ、リトニア卿。……専門家は教科書通りのものしか探さないからね。だが、陛下が仰るには、
――君達の何代目かのご先祖様が、どこぞの遺跡で拾ってきた、『正体不明の金属塊』があるそうじゃないか。
今は先代夫妻が『手頃な漬物石』として重宝しているソレのことだよ」
その瞬間、私の思考は現実から強制遮断した。
(……待って。今、殿下の口からとんでもない、冒涜が、聞こえてきませんでしたこと!?)
脳内では、殿下の言葉から導き出された、最悪の光景が鮮明に再生される。
実家の地下倉庫、薄暗い隅っこで、あろうことかその『伝説の遺物』を、何かの樽をねじ伏せる重しにしている姿が。
(おじい様……! あんな構造の次元が違うオーパーツを、よりによって『漬物石』に使っていらっしゃいましたの!? 確かに重さは丁度いいでしょうけど、用途が違いすぎますわよ!!)
表情筋の制御が限界を迎え、口端がピクピクと吊り上がる。
ショックと興奮で想定外の現実に私は酷く混乱していた。
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観測記録:(Log-003A)
【観測】 王太子の「特命」により、実家の地下に眠る「漬物石」が超古代の遺物であると発覚。
【分析】 歴史的オーパーツを樽の重石にしていた先代への批判と、技術者の興奮が脳内でショート(短絡)。
【結果】 淑女としての仮面が剥がれかけ、思考回路が現実から強制遮断。
本日も安定のオーバークロックを記録。……観測を継続。
【活動報告 / 後書き用】
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




