第3話:国家予算という名の甘い蜜①
3話長すぎたので分割しました。
内容は変更ありません。
(R8.4.17)
王宮の離れには春の訪れを告げる庭園。
優しい新緑の豊かな香りが漂う落ち着いた空間。どこか親しみを感じさせつつも高潔さを失わない、計算し尽くされた美がそこにはある。
穏やかながらに整えられた庭園に囲まれたゲストハウス。その中に、二人の若き指導者と、私たち一家の五人が揃っていた。
◇
(久々に来ますけれど、やっぱり空気が違いますわね……)
ピリッと肌を刺すような気配と緊張感に、私は思わず固唾を飲む。
父に対面するようにソファに腰掛けているのが、次期国王たる王太子アルフレート殿下。
(「我が国の光」……今日も理想を詰めた、完璧な『仮面』を被っていますわね)
斬新な施策を次々と成功させ、国内の古いしがらみを一掃してきた実力者。その一方で、口達者で悉く私たち一家を振り回す、無茶振り王子でもあった。
その隣にいる柔らかな印象を与えるピンクブロンドの髪を持つ女性が、王太子妃フローラ様。
公爵令嬢としての品格を備えながら、交渉では一歩も引かない彼女は、社交界では「外政のフローラ」とまで謳われている。
(……そう考えると、あの王子には確かにピッタリだわ)
そんな二人の対面には、『国家一級魔導具師』の肩書きを持つ、私たちリトニア家がいる。
(粗悪な魔石と、高品質な魔石……。私たちと比べようがない程の雲泥の差。……粗相は出来ませんわ)
――カチャリ。
アルフレート殿下が手にしたティーカップを受け皿に置いた。その音はまるで精密な時計の歯車が噛み合った、正常を示す音。
「……さて、リトニア卿、ヴィンセント、そして……エヴリン嬢。君達を呼んだのは他でもない。『国家一級魔導具師』としての、腕を見込んでのことだ」
殿下は一人一人と言葉順に視線を向けていく。そして、私と目が合うと殿下の口元が僅かに上がった。
「君も知っているだろうが、旧世代では『出力信仰』が強く根付いていた。……魔力数値の多寡が、人間の価値を決める時代は終わった」
(……出ましたわね。殿下のいつもの本題前の前置きですわ)
かつては魔力の出力だけで、人の価値まで決められていた。
けれど、今や魔力はただの『個人の適性』だ。
「あの日、保守的な貴族共はこう言った。『魔力4の無能に何ができる』と。……それを黙らせたのは、君のような変人がもぎ取った一級の称号だ」
変人の言葉に、私の口端が引き攣りかけた。
「私たちの『法律』を、君の『技術』が証明したのだよ」
(そう言っておけば私の気分が上がるとでもお思いで?……良いですわ、私とてもう16歳の淑女。いつものように簡単にはやり込められませんわよ!)
「……恐れ入りますわ、殿下。私が今こうして、平穏に……ええ、『平穏かつ平凡に』過ごせておりますのも、全ては殿下の、『合理的で冷徹な』改革のおかげですもの」
「皮肉が上手くなったな、エヴリン嬢」
(ふう、今回は上手く言い返せたわ!私だってやれば出来る子とよく言われますもの!)
淑女教育をしてくれた母に胸の中で感謝を告げながら、一度肩の力を抜く。
すると、殿下の隣でフローラ様がすっと扇で口元を隠した。だが、彼女の瞳には、悪戯な色が浮かんでいた。
(な、何ですの……?)
恐る恐る私は彼女を観察するようにそっと伺う。
すると、彼女の視線の先。それは私の顔ではなく、私のドレスの隠しポケット部分。そこから覗く、スパナの光を確実に見抜いていた。
(!しまった、座った時にスパナがズレてましたわ!)
即座に私は飛び出していたスパナを仕舞い込む。それを見ていたフローラ様は、ただ楽しげに笑みを見せるだけ。
私はいつ彼女に指摘されるかと内心冷や汗を流した。その時、丁度良く殿下が口を開いた。
「……さて、前置きはこの程度にして。……実は君たち一家に、『特命』があってね」
アルフレート殿下は組んだ指の上に顎を乗せ、楽しげに目を細めた。
――無茶振り前の、典型的なポーズだ。
「目的地は、北の果て。不落の要塞のさらに深層……。君たちが『古代都市のシギル』と呼んでいる、あの周辺」
聞き覚えのある地名。王太子殿下は言葉を続けた。
「そこには失われた超古代技術の結晶。『古代魔導人形』の部品が眠っている”らしい”という、不確定ながら有力者による情報が入った」
『古代魔導人形』。その名に父が眉をひそめた。
「殿下、失礼ながら……」
父が声を静かに上げると、殿下は続きを促すように一つ頷く。
「シギルは我が国でも幾度となく調査隊を派遣した場所です。歴代の専門家が見逃したものを、我々に見つけろとおっしゃるのですか……?」
私も同じ疑問を抱いていた。ちらりと殿下を見ると、彼はその反応を当然だと受け止めていたように澱みなく答える。
「専門家は教科書通りのものしか探さないからね、君たちのような技術者視点からの調査というのも必要だと我々は判断した」
(けれど、それだけが決め手というには些か弱い気がしますわ……)
私は殿下の言葉にどこかモヤモヤとしたものを抱える。その表情が分かりやすかったのか、殿下は私を一瞥し小さく笑うと、更に言葉を続けた。
「それに、陛下が仰るには――君達のご先祖様が『正体不明の金属塊』を拾っていたそうじゃないか」
(そんなもの、我が家にありましたの……? それが今の話と何の関係が……?)
私は怪訝に思いながら、静かに待つ。
「今は先代夫妻が『手頃な漬物石』として重宝している『金属の塊』。なんでもそれは、古代遺物に関係があるものらしいじゃないか」
その瞬間。
――ブツン。
私の思考は現実から強制遮断した。
(……待って。今、殿下の口からとんでもない、冒涜が聞こえてきませんでしたこと!? 古代遺物に関係する金属を、漬物石ですって?)
脳内では、殿下の言葉から導き出された最悪の光景が鮮明に再生される。
実家の薄暗い地下倉庫の隅で、『伝説の遺物』が漬物樽の重しとして鎮座している痛ましい姿――。
表情筋が限界を迎え、口端がピクピクと吊り上がる。
(おじい様……! まさか、貴重なオーパーツを『漬物石』に使っていらっしゃいましたの!?いくらなんでも用途が違いすぎますわっ!!)
ショックと興奮で想定外の現実に私は酷く混乱していた。
――――――――――――
ノアの観測記録:(Log-003A)
【観測】: 王太子の発言により、実家の地下に眠る「漬物石」が古代の遺物である可能性が浮上。
【分析】: 歴史的オーパーツを樽の重石にしていた先代様への批判と、技術者の興奮が脳内でショート(短絡)。
【結果】: 淑女としての仮面が剥がれかけ、思考回路が現実から強制遮断。
……本日も安定のオーバークロックを記録。観測を継続します。
【活動報告 / 後書き用】
定期更新日は水・金の18時です。
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




