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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!~国家一級魔導具師のお仕事トラブルコメディ~  作者: 雪見もち子


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第34話:予算報告と母の審判

リトニア家の執務室。



ーーコンコンコン



「奥様、お嬢様が王城より帰還されました」



扉の前、私は緊張の面持ちで、指に力を入れ両手を握り締める。



「あら、帰ってきたのね。今通しても大丈夫よ。エヴリン、入ってきなさい」



カトレアにより扉が開かれ、一歩、執務室へと足を踏み入れた。



「お母様……ただいま戻りました」



私は帰宅後、旅の疲れを癒す間もなくお母様のいる執務室へ訪問した。



(ここで逃げたらいつまで経っても、変わりませんわ……それに今回は預かりものもありますし。

……でも、お父様ったら、先日の開発費でお母様にこってり絞られたからって、私に預けなくても良いですのに)


やや不満に思いながらも、オリーブの命名式の後に、お父様がお母様へフォローを多大に入れていくれたのだとお兄様から聞いた。それを聞いてしまえば私とて文句は言えまい。



「お帰りなさい、エヴリン。それで、王家からはどのような判断が下されたのかしら」



「こちらの書簡に入っています……」



リチャードに渡し、お母様がその書簡を無言で読んでいくのを、私は促されたソファに大人しく着席した。

カチカチカチ……壁にかけられた秒針の音と、紙を捲る音が静寂の中で異様に引き立つ。その間、私は膝の上で組んだ手を握りお母様の判断を待つ。



数秒……数分……刻々と過ぎて行く静かな時間。

調査団の継続と、お母様の判断の先に来る言葉に気まずさを感じ、軽く顎を引く。


ーートン。


書簡をテーブルへと置く音が不意に響く。音に跳ねる私の肩。

最後の一文を読んだお母様が顔を上げ、ふと小さな、けれど重々しい溜息を静かに零した。



「……内容は良くわかりました。本来ならこんな危険な調査、継続させたくはないのだけれど……王命ではどうしようもないわね」



机の上に書状を置き、空いた手でカップをそっと持ち上げる。乾いた喉を潤したお母様は一息つくと、私へと真っ直ぐに視線を向けた。



「バックアップは私が引き受けます。貴女は……徹底的にやりなさい」



私を見つめる意志の強い瞳。

怖気付く心を奮い立たせる母の芯の通る声に背を押され、私は令嬢としての矜持を見せるよう、恭しく会釈を返す。



「お母様……承知しましたわ。この私、エヴリン・リトニアが、引き続き現場監督ーーいえ、責任者としてきちんと率いて見せますわ」



交差することのない視線。互いの変わらぬ姿勢。

やがて、「顔を上げなさい」と告げる母の許しに、私は顔を静かにあげた。



続く沈黙。

見つめ合う私たち。



不意に浮かんだ観念混じりの母の笑みに、緊張が解け肩の荷を下ろす。



(や、やりきりましたわ……!いつもなら逃げ出すか、言い訳を繰り返すばかり……いえ、言い訳ではなくあれはあれで正当な言い分でしたけれども!)



しかし、間もなく再びお母様の口が開かれた。



「それでは今回の旅の支出だけれど」



「はっ、はいっ……」



「今回限り、リトニア号の修理費と、レオンの破損した武器代については王家側から補填するとの事でした」



「!それは……調査に関わったから、という事でしょうか?」



「古代ゴーレムと特務ゴーレムの討伐報奨、といった所で手打ちになったわ。特にレオンの武器代は新調するならかなり高額になるものだから、そこの費用に宛てて、ちょうどと言った所かしら」



「では、赤字というのは……」



「その他の武器や装備の消耗品。そして、貴女の魔道具の改造費、あと馬車内に無駄に詰め込んだネジや工具の数々……それ故に食料不足となり、フェリクスや辺境伯寮の騎士団や冒険者を動かした事に対する人件費が大きいわね」



「ぐっ、……誠に、申し訳ございませんでした……っ」



「……初めての旅で、こうなる事は予想外ではなかったのだけれど、節度と冷静な判断力がなければこの先厳しいことになるわ。だから、エヴリン、貴方の開発費を一時私が預かります」



「!?そ、それでは自由に使える研究費は……!」



「もちろん、私の許可もなく引き出そうとしても無理よ。」



「そんなぁ!!」



「……あら、予算管理者としての私の判断にどこか不備があって?」



にこり、母の完璧な微笑みが向けられる、瞳だけは凍ったまま。私はその温度に気付き慌てて、ブンブンと頭を横に振り大人しく続く不満を飲み込んだ。



「それじゃあ部屋に戻って良いわよ。……カトレア、エヴリンを連れて行って頂戴、そしてよく休ませるようにね」


扉の向こうで控えていたカトレアがリチャードに迎えられ、私の傍へ寄ってくる。

そして、「今は退くべきだ」と視線で促され、内心は渋々ながら促されるままに執務室から出て行く。


(こうなったら、とことん個人資産を増やしますわよ!!)


静かに闘志を燃やしながら、私室へと戻る。

だが、そんな私の背後では、カトレアが生温い視線で見つめていたのは最後まで気づかなかった。


―――――――――


ノアの観測記録:(Log-034)


【観測】:リトニア家による調査計画、正式承認。


【確認】:奥様からのバックアップ体制を得られる事となりました。


【報告】:開発予算が一時凍結した結果、精神的に損傷を受けた模様。


……お嬢様の思考は、侍女にはお見通しのようです。

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