↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!~国家一級魔導具師のお仕事トラブルコメディ~  作者: 雪見もち子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/70

第30:束の間の安息②

散々泣いて、気持ちが落ち着いてきた頃。


「奥様、お嬢様の湯浴みの支度が整いました」


「いいタイミングね、カトレア。ご苦労様」


辺りを見渡せば、普段はお母様の傍に控える家令のリチャードが姿を消していた。

それ所か、他の使用人や、男性陣の護衛たちの姿もなく、今この場に居るのは、私たち三人だけ。


「私はこの後クロードたちと支出について、執務室に籠るから。夕食も部屋に運ぶよう、他の子に伝えておいてくれる?」


恭しく頭を垂れ、「承知しました」と短く告げるカトレアに、私はそっと背を撫でられ名残惜しくもお母様から離れる。


「ひとまず、今はゆっくり休みなさい。後のことは、旅の疲れを癒してからでいいわ」


私は腫れぼったい瞼を隠すことも無く、お母様の慈愛に促され、カトレアに付き添われつつ私室に逃げ込んだ。



ーーカモミールの香りが漂う、浴室。


「……ああ、極楽ですわ……」


カトレアにより身を清められ、あとは疲れを癒すだけだと、一人穏やかな時間を過ごす。


調合されたポーションと、アロマの香りがする湯船の中。ここ半月ほどの出来事を静かに振り返る。 けれどーー。


(……思い返せば、まともな瞬間なんて一秒もありませんでしたわね。)


(そもそも家を出る前からおかしかったのですわ。家宝のカメオがまさかの魔導具で、しかも掘削用ドリルって……いえ、元を辿るとリトニア家の初代様は掘削人でしたわね。)


(……けれど、その魔導具が呪いのような仕様になるのは、おかしくないかしら?強制縦ロール化現象に、ご先祖さま達の声援という公害テロ……)


(それに、出発時点のデスドライブからして、出力がバグでしたし。方向性が物騒すぎますわ。お陰で私の令嬢人生は終わりかけましたし……)


(更に、古代遺跡では低予算なトリックアートに、不発のトラップ。……黒歴史の人間ハンマーも披露する羽目になるし、RE:ポーションDで淑女としての矜恃は粉砕……)


(直近に至っては、赤っ恥を欠かされ……周囲だけでなく、私への被害デバッグも大きすぎましたわ……)


心も溶けそうになるほどに心地の良いお湯。

けれど、思い出すのは一人の女の子としての矜持。


「ああ!もう!考え事は一旦ストップですわ!まずは、このお湯でゆっくりと心を癒すのが一番の癒しですわね」


私は温かいお湯に全身を委ね、旅の汚れと共に、羞恥心と黒歴史の一部を排水溝へと流した。



ーー食卓の場。


夕食は、お兄様やお父様も交えた、和やかなリトニア家の団欒となった。


「無事でよかった」


お父様から告げられたのは、たったの一言。


「また魔道具や周囲の建物を爆発させなかったか?」


そしてお兄様からは私の身を心配する心よりも真っ先に、周囲への被害状況を確認するという斜め上の発言。


だが、二人からは心配混じりの家族としての温かみを感じらせる、目をしていた。


「お父様には大変ご心配をおかけしましたわ。そして、お兄様……泣くのはおやめ下さいまし!男前な顔が台無しですわよ?」


冗談混じりに私が言葉を返せば、久方ぶりに顔を合わせた二人はようやく安堵の息を溢した。


私は旅の道中には出なかった家庭料理に舌鼓を打つ。食後の紅茶を飲みながら、ようやく平穏を取り戻していた。


ーーだが、その平穏は、一人の老人の登場によって再び粉砕される。


「……エヴリンよ。帰ってきて早々で済まぬが……ちょいと良いかの?」


現れたのは、おじい様であった。


帰還後の挨拶もそこそこに、おじい様の顔つきはいつもの柔らかな顔ではなく、技術者としての色を漂わせた表情。


そして、手には古びた分厚い魔導書が一冊握られていた。


「……地下の工房に来てくれるか? お前が持ち帰った『あれ』について、見せたいものがある」


おじい様の隣には、ノアが既に静かに控えていた。


いつぞやの光景と同じ二人の姿。


私は既視感を覚えながら、嫌な予感につい表情を強張らせてしまう。


「……お嬢様。……準備はよろしいですか? もしかすると、さらに理解不能な領域へと足を踏み入れる事になりますが」


私はおじい様の眼光と、ノアの不穏な言葉に、再び背筋が凍るのを感じた。


「……やっと落ち着いたと思ったのですけれど、事情が有りそうですし仕方ないですわね」


飲み干したばかりのティーカップを静かに置き、小さく頷く。


(……安息タイム、強制終了ですわーーーッ!!)


覚悟を決めて地下工房へと続く、暗く冷たい階段を下りていくのだった。



ーーーーーーーー

ノアの観測記録(Log-030B)

【観測】 お嬢様のバイタルチェック、および精神的デフラグ(入浴)を確認。


【分析】しかし、リトニア家の血脈が「平穏」を許容する時間は、紅茶一杯分(約15分)が限界値。


【結論】 乙女の安息モードを強制終了し、「解析モード」へ移行。



……お嬢様の背筋の凍結を確認。解析を開始します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。