第28話:ネギと霜降り肉のち、羞大成②
フェリクスは右手のネギをマイクのように突き出した。
見守る群衆、固唾を飲む私。
そして、左手の(半値まで値引いた)高級肉を魔道保冷袋で大事に抱えながら、軽快なビートに乗り始めた。
「リトニア家の料理人が1人! フェリクス様と、この低音担当のカイル君が相手になってやんよ。3人まとめてかかってきな!」
「……だから、俺を巻き込むな……」
山盛りの食材による荷物の隙間から、カイルが死んだ魚のような目で項垂れる。だが、それを意にもせず、フェリクスがカイルの前に立ち、三人衆に立ち塞がる。
商店が立ち並ぶジャンク通りに対面する二人と三人衆。
ーー緊迫した空気。
両者、顔を見合わせると、フェリクスが口端を上げ、マイクを構えた。
熾烈なる戦いが、今この時をもって始まった。
「Yo, Yo. 右手にネギ、左手に肉 お前ら三下、言葉が退屈 リトニアの家計、支える俺様 ハイスペ料理人、拝めよ神様!」
流れる音に合わせリズムを刻む。
「ぐっ……!」
対峙する一番背の低い男が後ずさった。
その機を逃すまいと、フェリクスは目を細め、さらに言葉を畳みかけた。
「荷物持ちのカイル、絶望の低音 お前のライムじゃ、届かねぇスペース 予算の赤字も、ドリルで粉砕 まとめてかかって、来なよ犯罪!」
「うっ、うぐ……(重い……帰りたい……)」
指を相手に差し向けるフェリクス。
カイルの限界ギリギリの呻き声。
最高に「重い」低音としてフェリクスのラップを補完する。
「「「ぐあああ!!」」」
三人衆は圧倒的な二人のリリックにより大ダメージを受け、地に膝を着く。
「うっ、なんて重低音……いや、ベースラインなんだ…」
目には見えぬ、体力ゲージがガリガリと音を立て削っていった。
「くっ、そっちの兄ちゃんもやるじゃねーか」
「は????」
混乱する真顔のカイル。
満身創痍な三人衆。
湧き出す群衆の歓声。
誰もがフェリクスの完璧なラップに圧倒されかけたーーその時。
我慢の限界を迎えたエヴリンが、彼らの間に現れた。
ーーザザッ!
「……私を無視して勝手に人の家の予算がどうとか、赤っ恥晒して……冗談じゃありませんわよーーーっ!!」
魂からの反撃の咆哮を上げ、フェリクスたちの前へと躍り出たエヴリンは地団駄を踏む。
「いや、だから俺がこいつらに反撃をーー」
呆れ声のフェリクスはエヴリンを後方に下げるべく前へと一歩踏み出した。しかし、エヴリンは片手を横に出し、近づく彼を静止した。
「フェリクス……貴方の気持ちはありがたいですわ。けれど……喧嘩を売られた当人の私がここで指を加えて見てる訳にはいきませんわ!!」
燃え上がる闘志。
固まるフェリクスを含む護衛たち。
そしてーーエヴリンは鋭い視線を三人衆へと向け、マイクを構えた。
「私のドリルは……っ! 未来を! 穿つ!!(※ここで2拍ズレる)
予算の赤字も……言葉で、穿ちますわ!!(※半音下がる)
型落ちジャンクで、世界を、再定義!!
火薬代の……重みを……その、えっと……
身に……刻みなさーーーーーーーい!!!(裏返る声)」
あまりに「ズレ」すぎたエヴリンの魂からの咆哮。
それはもはやラップではなく、聴く者全てを狂わせる「音の暴力」だった。
瀕死の三人衆。
引き攣ったまま固まるフェリクスと、天へ昇りかけのカイルの二人組。
そして、仁王立ちして胸を張る、エヴリンの勇ましい姿。
彼らの対決は、既に決まっていた。
「……な、なんだこのリズム……。」
「これぞ、極めしものの、共感性羞恥心の威力か……っ!」
「俺、故郷に帰るよ……母ちゃん……」
この予測不能なリズムの乱れに我を見失う。
そして、とうとう足をもつれさせて崩れ落ちた三人組は、事実上敗退となったのだ。
「お嬢……それは、ない……」
ふと呟かれたカイルの重低音。
浴びせられる彼らの言葉。
静まる場の空気。
そこでようやく、エヴリンは正気を取り戻した。
「なっ!ななっ、んな……っ!?」
自分が今、世界で一番「リズムに乗れていなかった」という客観的な事実に、ボンと顔面を赤く染めた。
「何故、私の人生、毎回毎回、こうなるんですのーーーーッ!!」
ジャンク通りに響き渡るエヴリンの絶叫。
それは、いかなるラップのライムよりも鋭く、そして最高に「音痴」な余韻を残した。
意図せず不穏な影を撃退し、強引に終幕を下ろしたのであった。
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ノアの観測記録(Log-028B)
【観測】 ジャンク通りにおける「第1回リトニア杯・ラップバトル」の終結を確認。
【分析】フェリクスの「合理的な韻」とカイルの「生理的限界の重低音」が、一時的に敵を圧倒。
【補足】お嬢様の後ろで侍従兄妹は、「これぞ独創性の勝利!お見事な福音です!!」と感動に泣き崩れ、勝利を讃えていたが、お嬢様には聞こえていなかった模様。
【結論】 お嬢様の「リズムを無視した再定義(音痴)」は、既存の音楽理論では解析不能な「広域殲滅兵器」である。
……なお、お嬢様の赤面を確認、冷却を推奨。
【活動報告 / 後書き用】
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。
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