第27話:再起の儀式③
安静(という名の軟禁)を耐え抜いた私の手に、一本の小瓶が握られた。
そう、あの禁断の儀式が再び幕を開けた。
「……仕上げですわ。クロード、例のブツを!!」
「承知しました。……さあ、お嬢様、一気に飲み干して再起動を」
カトレアが更に調合を重ね、効果を薄めた『RE・ポーションD(軽量版)』
「元気ぃぃいいい!!!!」
「いっぱあぁぁああああい!!!」
私たちの声が宿の壁を突き抜ける勢いで響いた。
(羞恥心より回復が先。非効率よりも効率ですわ!!)
私はこうして一歩大人の女性、淑女としての一歩を確実に踏んだ。立派な成長である。
「……さて。お母様の言いつけ通り、『休養』はバッチリですわね」
腕を組み、小さく数度頷く。
「では、明日には街へ繰り出しますわよ!!」
疲労の抜けた身軽な身体に私はにんまりと笑った。
◇
――エヴリンの方向性の間違えた成長の一歩を進めたその頃の裏側。
宿の片隅、月の光すら届かない薄暗い自室で、ノアは一人、ブラック・ボックスと対峙していた。
「……解析開始。……魔力回路の展開。ーー箱の開封」
ノアが指先から細い魔力糸を伸ばし、箱の表面へと滑り込ませる。
モノクル越しの視界には、瞬時に膨大な演算が流れ始めた。 だが、その数値はノアの知る「魔導工学」の範疇を遥かに逸脱していた。
「…………っ、これは」
モノクルに映し出されるのは、理解不能な古代文字の羅列。
――Warning: Unauthorized Access Detected.
(警告:未承認のアクセスを検知)
バグだらけの文字が、ノアの視界を「白」く埋め尽くす。
「……異常を感知、侵入は中断。現地点の表層部で、これですか」
不連続な波形。解析不能なエラー。
「古代文字……不勉強でした」
タラリ、静かに背に伝う一筋の汗。
「――全く、理解が出来ない。解析も、現状不可能」
不気味なまでの静けさ、そして――。再び現れたのは、視界を覆う古代文字の一文。
【ACCESS RESTRICTED BY PROTOCOL】
(プロトコルによりアクセスを制限)
網膜を焼くような「赤」が眼前に飛び込む。
――ゾクリ、
本能が告げる異常の警鐘。悪寒が背筋を通り、脳の先まで突き抜ける。
――Warning: World-Script Decryption Prohibited.
(警告:世界記述の解読は禁止されています)
警告の「白」、そして――。
【Redefinition: Impossible】
(再定義:不可能)
【Do Not Gaze into the Abyss.】
(深淵を覗くな。)
拒絶の「赤」が視界を埋めた、次の瞬間。
――バチンッ!!
何かの意思を持って弾かれた。
「……っ、は……」
チリッと焦げ付くような指先への痛みに、思わず手を引く。
そして、無意識に止まっていた呼吸を整える。
(「古代の叡智」などという生易しいものではない。まるで世界の理そのものが「バグ」を起こしているかのような……)
痛む指先もそのままに、一つの要素も取り逃さぬよう、ノアは観察を続ける。
「……これが、古代のオーパーツ……僕には、手に余る代物ですね」
平常時は淡々とした声が、今ではほんのわずかに震えていた。
ブラック・ボックスは沈黙を保ったまま、ノアの指先に小さな痛みを与え続けていた。
【次回予告】
『第28話:自由の身と不穏な影①』
お嬢「ドリルで穿ってハンマーで叩き直しますわ!!」
【活動報告 / 後書き用】
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※本作は作者の妄想・パッション・ロマンで構築されています。
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