第27話:無慈悲な目覚めの代償
「――予算は有限。だからこそ!」
「この一撃に、制限なんてありませんわッ!!」
ーードォォォォォォォォォンッ!!!
純白の閃光が広間を包み込む。
そして、光が収まった後。
効率が悪すぎだと笑いながら、ノアの手を引く仲間たちの姿を最後に、薄らぼんやりする私の意識は、そこで途切れた。
◇
(……終わった?)
(……生きてる?)
ーーああ……私、生きてるわ。
意識が、ゆっくりと浮上する。暗闇から柔らかな光が差し、視界が開く。
そこには、『女神のように銀髪の美しい女性』と、その隣に並ぶ『静かに包み込む銀髪の美しい男性』の気配。
――まるで、御伽話の神が二人、私を迎えに来たみたいで。
(ここはきっと、極楽……天国だ)
……けれど、その夢を乱暴に引き裂く存在がいた。
それは、突如背後から心臓を直接握りつぶすような、まるで魔王の如き覇道が吹き荒れたからだ。
「ヒエッ!?!?!?」
私は情けない叫び声を上げ、跳ね起きようとして――全身の筋肉痛に悶絶した。
「いだっ!! あいだだ!!! 痛いですわあああ!!!!」
全身を刺激する強烈な痛みにより、完全に覚醒した私の意識に、ありがた迷惑な起床の到来である。
「一体何が起きていますの!?ここは……宿?私は……また筋肉痛ですわ!!」
混乱状態の私は絶叫を上げたまま、短く唸ってはボロボロと涙を溢す。
そこへ部屋の奥で待機していた2人の陰。カトレアとクロードが何事かと勢い良く駆け寄って来た。
(一体何が起きて、どうなっていますの……?)
いや、それよりも、まずは目の前のこの理不尽な目覚めを引き起こした原因の対処が先だ。
視線の先には、これ以上ないほど『キラキラとした不穏な笑顔』を浮かべるレオンの姿があった。
「……お嬢様。あの自爆装置を穿ち抜いたドリル……。あれには、このレオン、心底胸を打たれました」
レオンが芝居がかった仕草で胸に手を当て、眩いばかりの笑みを向ける。
「ちょっと貴方、その覇気止めてくださる!?鳥肌が止まりませんわ!」
「おや、それは失礼しました。お嬢様に非常に感銘を受けたものですから、つい気が昂ってしまいました」
レオンから放たれるオーラと視覚情報からの圧に、私は再び意識を『強制終了』したくなる。
だが、そんな私の小心者な気持ちなどお構いなしに、カツカツと靴音を響かせベッド脇に控える。
「ところで、私の武器の新調、勿論経費でしてくれますよね?」
そして、私の前にある包みをそっと取り出された。
それはレオンの象徴でもある大剣『無骨』の成れの果て。
(ああ、やっぱりあの時に折れたのは夢ではありませんでしたのね……)
ボロボロになった刃、半分以下に折れた刀身。レオンが手にするのは騎士の命とも言える武器だ。早急に手配をしなければならないのは事実。だがーー。
「それより、もっと先に私への気遣いの言葉や、優しさを向けるという、人としての思いやりは皆無ですの!?」
「ですが、剣が無ければ騎士としての護衛は勤まりません」
確かに言ってる事は真っ当であるものの、レオンは情緒をすっ飛ばして来る。
しかも、正当な言葉で逃げ道を完全に塞いで来ているとは、私の性格を完全に理解した立ち回りだ。
「それでお嬢様。私の武器の新調は如何なさるおつもりで?」
「そ、それは……早急な手配を善処ーー」
「お嬢様のあの執念、いえ、情熱を拝見して、私は確信いたしました。この『断頭台』でさえ、お嬢様の『再定義』にはついていけない……」
レオンの低音が静かに落ちる、そしてーー。
「次は、予備の刃はもちろん、さらなる拡張性を持った『最高級の素材』が必要だと。……そうですよね、お嬢様?」
表情を張り付けたような、満面の笑みを浮かべるレオン。そこに邪気など一切感じさせない、いつも通りの爽やかな笑みで締める。
何ら変わらない日常の一コマ。
理不尽と正論のコントラストに、私は理性よりも先に感情が揺れる。
「だからいつも言っているでしょう……」
ふつふつと湧き出す怒りが一気に溢れ出す。
言葉を詰まらせることもなく、自然と言葉が出て来た。
「我が家は鍛冶屋ではなく、魔導具師!!しかも、ただの魔導具師ではなく、『国家一級魔導具師』ですわよ!?魔導回路を組み込めはしても、剣という本体の武器は作れませんわっ!!!」
「だからこそ、共同開発として、馴染みの鍛冶屋と連携を取っているのでしょう?」
特殊な素材という事もあり、鍛冶屋も急ぎ製作はしていたのだが、出発段階には間に合わなかった。『無骨』自体が、折れる事を想定していなかった。
これは我が家の落ち度である。更には監督責任としての私の立場もある。
私は項垂れ、肩を落とした。
「……はい、流石に、私の分が悪うございました。大変申し訳ございませんでしたわ……」
護衛の専用武器は完全に我が家持ちの私品。
つまり、我が家の負担する費用は馬鹿にならない一級品。そこは是非削減に協力して欲しい所なのだけれど。
(……まあ、無理ですわね。装備をケチって命を粗末にするような愚か者は、この中に居ませんわ)
レオンの剣が完璧だったからこそ、あの悪夢のような壮絶な戦いに勝てたのだ。感謝こそすれど文句など一言も無かった。
私は言い訳の余地もなく、冬眠をする動物のように縮こまり、涙ながらに予算投入を誓わされるのだった。
「護衛騎士様も責任は感じてるんだろうけどさ、ちょっと意地が悪いんじゃね?ほら、お嬢を詰めるのはそれくらいにしてやんなよ」
レオンと私の会話に突如として乱入してきた軽快な声。
包まったシーツの隙間から顔だけこっそりと突き出し、声のする方へと視線を向けた。
「ま、武器が壊れたのは誤算だけどさ。生きてるし結果オーライでしょ」
扉の壁に寄りかかり軽く手を振るフェリクスだった。
「フェ、フェリクス……! 貴方、なんてお優しいの……!」
私が感動に瞳を潤ませた、その直後だった。
「――そもそもさ、現場判断できない“技術バカ”に全部任せたら、そりゃ事故るって。むしろよく生きてた方じゃね?」
ーーピタリ。
空気が固まる。
言い合っていた私たちの口も閉じた。
ぐうの音も出ないとは正にこの事。
全員の視線が静かに落ちた。
そして続く無言に、私はそっと身動ぐ。
(き、気まずいですわ……)
「……あ、あの、皆様? 私、もう十分反省しましたから。ね? 」
その空気を変えようと、私は声をかける。そしてーー。
「だからその……この『ブラック・ボックス』を解析して、今回の赤字分を是が非でも回収できれば……と思うのだけれど」
私が震える指先で、ノアの抱える箱を指差した、その時。
「……ああ、お嬢様。奥様より伝令が入っております」
クロードが、一切の感情を削ぎ落とし無情なまでの温度のない声で告げた。
「『宿で休養を取った後、直ちに帰還すること。そして、何があっても――『ブラック・ボックス』の開封は禁止する』……とのことです」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
命懸けで自爆装置を止めた報酬は、「お預け」。
私は涙ながらに、再び布団の中へと沈み込み、自主的な安静を遂げるのであった。
ーーーーーーー
ノアの観測記録(Log-027-A)
【観測】: 古代遺物の強制終了を確認。
【結果】: 対象(お嬢様)の精神状態は「安堵」から「現実認識」へ急激に遷移。
【要因】
・レオン:経費請求(自然体)
・フェリクス:正論による精神破壊
・奥様:完全封鎖命令
お嬢様への甘い報酬は存在しない。……奥様の先手必勝です。
【活動報告 / 後書き用】
定期更新日は水・金の18時です。
【※調査団のパトロンになりませんか?】
「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、
ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!
作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。
どうかエヴリンたちの物語を応援してください!
ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。
(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。
多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




