第21話:深淵の礼拝堂とその守護者
再び相対する巨大な門前。
「――さあ、出発ですわよ!!」
腰に手を当てビシッと指先を扉へ向け、高らかに宣言する。リトニア調査団の現場指揮者としてのなけなしの威厳、そして、隠しきれない「技術者としての古代技術に対する未知なる好奇心」が私の思考回路を刺激する。
3日前に起きた悪夢のような、『回復儀式』に悶絶していたとは思えないほどにすっかり全快だった。
「……お嬢様、切り替えのタイパ早すぎ。俺ならあんな屈辱、3日程度じゃ消去できないんだけど」
フェリクスの軽薄なツッコミを華麗にスルーし、私は各自の装備を最終確認する。
「ノア!現在の全員のステータスと、戦力の再確認を!」
「……了解。簡易フォーマットで出力します」
ノアはそう呟くと、懐から愛用しているメモ帳を取り出し、真っさらなページを開くと、カリカリとペンを走らせる。無駄のない動きで数行を書き上げ、そのまま私へと差し出した。
【戦力評価:外部基準換算】
レオン:S――前衛。高出力戦闘。耐久・攻撃ともに規格外。
カイル:A(条件次第でS)――後衛狙撃。高精度射撃。
ノア:S――防御・解析担当。全体支援。
クロード:A――撹乱・強化支援。
カトレア:B――状態操作・補助。
フェリクス:B――遊撃・近接護衛。
※備考:実測値との乖離あり
……ポカン、と口を開く。が、そこは淑女の品格として即座に閉じる。
(分かっていた事だけれど、この戦力……あまりにも過剰設計ですわね)
箱入り娘の魔道具師が、古代遺跡にいることがそもそもの間違い。令嬢が来る場所ではない、と今更ながらに実感する。
(家族が心配してくれているのは、心強くて有り難いのですけれど……)
フェリクスが参入したことで、さらに上積みされただけだった。しかもこれ、物語で言うなら最終決戦クラスの火力。――まさに完結に相応しい布陣である。
(例えるなら、勇者のレオンを筆頭に、それを支える錚々たる仲間たちと『マスコット枠』というおまけの私……あら? これ、ラストシーンではなくて?)
対する私はというと、相変わらず非力なまま。冒険者でも最低ランクが取れるかどうかだ。不安材料でしかない為、ノアとフェリクスによる、鉄壁の護衛を任せつつ――大人しくしている、予定だ。
「お嬢様、それではこちらに配置してください」
ノアに促され、私はリトニア号の客室――安全圏へと飛び込む。その脇に、『とりもちくんバズーカ・改』が鎮座する。この調査期間の合間に地道に改良を施し、足止め兼、自衛目的としての使用が許可されたのだ。
(気弱になっていても仕方ありませんわね。ーーさて、ここからは一気に、気を引き締めますわよ)
決意新たに私はグッと腹に力を込める。そして、車内マイクを握り、外のレオンへと指示を飛ばす。
「レオン!今こそ扉を開く時ーー全力で古代の神秘を、貴方の『物理法則』で目覚めさせてあげてちょうだい!!」
「お嬢様の仰せのままに」
扉の前に待機していたレオンが、閉ざされたままの扉に片手を添える。瞬間、彼の黒革ジャケットの袖口が激しく波打った。かつて山を崩壊させた禁忌の出力――『物理強化回路』の開放。
――バーーーーンッ!!
抵抗という概念そのものが、暴力的な魔力の衝撃波によって、文字通り吹き飛ばされる。
「……推定火力、120%。扉の損害率、”0”。――異常値を確認」
「流石、古代の技術ですわね。……私の技術力と、レオンの最大火力をもってしても、損害を与えられないなんて」
(だが、そこまでは予想の範囲内。最悪――扉が開かないという事態だけは回避できたのなら、上出来ですわ)
それだけで、この扉が“異常”であることは確定した。今後、想定外の事象が発生する可能性は極めて高い。
それでもなお――ここで調査を続行すべき“理由”がある。
(こんなものを偶然見つけてしまった。しかも、この扉の“封印”を解いてしまった以上――これを開けっぱなしにして、他国に調査されたらどうなる?)
少なくとも、ここに何があるのか確認だけはしておかなければならない。その後は王家に委ねればいい。
私たちの目的は攻略ではない。あくまで『調査』だ。そこは、決して履き違えてはならない。
「……では、気を取り直して。安全第一、命優先――行きますわよ!」
扉の先――そこは、教会のような静謐さが支配する広間だった。壁面には精緻なステンドグラスが並び、外部の光など届かぬはずの地下で、不気味な蛍光を放っている。
完璧な造形。だがそこには、狂気にも似た“異質”が、密閉されていた。
まさに、圧巻の光景。
無意識に、胸元を強く掴む。古代遺跡に入った時から感じていた微かな魔力の不調――その正体が、ここに“ある”。
「……全部が、古代の魔法陣で構成されてる」
フェリクスの指摘に、カイルが僅かに眉を顰める。ノアは既に解析を始めているが、そのあまりの複雑さに、解析不能を吐き出す。
「解析不能……詳細は不明。ですが、この空間自体が、一つの実験室のような造りをしています」
先行するカトレアとクロード。高所を取った私とノアは、広間全体を俯瞰し見渡す。各自が最大警戒で持ち場を固める中――影の奥で何かが動き出す気配を視認した。
広間の最奥。司祭の演台のさらに奥の大きな岩陰。その前に虚空に浮かぶ、光を拒絶する漆黒の立方体が、そこにあった。大きさは私でも両手で運べる……あの器の中身に最適なサイズだった。
目が離せない。
浅くなる息。
気づかぬ間に詰まっていた息を吐き出した。
「……あれは、『古代遺物』の一つですの……?」
何かの意思に誘われるかのように、一歩を踏み出そうとした、その時。浮遊する箱の両脇に鎮座していた、『二体の騎士像』が、不気味な歯車音と共に、“強引に”駆動した。
「――全員、一旦退避!! 距離を取れ!」
カイルの叫びと同時に、クロードが咄嗟に動けない私を抱きかかえて後方へ跳ぶ。砂埃の中から、軋む音と共に“せり上がった”のは――巨大な岩壁そのもの。
「あれは……まさかっ、古代ゴーレム!?」
「不明。既存データと一致せず。――つまり、未知です」
実物など一体何年、いや何百年と見かけることすらない、「古代ゴーレム」。文献上でしか存在を確認したことのない、未知なる生命体。理解できない存在を前に、私の指先は震えた。けれど、この震えは恐怖だけではない。
(解き明かしたい……いいえ、今はそんな場合ではありませんわッ!)
「各自警戒を怠るな……っ、何か来るぞ!」
空間が軋む音。魔力そのものが“質量を持って”、押し潰そうとしてくるのを感じた。嫌な汗が一筋背を流れ、萎縮した全身が強張る。それを察したカトレアが寄り添い背にそっとを手を添える。クロードの冷静な瞳で私を見据える。
「お嬢様。貴女なら大丈夫です。いつも通り、どうかご指示を」
しかし、立ち止まることは現場では命の危機に直結する。歯の根が恐怖により噛み合わない。ぐっと奥歯を噛み締める。
(大丈夫、これは“現場”ですわ。戦場ではなくて、いつもと同じ――だから)
「……カイル、狙撃準備! レオン、前線維持! ……フェリクス、ノア、私を護りなさい!」
(今はこの現場を預かる身、そう、だから……私が責任を持って、彼らの指揮を執る)
バズーカを構え、震える指をトリガーにかける。戦うのは最終手段。だから、私は逃げの為の最適解を即座に組み立てる。
この未知の圧力を前に――温い選択肢は、もうない。
「……撤退を優先しなさい。――生き残ることが、最優先よ!」
足止めのための一撃を、全力で放つ。
(――逃げ切れる保証は、どこにもない。……それでも!)
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ノアの観測報告(Log-021)
【対象】 未知の古代ゴーレム2体。
【魔力圧】 既存の魔導書の定義を上書き中。
【結論】 殲滅よりも、足止めによる「戦略的撤退」の期待値が最高。
……戦闘開始まで、猶予なし。
【活動報告 / 後書き用】
定期更新日は水・金の18時です。
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。
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