第18話:地下の洞窟と業の声②
リトニア号は一行を乗せ、地底へと下っていく。
ーー岩盤に囲まれた洞窟めいた通路。
地面は荒く削れ、緩やかなスロープとなって続いていた。暗闇に閉ざされているわけではない。
壁面には数百年前の文献で見たことのある古代式の魔導松明が、一定間隔で並び、今も淡く灯り続けていた。
「原始的な松明というのも風情があって良いものですわね……」
ロマンに浸りたい所だが、流れる風景とともに過ぎ去るばかり。その上、じっくりと思うように観察が出来ずに確信は得られない。だが、この松明あるという事実だけで、時代は凡そ予想出来る。
「今ではこのような旧世代の光源はなかなかとお見かけしませんからね」
「そうなのよ!……ああ、この先に一体何があるのかしら!!」
私の心と同じように、松明はオレンジ色の炎が温度を上げて赤く照らす。
胸の高鳴りを抑えきれず、興奮気味に私は窓へと顔を近づけその光景を映した。
そわそわと身の落ち着きのない私、カトレアが宥めるように紅茶を差し出し、私はそれを一口飲んで行く。
(せめて、先ほどの円盤のような安っぽい賞与ではないと思いたいのだけれど……)
ほっと息を溢し落ち着きを取り戻し、ソファの背もたれに身を沈ませる。私の願いを祈り乗せてたリトニア号。
まるでこちらを誘い出すような一本道の洞窟を、順調に平穏になだらかに進んで行く。
そして辿り着いた先にあったのは――行き止まりだった。
「……いき、どまり……?」
洞窟の中央で止まったリトニア号、その前で私は愕然と立ち尽くす。
「古代の技術は……古代のお宝は、一体どこに?どこにありますの……?……っ、ああ、私のロマンが……!!これまでの苦労は、一体どこへ……っ!!」
夢がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
私はその場にずしゃりと膝をついた。やり場のない怒りが込み上げ思わず衝動的に土壁をドンッと殴る。
叩きつけた拳からジーンと痺れ、即座に熱い感覚が走る。
ーー痛い。現実だ。
「ああっ、お嬢様の清らかな御手に汚れが!傷が…!!今すぐ手当を……!」
「爆破しましょう、立ち塞がる愚かな土壁など、崩壊させれば良いのです」
救急箱片手に私の手を取る献身と、爆弾片手に私の前に立つ物騒な献身。安定の侍従兄妹に挟まれる私は項垂れる。
(……だめよエヴリン。この二人の空気に飲まれて勢い任せに進んでは。特にクロードに優しさを見せた瞬間、過剰思想で全てを無に帰そうとしますわ……っ!)
想像するのは、聞いたこともない不穏な聖歌をデュエットしながら、兄妹がこの場を爆破する光景。今までの魔物たちより遥かに恐ろしいと、私は小さく身震いする。
(ここで立ち止まるの?あの王子に命じられれた時点で、予算が動いていますのよ?それを無駄に使い込むだけ使って、行き止まりの洞窟を見つけただけだなんて、釣り合わない結果ですわ)
嘆いていては何も始まらない。開発と同じく、諦めてしまうにはまだ早い。物理的な痛みで薄ら滲む涙を堪え、バッと前を向くと私は立ち上がり、待機していた護衛達を見渡す。
気合いを入れるように息を静かに吸い込み、肩の力を抜く。仕上げに腹筋に力を入れれば、指先を壁へと向け指し示す。
「皆様、調査開始ですわ! 泥に塗れることを恐れては、真実は解明できませんわよーっ!」
洞窟に響く私の号令の合図。
ーーかくして、一行の泥臭い調査が始まった。
洞窟はどこを見渡しても土壁、何の変哲もない、ただの岩であるのは目視で分かる。
しかし、それでは説明がつかない現象があった、あの女神像の意味、ギミック。
そして、ここに何かを隠していると言わんばかりのーー魔力の揺らぎ。
「検知不可……、確かに揺らぎは感じます。ですが…計測機器にはどれも引っかかりません」
「でしょうね。だからおかしい。……私とノアは感じるのに。他の皆が体感でも分からない、というのも不自然ね」
「……同意です。スキャンには限界があります。……お嬢様、現在この場での異音は検知されていますか?」
「音……んー、ダメね。何も聞こえませんわ。魔導回路のノイズなら、目で見なくとも分かりますのに……」
「表層での異音は感知不可能……承知しました。調査の続行を提案……土壁の裏側、物理的な内部調査を推奨します」
本格的な調査には些か数が足らないのもあるだろう。リトニア号に詰め込んだ計測機器。
数にも限界があるが、最新のものを詰め込んだのだ。それでも尚、魔力の揺らぎに関する異常の手がかりがない。
という事は、ノアの言うとおり、この土壁のもっと裏に何かが隠されていると考えるのは妥当だ。
「ふむ。それならお嬢様のドリルで、その壁ごと『再定義』してしまったらどうですか?」
ノアと二人話し込んでいたら、それに続いてレオンが提案の言葉をかけてくる。
深く考え過ぎていても確かに進まない。しかし、問題はあのドリルである。
今まで散々やらかして来たあの『ボーラー様』。数々の忌まわしい記憶と、その記憶と共に引き摺られて出てくる全身への筋肉痛。
引き攣った顔をしていただろう。レオンは構わず、「まあまあ、物は試しですから」と言いながら背をそっと押し促しかける。
「まあ、確かに理屈は分かりますわよ……元々は掘削用ドリルですし、本来の用途と考えたら、アリですけれども……」
渋々と軍手を嵌め、カメオをリボンから外し魔力を流す。少量ずつ、ゆっくりと注ぐ。
淡い光がカメオに吸い込まれていき、リトニア家に伝わる応援ボイスが響く。
重みがずっしりと両手にかかる、ドリル形状化した『ボーラー様』の登場だ。
『ーー来た来た来た!出番が来たぞ!!』
キィイイイン!
耳を突き抜ける高音にヒクリと口端が上がる。けれど今は怖気づいている場合ではない。
「今回は暴走はナシですわよ!」
規定値以上を出さないよう感情の荒ぶりも抑え、私は土壁を削り始めた。
ーー幾度目かの穴掘り、残り時間は後1分。
時間制限に焦りを感じつつ、4つ目の穴が空いた所で、ノアがついにその地点を発見した。
「隠蔽回路の確認。……軸はそのままに、一気に穿って下さい」
「……よし、行きますわよ!ボーラー様!!出力全開!!」
『物理で解決だぁぁあ!!』
ーーキュィイイイイン!!
ドリルの回転数が12,000回転に達する。
私は覚悟を決め、リボンの巻かれたグリップを力強く握りしめる。
そしてーー全身の体重を乗せて押し込んだ。
――ズガァァァァァンッ!!
崩れ落ちる土壁。もくもくと舞う土煙と砂埃り。
(私、いつから土木屋になったのかしら……)
ほんの少しの現実逃避。
視界が開けた煙の向こう側、土壁が崩れた先に見えたのはーーくすみがかった青色。
全貌をルミナスワイドの光が照らす。巨大な錆納戸色の扉が、私たちを見下ろしていた。
「……一体、これは何なんですの……?」
私の呟きと共に、物語はさらなる深淵へと加速していく。
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ノアの観測記録(Log-018B)
【観測】お嬢様の穿孔行動時、リトニア家由来の音声支援を確認
【記録】フェリクス「呪いレベル」/カイル「リトニア家の業」と発言
【分析】精神高揚効果あり。同時に理性抑制の兆候も観測
【結論】支援ではなく“侵食型バフ”の可能性
……なお、『ボーラー様』は極めて楽しそうでした。これは呪いという名のバグの可能性有り。……観測します。




