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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ! 〜国家一級魔導具師が、古代遺跡を調査しますわ!〜  作者: 雪見もち子


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第16話:贅沢なソロキャンプ

「ああ、これですわっ。この『一人一テント』という究極のパーソナル・スペース……! これこそがリトニア流、遺跡探索の流儀マナーですわね」



うんうんと満足そうに頷く私の後ろには、カトレアとクロードが控えている。



「流石リトニアの技術力です、お見事ですわ、お嬢様」



「これぞまさに、お嬢様の経典の一節に相応しい、至高の機能美……!」



二人は手放しに褒め称えてくれるが、私のふとした天才的閃きをリトニア商会の開発部門が社運を賭けて形にした魔道具だ。



その名も『全自動・魔導遮音テント』――なお、三度ほど医務室送りになっているが、品質には一切影響はない。



主に中堅冒険者向けに販売されているこのテントだが、雨に強く、ちょっとした火の不始末程度なら防ぐ防火対策も万全だ。



さらに、現場の声に応え、豪快なイビキはカットしつつも、外部音を選別し、危険信号のみを通過させるという、絶妙な調整が施されている。



中堅冒険者が数回の依頼を完遂すれば手が届くお値打ち価格。この完璧な環境構築セットアップこそ、まさにリトニ家らしい美学。



「フェリクス、貴方の持ち込んだ食材、三分の二までなら消費を許可しますわ。明日の朝食も、期待を込めておりますわよ!」



「……へいへい、そこはお任せを。ただし、お嬢サマは寝言で設計図書くのはマジでダメだからね?脳のリソース消費激しすぎてタイパ悪すぎるから、しっかり寝てほしいわー」



フェリクスが大きな欠伸を噛み殺しながら、自分のテントへと消えていく。



「定時退勤」をモットーとする彼にとって、食後の片付けを「効率的」に終わらせた今、これ以上の残業は心情に反するのだろう。



遺跡には魔導ランタンの人工的な光と、微かな駆動音だけが静かに残された。



「カイル、前半の哨戒は私が引き受ける。貴方はお嬢様の馬車の外装に付着した泥でも拭いて、しっかりと愛車をメンテナンスしておいてください」



レオンが自身の愛剣を膝に置き、焚き火の傍らで優雅に告げる。



微笑を湛えているが、言葉の端々には規律に縛られる者を弄ぶような慇懃無礼さが滲んでいた。



「……性格の悪さが口に出てるぞ。お前が何と言おうが、俺には関係ない」



カイルが忌々しげに吐き捨てる。「リトニア家の『規律』には周囲の清掃も含まれている」とは彼の談だ。



「……お嬢、何かあったらすぐに叫べよ。……まぁ、その前にそっちの侍女が、敵を塵も残さず掃除(粛清)してくれるだろうが」



私は要護衛対象ということで、テントではなく魔導馬車『リトニア号』の車内泊となる。



唯一の紅一点である侍女のカトレアが同室で警護にあたることになった。



どこかつやつやとした顔つきのカトレアを背に、カイルが呆れたように馬車の影へと消える。



こうして、各々が「贅沢な孤独」の中へと沈んでいった。





ーーしかし、この静寂はリトニア家の裏側で作られた「計算済みの平穏」に過ぎなかった。




馬車の傍ら、ランタンの灯も届かぬ暗がりに、クロードは微動だにせず立っていた。



そこへ、影が溶け出すようにしてノアが歩み寄った。



「……ノアか。今夜の報告か?」



ノアは懐から、フェリクスが追加物資と共に持ち込んだ数通の手紙を取り出した。



家令リチャードの筆跡による、奥様からの親展だ。



「奥様方からの通達です。辺境伯領地で”不穏な影”を確認。遺跡の調査継続は許可。

ただし『遺物オーパーツ』は発見しても危険度不明の為、解析は厳禁。帰還後にとの事です」



ノアが淡々と告げる中、手紙の内容を確認するよう、一枚ずつ目を通していく。



そして、最後に書かれていたクロード宛の追伸の一文。



『あの子を甘やかさないでね』ーー奥様からの釘刺しに、クロードは手紙の封蝋を指先でなぞり、数秒の沈黙の後、低く応じた。



「……確認は済んだ、お前もそろそろ休め」



ノアが去った後、クロードは独り、遺跡の闇を見据える。



「……お嬢様。貴女の好奇心を守るために、私は貴女の好奇心を否定せねばならない。

……これこそが、最上級のバグですね」



クロードはテントにかかる魔導ランプの光を弱めると、静かに中へと入っていった。





ーー同時刻、馬車の中では。



微かな魔道具の駆動音が混ざり合う空間に、”不穏な影”があった。



「私は、専属侍女として、世界で一番幸せな歯車でございます。お嬢様の寝顔を、この距離でお守り出来るなんて……。

ああ、今なら素手でドラゴンの首を撥ねられそうです……っ。ええ、もちろん、お嬢様に危険が及ばない範囲で」



「……カトレア、先程から何やら不穏な事をブツブツと、怖いですわよ……。ほら、静かに寝なさいな」



エヴリンの睡眠を最優先したソファの向かいで、カトレアが恍惚とした表情で同じくソファに横たえつつ身悶えている。



これもまた、リトニア家における平常運転エラーの一例である。




ーーこうして夜は、静かに更けて行くのであった。




ーーーーーーー


ノアの観測記録(Log-016)


【環境】『全自動・魔導遮音テント』により睡眠環境は最適化。外部ノイズは適切に遮断済み


【警戒】辺境伯領にて不穏な動き有り。現時点で遺跡内への影響は未確認


【内部】カトレア、お嬢様の至近距離にて過剰警護(物理・精神ともに)を実行中



……クロードの精神負荷、上昇傾向。命令遵守と忠誠心の競合を確認。『要監視』

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